第8話 言葉より熱い眼差し



鍵は、まだ開かれていない扉の象徴だった。

それは、智の胸の奥にしまわれていた記憶のように、ひっそりと息をひそめていた。


チトはそっとその鍵を手に取り、空にかざした。

淡い朝の光が、金属にやわらかく反射する。


「この鍵、きっと――智くんの未来を開くものだよ」


その声に、智ははっとした。

なぜだろう。初めて見るはずの鍵なのに、どこか懐かしい温度を感じる。

まるで、かつて誰かと約束を交わしたような…そんな気がした。


「どこにあるの? その扉は」


問いかけた智の声は、風に紛れて震えていた。

不安と期待と、そしてなにより、心の奥に灯った小さな希望の火。


チトはそっと微笑んだ。

その笑みは、過去も未来もすべてを包み込むような、あたたかな光だった。


「――それは、君の心の中。

 でもね、ひとりじゃ開けられないんだよ。

 だから、わたしはここにいる。君と一緒に、その扉を開けるために」


智は静かにうなずいた。

鍵を胸に抱きながら、目を閉じる。

そして、そっとひとこと――。


「ありがとう、チトちゃん。俺……開けてみたい。その扉の向こうを見てみたいんだ」


彼のまなざしに、迷いはなかった。

そしてその横顔を見つめながら、チトはそっとつぶやく

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