この空の下で、宇宙を読む。
庵
第1話
『宇宙からのメッセージを読んでみませんか』
その文言と簡単な星のイラストが描かれたポスターに、私の目は吸い寄せられた。今日の授業が全て終わり、帰ろうとした矢先のことだった。宇宙からのメッセージ? 何それ、それを読むってどういうこと? 掲示板の端に貼られた白黒の紙に、目を素早く走らせる。
「天文部、部員が二人しかいないので助けてください……? 体験入部は四月十五日の放課後、地学室にて。えーっと」
制服のポケットからスマホを取り出し、日付を確認する。
「今日じゃん」
思わず声が出た。危ない、見逃していたら参加できないところだった。昇降口へ向かおうとしていた私は方向転換し、階段へと向かう。
この高校に入学してから一週間。もちろんまだ全ての教室を把握できているわけではないけれど、入学式の後に学校の中を案内してもらったときから地学室の場所は妙に記憶に残っていた。地学室、という単語が新鮮だったからかもしれない。
校舎の四階の端、屋上へ繋がる扉の手前。そこに地学室はあった。入口の引き戸に、手書きで「体験入部やっています」との貼り紙がある。入っていいのかな、大丈夫かな。そっと扉に手を伸ばす。
「あの、すみません」
小さく扉を開けて、教室の中を覗き込む。その瞬間、中にいた三人の生徒と目が合った。
その中の一人、長い黒髪を下の方で二つ結びにした女子が尋ねてくる。
「もしかして新入生ですか?」
私は頷く。するとその女子は少し身を乗り出すようにしてさらに訊いてきた。
「もしかして、体験入部ですか?」
「はい、そうです。えっと……天文部、の」
私がそう答えると、彼女の顔がパッと輝いた。そしてその隣にいた茶髪の男子と無言で頷き合うと、ものすごい速さで私の目の前に移動してくる。
「どうぞ、中に入ってくださいな」
「あ、はい」
その勢いに半ば気圧されるようにして私は地学室の中に入った。
薬品の匂いのする他の理科系の教室とは、少し違う独特な雰囲気。
黒い天板の机がいくつも並んでおり、背もたれのない木の椅子が机の間に無造作に置かれている。私が促されるままその中の一つに腰を下ろすと、二つ結びの女生徒が口を開いた。
「本日は天文部の体験入部に来てくれてありがとうございます。二年生で副部長の三上です」
へぇ、この人が副部長さん。彼女――三上先輩がペコリと会釈をすると、続いて隣に座っている茶髪の男子生徒が小さく手を挙げて話し出す。
「俺、二年の坂崎って言います。天文部部長やらせていただいています。よろしく。じゃあ、次は一年生たちにも自己紹介してもらおうか」
そっか、確かにポスターには部員二人だけって書いてあった。だから私の左隣に居る黒縁眼鏡の男子はおそらく一年生。彼の自己紹介を待とう、と思ったけれど坂崎先輩と三上先輩の視線がなんとなく私の方を向いたので、口を開いて名を告げる。
「一年二組の天木桜です。そんなに詳しいわけじゃないんですけど、星とか宇宙とか綺麗だし興味があったので来てみました。よろしくお願いします」
先輩二人が全力で拍手してくれる。それがなんだか少し恥ずかしくて、私は隣の男子にちらりと目をやった。拍手が止んだタイミングで今度は彼が喋りだす。
「一年三組、星野湊って言います。あの!」
彼――星野くんは名乗るやいなや、机をバンッと叩いて立ち上がった。
「『宇宙からのメッセージを読む』って、つまり……地球外生命体と交信するってことですか⁉」
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