20話「その小さな背中に、今すの希望が宿っていた」
「その小さな背中に、今すべての希望が宿っていた」
それは、激しい戦いのあとの夜だった。
空には雲ひとつない星が広がっていて、傷ついた僕たちを、やさしく照らしていた。
「智、起きてる?」
小さな声で、チトちゃんが呼びかける。
隣で寝息を立てているキラと千年を起こさないように、そっと耳元で。
「うん……少し、夢を見てた。懐かしい夢」
「ふふ、そう。あなたは時々、過去の景色を夢に見るのね」
僕はゆっくり体を起こして、焚き火の光に目を細めた。
その火の向こう、小さな白い影が、まるで夜の守り神みたいに静かに座っていた。
「……しろちゃん」
チトちゃんがうなずく。「ずっと、あなたの傍にいたわ。誰よりも早く、あなたの異変に気づいてた」
少しだけ、心があたたかくなる。
あの戦いの中、僕は何度もしろちゃんの背中を見ていた。
小さくて、傷ついてもなお、僕を守るように前へ立っていたその背中を――。
「……どうして、そんなに強いの?」
僕がつぶやくと、しろちゃんはそっと振り返り、
“にゃ”と一度だけ、短く鳴いた。
その声はまるで、「あなたが好きだから」と言っているようだった。
焚き火が、ぱちっ、と音を立てた。
千年が目を覚ました気配がしたけど、彼は何も言わず、再び目を閉じた。
「千年もわかってるのね、しろちゃんの存在が、
私たちにとってどれほど大きいかってこと」
チトちゃんがそっと微笑む。
僕はしろちゃんを抱き上げて、静かに胸に抱いた。
「ありがとう……僕、きっと忘れない。この背中に、すべての希望が宿っていたこと」
月が高く昇り、静けさが夜を包んでいく。
しろちゃんのぬくもりが、冷えた僕の心を少しずつ、少しずつ癒やしてくれた。
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