第2話
第二話 魔術の手ほどきと新たな声
朝のティータイムと続けて朝食を取り終え、まったりとした時間を過ごしていたが、俺は直ぐにでも魔術について学びたかったので、俺を抱く母に告げた。
「母さん」
「なぁに?」
可愛らしく小首を傾げる仕草はまるで、ティーンエイジャーの少女のようで一児の母とは思えない。
「魔術を知りたいんだ。シェーラと遊んできていい?」
「魔術を?魔法でなくて?」
不思議そうに問いかてくる。
やはり魔術はあまり一般的では無いのだろう。
高度な学問に近いからな。
「そっちの方が面白そうだからね」
「んー、危険な事はしちゃダメよ?」
心配そうにそう告げた。
「はい」
「シェーラよろしくね。魔法とは違って派手な事は無いと思うけれどくれぐれも気をつけてね」
俺を下ろし背中を押してくれる。
「かしこまりました。お任せ下さい」
深々と頭を下げ一礼した。
「シェーラよろしく」
これからしばらくは彼女が教師だ。
頭を下げ、礼を述べたが彼女はそれを咎めた。
「お止めくださいルーカス様。 貴方様はこれから人の上に立つのです。 下人に頭を下げる必要はありません」
その言葉に、腑に落ちないものを感じながら、それに従った。
身分の差とは、こうまで根が深いのかね。
面倒なもんだ。
「では隣の空き部屋を使いましょう。先ずは基礎からの座学です」
そう言い部屋を俺達は移動するのだった。
そんな俺たちを、ニコニコと手を振り見送る母が見えた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
何も無い空き部屋に、椅子とテーブルをメイドたちが運び込み、その上に幾つかの教本が置かれた。
「では早速始めましょう。宜しいですか?」
テーブルの反対側に立つシェーラが、問いかけてきたのに頷き返す。
「先ず魔術に限らず魔法や精霊術も含め全ての基本は、等価交換です」
その中でも魔術はより顕著との事。
「何故なら一見して何の触媒を用いない魔法や精霊術も、魔力を消費して現象を起こすからです。無から何かを、生み出すことは出来ません」
全ての魔法は、魔力により対象に干渉し、法則をねじ曲げたり、増幅させたりすることで、現象を起こす。
長くなるので割愛すると――
魔法とは
自らに宿る魔力によって、大気中に存在する魔力の質を変え、干渉する技術。
効果は想像力に依存し、複雑な事は難しい。
人の想像力では2つ以上の事柄を同時に行うのは難しく、中途半端になり失敗、又は暴走することがある。
そのため詠唱は、想像しやすくするために行い、複雑な物ほど長くなる。無詠唱でも、簡単なものなら発動は可能。
道具等は必須では必要ないが、補助として多用される。
精霊術
自然に宿る精霊達と契約し、それに基づき力をかりて行使するもの。
術者の才能よりも精霊達の好みや気紛れであり、好かれない者には扱うことが出来ない。
魔法と違い、理に沿って行使するため、単一の力ではあるが非常に強力なものになる。反面精霊達は、移動出来ない又はしないため、土地毎に、契約し直さなければならない。
防衛には向くが攻撃には不向き。
道具等特にいらない。
魔術
緻密な計算と魔力を用いて、対象に見合う陣や文字――構築式――を描き、物質の構成や形を変えることができる。
性質の違う物を作り出すことは不可能。
必ず原材料となる物が必要であり、その物質の構成や特性を理解し、物質を分解、そして再構築するという3つの段階を経て完了する。
これ等一連の流れを、構築式に必要な魔力を流す事で発動可能となる。
準備に手間がかかり、即効性はないが色々と応用は可能で、自身の魔力が無くても他から持ってくることも出来る。
道具が必要というよりも、道具を使ったり魔道具を造ることが魔術とも言える。
――ということ。
「シェーラはどれが得意なんだ?」
そこまでの説明を聞き、ふと気になったので問いかけてみた。
「私はどれもそこそこに扱えます。 ですので、これといったものはありません」
シェーラは《メイド》ではなく、《メイジ》だったと。
冗談はさて置き、この世界のメイドは魔法に長けた存在なのだろうか?
