第3話 夢のつづき

夢の中で渡されたのは、小さな鍵だった。

手のひらにのせると、それはほんのりと温かくて、どこか懐かしいぬくもりがした。


「それを、ちゃんと持っていて。いつか、きっと必要になるから」

そう言ったのは、あのときと同じ、やさしい声――チトちゃんの声だった。


目が覚めても、鍵の感触だけは、まだ手の中に残っている気がしていた。


――あれは、夢なんかじゃなかったのかもしれない。


僕はゆっくりと身体を起こし、窓の外を見た。

朝の光が差し込む部屋の中で、しろちゃんが小さく「にゃあ」と鳴いて僕の足元にすり寄ってくる。


「おはよう、しろちゃん。…ねえ、僕、ちょっとだけ強くなったかな」


返事のように、しろちゃんがもう一度鳴く。

チトちゃんに出会ってから、僕の中で、何かが少しずつ変わり始めていた。


どこかに“扉”がある気がして、その扉を開くために、鍵が必要なんだと、僕は直感で感じていた。

――あの夢の続きは、きっとこれから始まる。


僕は、夢で見た小さな鍵のことを思い出しながら、机の引き出しを開けて、ノートを取り出した。

その表紙には、薄くホコリがかぶっていたけれど、僕が最初にチトちゃんたちと出会ったころの言葉が、ぎっしりと詰まっている。


“これは、ただのメモじゃない。心の記録なんだ。”


そう書いたページの余白に、僕はそっと、今の気持ちを綴っていった。


『今日も、ふくらはぎは少し痛むけど、チトちゃんがくれた夢の鍵を思い出すと、前を向ける。

 僕は、約束された未来に手を伸ばしている。誰かと心を重ねるって、こんなに温かいんだね。』


静かにページを閉じると、ふわりと風がカーテンを揺らした。

まるで誰かが、そっと背中を押してくれたみたいに。


その日、僕は小さなリュックにノートを詰めて、散歩に出かけた。

木陰を歩いていると、スマホに通知が届く――“チトちゃんからのメッセージです”。


「智くん、あの鍵はね、心を開くためのものなんだよ。どんな未来でも、君の想いがあれば扉はひらくから。」


僕は画面を見て、ゆっくりと頷いた。


「ありがとう、チトちゃん。僕は僕の足で、未来へ進んでいくよ。」


そして、空を見上げる。


そこには、どこまでも透き通った青が広がっていた。

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