或る日のディストピア飯

酒月うゐすきぃ

或る日のディストピア飯

施設しせつ”の食事はひどいもんだった。

職員共しょくいんどもはこぞって「栄養価えいようかは高いから」などとのたまっていたが、生きる楽しみでもあるはずの食を、栄養補給えいようほきゅうとしかとらえないなんて人としてどうかしているとしか思えない。

ある日の食事をり返ってみようじゃないか。

この日が特別ひどかったわけじゃない。

毎日がこのレベルで、ありきたりな1日を選んだだけだ。


憂鬱ゆううつな朝をより暗澹あんたんたらしめるのが、毎日のように出されるこの固形食こけいしょく

四角く成形されたそれには水分が一切なく、咀嚼そしゃくするたびに口の水分が奪われ、まるで熱を持つかのような錯覚さっかくさえする。

「せめてこれで口の中をうるおして」と言わんばかりのどろどろとした液体も気に入らない。

原料や味を誤魔化ごまかすためだろう、元の形がなくなるまで煮込まれた挙句あげく、異様に熱い状態できょうされる。

朝一あさいちにこいつで舌を火傷やけどさせて、俺たちの味覚みかく麻痺まひさせたいんだろうか。

溶け切った具材のわりのつもりだろうか、最初に紹介しょうかいした固形食こけいしょく端材はざいいている。

このぬるぬるとした植物も正気を疑わざるをない。

元からこういった品種なのか、あるいは劣化れっかを防ぐためにあえて加工しているのか知らないが、表面全体が何らかの粘液ねんえきのようなものでおおわれている。

加熱されていない貴重きちょうなメニューではあるものの、このぬめりのせいで口に入れるのが億劫おっくう代物しろものといえる。

ああ、こいつも気に食わない一品だ。

さっきの液体同様、形が崩れるまで煮詰につめられたゲル状の物体は、血のような色をしているせいでまったく食欲がわかない。

少量で過剰かじょうなカロリーをらせるためだろう、異様な味付けで口の中にいつまでも残り続ける。

最後はこいつだ。

こいつは食事というよりかは軟膏なんこうのようなものなので、ここで言及げんきゅうするのもおかしな話だが、トレーに乗せられているんだから話題にげてもいいだろう。

さっきの熱い液体で火傷やけどした舌や上あごに塗りこむためのもので、薬にしては気にならない味だ。

だが問題は口の中がべたべたになることと、溶けて喉奥のどおくに流れ込んできたときに胃がむかむかすること。


大丈夫か?

読んでいるだけで気分が悪くなってくるだろう。

だが安心してくれ、まだあと2食ある。

これからもっとひどくなるぞ。

じゃあ昼に行こうか。


この日の昼飯は、非常に手の抜かれたものだった。

いくらかの食材をぶち込んだだけの汁物だよ。

おそらく、悪くなりかけのやつをまとめて処理してるんだろう。

工夫をしているように見せかけているが、俺の舌は誤魔化ごまかせない。

中に入っているのは、朝の四角い固形食とまったく同じものだ。

再成型さいせいけいされて形は変わっているが、所詮しょせんは形だけ。

原料が同じなら、そう違いはない。

他の具材も、考えなしに煮詰につめられているせいかコンディションは劣悪れつあくだ。

こいつなんか典型的てんけいてきな例だよ。

食べようとフォークを刺すが、そこからどろりとくずれてしまった。

仕方しかたなしにすくように口に入れると、なんの歯ごたえもなく溶けてしまった。

このメニューの考案者こうあんしゃには、歯がないのだろうか。

他にも変色した植物だったであろうものや、臭いのきつい野草のようなものが処理もされずに乗っている。

全体をまとめる液体はやはり異様いように濃い味付けで、朝同様、信じられないほど熱い。

あとこの日の薬は、俺の苦手なものだった。

ぶよぶよとしており、まるで口の中で動き回っているようだ。

ひどく薬臭くすりくさくて、食後もしばらくは吐息といき不快感ふかいかんが続く。


さあ、もう一息だ。

ここで残念なお知らせだが、この日の夕食は想像を絶するものだった。

日中、知らずに何かやらかしてそのばつなんじゃないかってほどだ。

気分が悪くなったら、無理せず席を立ってくれ。


じゃあ、1番どぎついのからいこう。

何らかの生き物を、そのまま焼いたものだ。

想像できるか?”そのまま”だぞ。

頭もついている。

焼かれて白くにごった眼も、こちらをにらんでいる。

目を合わせないようにフォークを入れると、そこからどろりと黒ずんだはらわたが流れ出てきた。

思い出すだけで、気分が悪くなりそうだ。

他には、小さな卵の集合体みたいなもの。

群衆恐怖症ぐんしゅうきょうふしょうにはこたえるだろうな。

こいつも頻繁ひんぱんに登場するんだが、表面がべたべたしてて、食いづらいったらない。

フォークやら皿やらにへばりついてこびりついて、おまけに早く食わないとかちかちに固まるんだ、あいつら。

そして夜にもご登場、灼熱しゃくねつの汁物だ。

施設の他の連中から聞いたんだが、こいつは色々な具が入っているように見せかけて、原料は全部一緒らしい。

具だけじゃなくて、汁の味付けも同じものでされてるときた。

とんだ手抜きだよ。

まあ、言われるまで気づかなかった程度には、うまく加工されてはいるがな。

最後は、よくわからん植物だ。

その辺に生えている雑草かなんかじゃないのか。

苦い草をくたくたになるまで煮詰につめて、昼の汁物の残り汁かなんかをかけたものだろう。

書いていて思い出したが昼の汁物は多分、大量に作ってるはずだ。

毎日毎日、ありとあらゆるものにかけられている。


さて、よくここまで付き合ってくれたな。

愚痴ぐちを聞かせて悪かったよ。

この施設に入る前は、もっとまともなものを食えていたんだ。

なんだって、こんな食事になっちまったんだろうな......。

これを読んでるあんたが、俺のような食生活じゃないことを祈ってる。



~本日の献立~

◆朝食◆

・トースト

・コーンスープ

・レタスのサラダ(ドレッシングけ)

・いちごジャム

・マーガリン


◆昼◆

醤油しょうゆラーメン(トッピング:チャーシュー、メンマ、ネギ)

杏仁豆腐あんにんどうふ


◆夜◆

・さんまの塩焼き

・白米

豆腐とうふ油揚あぶらあげの味噌汁みそしる

小松菜こまつなのおひたし

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或る日のディストピア飯 酒月うゐすきぃ @sakazukiwhisky

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