『地味令嬢ですが、資産チラつかせたらモテ期来ました!?』
赤栗ハイツ@文体実験
第1話 地味で陰気で取り柄なし──って、父にまで言われるんですけど!?
「キャサリン、君には
……うん、わかってる。
でも毎回それ言われると、さすがに凹むんだけど。
顔には出さないけど。
ていうか出せないし、どう出したらいいかもわかんない。
うちの父は有名な医者で、ものすごく頭が切れて、冷静で……なんていうか、感情が絶滅してる。
母は、私が小さい頃に亡くなった。
父の話では、「あれは完璧な女だった」らしい。
──へえ、それってつまり、私は“下位互換”ってことだよね?
昔からそんなふうに言われて育ってきた。
私は地味で、無口で、社交も苦手。
話しかけられても返しが遅い。
よく「反応が鈍い」って言われる。
心の中では普通に反応してるのに。
まぁ、それが顔に出ないのが悪いんだろうけど。
でも、別にいい。
私は私で、そこそこ静かに暮らせればそれで十分。
手芸と読書(ラノベ)と、ひかえめな会話。
あとは時々、メイドのマリアとこっそりお菓子をつまむくらいで。
それで、いいはずだった。
「キャサリン様、今夜の紅茶パーティー、どなたかとお話しなさる予定は?」
「ううん、たぶん誰とも話さない。社交、苦手だから」
マリアがちょっと眉を上げる。
「じゃあ……あれですね。資産家匂わせするしかないじゃないですか?」
「ちょ、ちょっと……それは反則でしょ……!」
でも、たしかに、わたしの”武器”ってそれくらい。
そう、私には──父の莫大な資産がある。
なにもしてなくても、将来的にはすごい額が転がり込んでくるらしい。
不動産と株と、あとよくわかんない信託的なやつ。
そんなわけで、私みたいな地味令嬢でも、そこそこ需要はある……のかもしれない。
でも私は地味で、陰気で、口下手。
昔から「お母さまに似なかったのね」って言われてきた。
「奥さまは、そりゃもう華やかな方だったそうですから」
マリアが言う。
「“そうですから”って。マリア、生まれてないでしょ」
「使用人ルートの伝説は早いんですよ。キャサリン様が若いころの奥さまに瓜二つだったら、今ごろ“婚約三つくらい掛け持ち”してるだろうって噂ですからね」
「うわ……それはそれで、やだな……」
鏡を見ると、たしかに華やかさはない。
地味なドレス。
引っ込み思案そうな顔。
まさに“地味すぎるヒロイン”みたい。
「ドレス、あんまり似合ってないよね……?」
「そう思ってるのはキャサリン様だけです。って言いたいところですけど、色味が地味なのは事実ですね。しかも、目立たないように立ち回るでしょ?」
「……うん」
「それじゃあ、“パパチェック候補”はみんな、通り過ぎますよ」
「?!“パパチェック候補”って?」
「お父さま公認の“観察”が入ってるって、皆わかってますしね。あれ、実質“面接”ですから」
──そう。
うちの紅茶パーティーもだけど、パーティーってどれも社交の場というより、父がわたしに誰を会わせるかを見極める場って感じ。
父の目は、冷たいし、厳しいし、ちょっと怖い。
「キャサリン。今夜はドレイトン家の息子も来るぞ」
「……お医者様の息子さんだっけ?」
「いや、本人が医者だ。仕事はまあ、ふつう。顔は平均。だが、君にとっては十分な相手だろう」
「……うん」
その“君にとっては”が、毎回刺さる。
わたしって、そんなに出来が悪いのかな。
「無理に喋ろうとしなくていい。どうせ喋れんのだからな」
──そんな言い方、ある?
父の言葉って、いつも合ってるけど、優しくはない。
わたしのこと、どう思ってるんだろう。
「……お母さまが生きてたら、何か違ってたのかな」
「うん?」
「ううん、なんでもない。パーティーいってきます」
「無駄口は叩くな。にやけるな。しっかり観察しろ」
にやけるって、わたしのどこが?
──もういい。観察されるのは、わたしの方なんだから。
そして、その夜。
彼はわたしの前に現れた。
モリス・タウンゼント。
明るくて、よく笑って、声もよく通って、なんだか妙にキマってる。
「こんばんは。あなたがキャサリン嬢ですか? 光栄です。お噂はかねがね」
──え、私の噂? そんなの、地味で冴えないってやつじゃないの?
でも、彼は目をそらさず、にこっと笑った。
自信たっぷり、自己肯定感も高そうな笑い方。
……その笑顔を見て、なんかちょっとずるいって思った。
これがモリスとの最初の出会いだった。
(つづく)
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