俺の驚きを見て、少しうつむきがちに言った。
「……私には、半分魔の血が流れていますので……」
「hmm……それが? 」
あれか、有りがちな迷信的なものか?
「この世には様々な種族が存在しています。ルーカス様を始めとする基本的な人種のヒューム、自然と生活する狩人のビースト、精霊に祝福された生まれながらの魔法士のアールブ、炭坑に住み鉱石を愛する鍛冶職人のドベェルク、手先の器用な小人で細工師のホビット、そして……」
ここでシェーラは一度言葉をきり、少しの間を開けて続けた。
「そして、魔族のミディアンです。彼等は魔に魅いられ、生まれながらにして強大な魔力を保有し、身体能力も多種よりも高いのが特徴です。一説では悪魔によって産み出された、魔界の住人だとか……。
私にはその血が半分流れているのです」
そう伏し目がち告げた。
「だがシェーラはシェーラだろ?」
そう問いかけるも、大した反応は得られなかった。
所詮はガキの言葉、重みが足らんか……。まぁいい
今やるべきはこの本を理解する事だ。
何年ぶりかのお勉強と行くかね。
「それでは外で、お待ちしておりますので、何かあればお声かけ下さい」
そう言って扉へと消えた。
俺は適当な箱を椅子にし、読み耽るのだった。
・・・・・・
・・・
・・
空き部屋の静寂の中、ルーカスは古びた魔術の書物を熱心に読んでいた。
様々な魔法陣の図式や、魔力制御の理論が複雑に絡み合い、書かれている内容を完全に理解するにはまだ時間がかかりそうだった。特に、異なる属性の魔力を同時に扱う複合魔法の項になると、頭の中でいくつもの疑問符が飛び交う。
(水と火の魔力を同時に制御するなんて、どうすれば可能なんだ? それぞれが反発するような性質を持っているのに……)
そう考え込んだ瞬間、まるで頭の中に誰かが直接語りかけてきたかのように、鮮明なイメージが浮かび上がった。それは、二つの魔力を特定の周波数で振動させ、干渉させることで調和を生み出すという、書物には一切記述のなかった高度な理論だった。その理論は複雑でありながらも論理的で、ルーカスは一瞬にして複合魔法の核心を理解した。
なんだ……今の感覚は?
突如として現れた知識に、ルーカスは目を見開いた。
まるで霧が晴れるように、これまで曖昧だった概念が明確になったのだ。しかし、その知識は彼が書物から得たものではない。一体どこから湧き上がってきたのだろうか?
「理解できましたか?」
唐突に、頭の中に直接響く声が聞こえた。
まるで古びた書物のページが擦れるような、どこか無機質な音色だった。
(誰だ!?)
ルーカスは驚きで心臓が跳ね上がった。周囲を見回しても、書庫には自分以外誰もいない。シェーラはまだ廊下にいるはずだ。
幻聴か? しかし、あまりにも鮮明な声だった。
「私はあなたの中に存在する情報体です。暫定的にAlphaとお呼びください」
再び声が響く。今度は先ほどよりも少しだけ人間的な、落ち着いたトーンだった。
(Alpha……情報体……? 何を言っているんだ?)
ルーカスの思考は混乱していた。まさか本当に誰かが頭の中にいるのか? そんな馬鹿な話があるはずがない。
「驚かれるのも無理はありません。通常、私があなたと意識を共有することはありませんから」
声はルーカスの混乱を理解しているようだった。
「ですが、あなたの知的好奇心と、私が保管している情報へのアクセスを試みる意識が、一時的な接続を可能にしました」
(接続……? この声が、今の知識を……?)
ルーカスの思考は声の言葉を追いかけ始めた。先ほどの複合魔法の理解が、この「Alpha」と名乗る存在によるものだとしたら……説明がつかないことばかりだったが、同時に、言いようのない興奮が湧き上がってきた。
「あなたが書物から得ようとしている知識は、私のアーカイブの一部に過ぎません。もしあなたが望むのであれば、より深く、より広範な情報をあなたに提供することができます」
Alphaの声は、静かに、しかし確かに、ルーカスの心に響いた。それは、未知の知識への誘いであり、彼の探求心を強烈に刺激するものだった。
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