魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
第1話 後悔1
フェンタニル王国との戦争が終わり我がセレニカ王国は惨敗した。国は消滅し、名前も残らなかった。フェンタニル王国に国を取られてしまったのだ。
国土を焼かれ、民は皆、殺された。
俺はセレニカ軍を率い、国を守る為に最前線で戦っていた。連絡網は破壊され、情報が前線まで全く届かなかったので、王都がすでにフェンタニル軍によって制圧されていることなど知らなかった。何も知らずただ戦っていた。
我が軍は全滅した。騎士としての訓練をいくら積んでいても、戦争の経験のない騎士達を寄せ集めた軍隊は、侵略戦争を繰り返し、戦争慣れしている、百戦錬磨のフェンタニル軍とでは力の差は明らかだった。
長い間平和だった我が国は戦争など起こるとは思ってもいなかった。平和ボケしていて有事の備えを怠った。まさか攻め込まれるなどとは本当に思ってもいなかったのだ。
「聖女が守ってくれているから大丈夫。何の心配もいらない」
我が国には聖女がいるから神に護られていると皆がそんな寝言をほざいていた。聖女など祈るだけでなんの役にもたたないのに。いや、あれは偽物だったな。やはり偽物がいくら祈ったところで神には届かなかったのだろう。
俺以外の騎士は全員死んだ。何故だ? 何故俺は死ねない。皆、同じ場所で同じように攻撃を受けたのに、戦っていたのに、俺はすぐに回復し、擦り傷くらいにしかならない。
周りの仲間が血まみれになり事切れていくのを黙って見ているしかなかった。先に旅立った皆の顔が忘れられない。ひとりになり、国に戻ったが国は跡形もなく焼け野原になっていて、死体が山のように積み上げられていた。俺は頭の中が真っ白になった。
愛するあの人はどうなったのだろう? 俺には愛する人がいた。その人はセレニカ王国の王太子妃ゾレア。ゾレアに会いたい。ゾレアはどうなったのだ? 国なんてどうでもいい。ゾレアさえ助かればよかった。国の為に戦っていたのではない。ゾレアのために戦っていた。こんなことになるのなら、ゾレアを連れて逃げればよかった。
ゾレアは本物の聖女だと言っていた。やはり国が滅んだといことはゾレアも儚くなってしまったのだろう。
出会いは学生時代だった。ゾレアは王立学校の3年の時に編入してきたのだ。最初はマナーも何もできないゾレアに嫌悪感を持っていたが、いつのまにか惹かれていた。
ゾレアは黒い髪と大きな赤い瞳が印象的な令嬢だった。父親である男爵が昔、メイドに手をつけ産ませた娘だったという。ゾレアの母親は懐妊がわかった時にメイドを辞めて、男爵に庇護されながら市井で暮らしていたが、ゾレアは母親が亡くなり男爵邸に引き取られたそうだ。
1年間、男爵家で淑女教育を家庭教師から受け、貴族学校に通うことになったと聞いた。つい1年前まで平民だったせいか、表情が豊かで距離感の近いゾレアは、取り澄ました貴族の令嬢達とは全然違っていた。
その頃、俺には家が決めた婚約者がいた。婚約者のジェミニーナはセレニカ王国の聖女であった。母同士が仲が良く、子供達を結婚させようと約束していた。そのせいで、年が近い俺とジェミニーナが婚約することになった。婚約を結んだのは俺が5歳、ジェミニーナが3歳の時だった。
ジェミニーナが王立学校を卒業したら結婚して、俺が王立騎士団で騎士になり、ジェミニーナは聖女として国の安寧を祈りながら、2人で穏やかに、幸せに暮らすはずだった。
ホワイトブロンドの髪、スミレ色の瞳。肌は陶磁器のように白く、儚げで消えてしまいそうなジェミニーナを大切にていた。多分愛していた。
それなのにゾレアに出会ってから俺は彼女のことしか考えられなくなった。ゾレアの赤い瞳に見つめられると心も身体も熱くなり、ゾレア以外目に入らなくなる。ゾレアがいればそれでいい。ゾレアのためならなんでもする。それくらいゾレアに夢中になっていた。
***
本日3話更新予定です。
よろしくお願いします。
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