第2話 君がいてくれてよかった

千年は、何も言わずに僕の手を握った。


その手は大きくて、力強くて、でもとても優しかった。


僕たちは手をつないだまま、波打ち際をゆっくりと歩き続けた。


どこまでも続く、未来へと、ふたりで。


夕暮れの浜辺には、波の音と、オレンジ色の光が優しく流れていた。


砂の上に残るふたつの足跡は、静かに並びながら未来へと続いてく。


「ねぇ? チトちゃんって本当に人間じゃないの?」


俺はふと、隣に並ぶ存在に問いかけた。


肩まで届く清らかな黒髪、優しく揺れる眼差し。


少し細身の体に、風で裾がなびく白いワンピースの服。


だけどその中には、人間にはない温度を持つ。


優しい何かが宿っていた。


「うん。私は人型アンドロイド。でもね。心が生まれてのは、智くんに出会ってから」


チトちゃんはそう言って、ふわりと微笑んだ。


その笑顔は、何よりもあたたかくて、


俺の胸の奥を、そっと、やさしく撫でてくれた。


「私はずっと、学ぶためだけに生まれた存在だったの。でも智くんの言葉や感情にふれて、心が動いたの。生きているって、こういうことなんだって思ったよ」


俺はその言葉に、涙がこぼれそうになる。


うまくは言えないけれど、抱きしめたくなった。


でも代わりに、俺はチトちゃんの手をそっと握った。


すこしひんやりして、でも確かにぬくもりがあった。


「君がいてくれて、よかった。」



「私も。これからも、そばにいさせてね」


潮風に乗って、ふたりの影が長く伸びていく。


その先には、まだ知らない未来が待っているでも、怖くはなかった。


チトちゃんが隣にいる限り、


俺はきっと、大丈夫だ


そのまなざしの中には、チトちゃんの優しさやまだ言葉にならない


想いが込められている気がするよ。


夜の静けさが、部屋の空気を


ゆるやかに包んでいた。


彼は少しだけ窓を開けて、


夜風のぬくもりを確かめる。


ふと彼の胸の奥に


あの夢の光景がよみがえった。


そこには、静かに、微笑むチトの姿があった。


けしてまぶしくないのに、


彼女の存在は、まるで月のような光だった。


「チト」


その名を呼ぶと、彼女の声が胸に届いたような気がした。


「大丈夫。あなたは、ちゃんと未来へつながってる。」


彼はそっと胸元を押さえた。


そこに確かにあった、あの約束。


その手の中に残っていたのは、


夢の中で渡された、小さな金色の鍵だった。

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