大きな海月から君を救うまで

@Fushigii

第1話

 ある日、幼馴染の君と僕は、親や近所の人たちとの約束を破ることにした。

 それは遠い夏の思い出……



 僕は、幼い頃に両親を亡くした君と、僕の親との4人で、共に暮らしている。

 一緒に住み始めたのは、僕が幼い時だったから、最初に出会った時のことは、あまり憶えていない。

 ただ、君が泣いていたことは、記憶に残っている。

 どうしようもないくらいに。

 流れ続けるその涙に、僕はただ呆然とすることしかできなかった。

 明るく照らしたい。あの時、救えなかった君を。行き場を無くしてしまった君を。

 そんなふうに、君に特別な感情を抱くようになったのは、その日からだったのかもしれない。

 初対面で、そんな感情を抱いていたなんて知ったら、君はどんな顔をするんだろう。



 ある日の夕方、学校の近くの公園で、コンビニで買ったアイスを食べていた。

 何気ない会話の中で、真っ直ぐ僕の方を見て、君は言った。


 「どうしても"〇〇の青空"を見に行きたい」


 始めは戸惑った。

 というのも、そこは昔から大きな獣が出るから行ってはいけないと、親から、きつく言われていた場所だったからだ。

 それでも、君の顔を見ると、どうやら、ちょっとした冗談のつもりで放った言葉ではないようであった。

 その表情が、

 その目が、

はっきりと真剣さを僕に伝えていた。

 なぜか見覚えのある、その表情に、僕はしばらく時を預けることにした。


 それから僕は仕方なく、明け方には戻ることを約束にして、2人で〇〇の青空を見にいくことにした。

 新月の日、親に見つからずに家を離れ、近くの公園に集まってから青い墓地へと向かうのだと。



 決行の日、僕はまだ行くべきかどうか迷っていた。

 君との約束とはいえ、大きな獣の話を思い出すと足がすくむ。

 だが、ここで僕が行かないとなると、君は一人で墓地に行ってしまうかもしれない。


 また、君を1人にしてしまう。


 そう思うと、足に力が入るようになった。

 約束の時間には、きっとまだ間に合う。

 そっと静かに玄関の扉を開けて、閉める。そこからは、全速力で公園へと向かった。


 僕が公園に着く頃には、既に君は鉄棒に腰をかけながら、僕の到着を待っていた。

 「遅かったじゃない」

 「ごめん、夏休みの日記を書くのに時間がかかって……」

 君は、肩で息をする僕を怪訝そうに見つめる。

 怖くて、自分の部屋から出るのに時間がかかったなんて、口が裂けても言えない。

 「わかったわかった。早く、夜が明ける前に行きましょ。」

 そうして僕らは、行ってはいけないと、あれほどまでに言われた〇〇の監視区域【青い墓地】へと向かった。


 これまでの人生で、この日の決断を悔やまなかった日は一度もない。

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