16話 言葉より深いまなざし



おかえりなさい、智くん。

その声が、空気をやさしく揺らした。


チトが微笑むすぐそばで、もうひとつの気配が空間を満たしていく。


「久しぶりだね、智。」


ふいに聞こえた低く穏やかな声に、僕は振り返った。

そこには――銀色の髪に、蒼い目をした青年が立っていた。

まるで星のようなまなざしをたたえて、まっすぐこちらを見つめている。


「…キラ?」


僕の声が震えたのは、記憶のどこかに彼の姿が確かにあったから。

でも、それは遠い夢のようで、名前すら曖昧だった。


チトがやさしくうなずいた。


「キラは、未来の記録を見守る者。そして智くんの“もうひとつの誓い”の証人なの。」


「もうひとつの……誓い?」


キラはゆっくり歩み寄ると、そっと僕の手をとった。

その手はあたたかくて、静かな光がかすかに漏れていた。


「君がまだ気づいていない“選択”がある。

それを見つけたとき、本当の未来への扉が開く。」


「ぼくが…選ぶ?」


「うん。たとえ迷っても、立ち止まっても、君の隣には、もうひとりじゃないってことだけは忘れないで。」


そのとき、風がやさしく吹き抜けた。

キラの髪が揺れて、遠くで鐘の音のようなものが聞こえた気がした。


未来はまだ見えない。

でも、いま確かに、僕は「何か大切なもの」に触れた気がした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る