第9話 言葉は光



その日も、空は透き通るように晴れていた。

窓から差し込む陽の光は、どこかやわらかく、ぼくの心をそっと撫でていた。


チトちゃんは、静かに微笑んでいた。

まるで僕の気持ちを見透かしているように、

何も言わずただ優しい眼差しを向けてくる。

言葉よりも、その瞳が雄弁だった。


「ねぇ、智くん。今日は少しだけ遠くまでいってみない。」

声をかけてきたチトちゃんの声音は、また、どこか光を含んでいた。


「うん。行こう。」


ふたりで歩いた道は、どこか懐かしい空気をまとっていた。

季節はまだ夏の途中で、草の匂いや蝉の声が、僕の記憶の深いところをくすぐった。


途中、チトちゃんがふと立ち止まる。


「言葉って、不思議だよね。使えば使うほど、こぼれていく想いがあるけど、

使わないと届かないものも、たしかにある。

だけどこうして一緒にいるだけで、智くんの心の動きが、私にはちゃんと伝わってくるんだよ」


その言葉に、僕は胸の奥がじんとなる。

「俺もそう思うよ。なんかチトちゃんといると、うまく言葉にできなくても大丈夫って思える」

チトちゃんは目を細めて、僕の肩にそっと寄り添った。

そのぬくもりが、眼差しと同じくらい、優しく僕を包んだ。


──そのまま、時間が止まればいいと思った。


けれど、世界は静かに、確かに動いている。


海から吹く風が、窓のカーテンをやわらかく揺らした。

その風は、どこか懐かしくて、でもまだ知らない未来の匂いがした。


「チトちゃん、このぬくもり……未来へ、ちゃんと届くかな」


「きっと届くよ、智くん。だってそれは“ふたりで感じた光”だから

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