第7話
東京近郊の某研究施設。会議室には柔らかな照明が灯り、巨大な電子スクリーンには複雑な能力パラメータのモデルが映し出されていた。参加者たちは統一された服装に身を包み、表情はどこか張り詰めている。だが、東アジア系の顔立ちでありながら、室内に日本語は一言も流れていなかった。
「……α干渉因子を調整した結果、対象者のコントローラーへの適応率が短期間で37%向上しました。」
「しかし副作用も確認されています。精神的な負荷が15分を過ぎたあたりから急激に上昇します——本格導入前にこの点は解決しなければなりません。」
発言者の口調は落ち着いていたが、イントネーションにどこか微妙な違和感が混じっていた。
周囲の技術者たちは互いに目を交わしながら、沈黙の中で何かを探るように座っていた。
「政府側は……共同実験への参加を正式に決めたのか?」
ある者が小声で問いかけた。言葉にはわずかな警戒心がにじんでいる。
「大多数は賛成に回っているようだが、まだ正式決定には至っていない。中には今回の協力に難色を示している連中もいてな。どうやら裏で何かを仕掛けるつもりらしい。」
別の人物が冷笑を浮かべてそう言った。
「構わないさ。あいつらだって、自分たちの立場は理解してる。予定通り進めば、いずれすべてが整う。」
* * *
「ピピピピッ」
着信音が鳴る。表示された名前を見たマークは警戒しながら電話を取った。
「例のブツはすぐに届く。何を話していいか、何を話してはならないか、分かってるな? それと、金はすでに君の口座に送金済みだ。裏切らない限り、君には相応の報酬がある。……いい取引になるといいな。」
「了解した」
電話の向こうからの露骨な脅しに、マークは唇を噛んだ。逆らえば、ただ自分だけでなく家族にまで危害が及ぶ。あくまで「協力」という建前だが、実際には完全に脅されているのと変わらない。
机を拳で叩きつけたマークは、すぐに口座を確認した。そこには、これまでにない高額の入金が確認できた。
「……恨むなよ。俺だって選べなかった。」
「コンコン」
扉を叩く音が聞こえ、マークは我に返る。ドアを開けると、そこには見た目は普通の少年が立っていた。手には軽そうな小型のスーツケース。爆発物や危険物ではなさそうだ。
「お前、何の用だ?」
やや荒っぽい声でマークが問うと、少年は淡々と答えた。
「おじさんにこれを届けてくれって、誰かに頼まれたんだ。」
その一言で、マークはすべてを察した。先ほど電話で言われた「すぐ届くブツ」とは、まさにこれのことだ。彼はスーツケースを受け取り、少年にいくらかのチップを渡し、「このことは誰にも話すな」と言い含めた。
急いで部屋に戻り、鍵をかける。マークは深呼吸を一つしてから、慎重にスーツケースを開いた。
中には、まさに今回の依頼で必要となる資料が完璧に揃っていた。どう見ても偽物には見えない。いや、むしろ「本物のように作られた偽物」、つまりは公式が用意した偽造資料だとしか思えなかった。
マークはそれらを丁寧にしまい、電話を手に取る。
——アーセンに連絡する時が来た。
幽霊日記 @relair
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