第2話:勘違い野郎ども

「…………………………は?」


どうもこんにちは。私は日本で道端で絡まれていた子を庇い、命を落とし、

乙女ゲー・『君の光と三本の薔薇』の悪役令嬢、ユン・セレーネに転生した者です。


「聞こえなかったのか?ユン・セレーネ。」

「君、"ランク詐欺"してるのかと聞いている!」


そう、測定官が言う。


「(コイツ馬鹿か?頭に脳みそが詰まっってないのか?)」


そもそもこの世界の仕組みを転生してきてから約8年ほど経ってるのに

理解があまりできていない私がそんな器用なことができるわけがない。


「……ランク詐欺って何よ。

詐欺するほどの知能があったら、もっとマシな人生送ってる。」


測定官の眉がぴくりと動いた。


「君は知らないかもしれないけど、魔物を倒さないとレベルは上がらないんだよ!」


「(倒してるっつーの💢)」


この世界の人間は非効率的なレベルの上げ方をする。

なので50代で“レベル60”行ったら万々歳だ。


それなのに17歳という若さで“レベル100”などいったら、

彼らから見たら化け物だろう。


「…」


「君は17歳だ。どうして“レベル100”に到達できた?

魔力がなくレベル上げがまともにできない人たちがいるというのに…」


「知らねぇよ。」


その一言に、測定官の顔が引きつる。

周囲の教師たちもざわつき始める。

“10代の少女”が“魔王級”の魔力を持っていた――それだけでも衝撃なのに、

本人が「知らねぇよ」で済ませるとは、想定外だったらしい。


「……君は、魔力の測定の内容を意図的に隠していたのか?」


「隠してたっていうか、測る意味がなかっただけ。」


「意味が……ない?」


「だって、測ったところでどうせ“黒髪混じり”ってだけで差別されるんでしょ?

だったら黙って鍛えて、黙って潰す方が効率的じゃない?」


その瞬間、教師陣の顔が青ざめた。

“潰す”という言葉が、あまりにも自然に口から出たことに。


「……ユン・セレーネ。君は一体、何を目指している?」


「静かな生活。」


「……は?」


「誰にも邪魔されず、誰にも絡まれず、

自分の部屋で紅茶を飲みながら、本を読んで、

静かに、で生きること。」


測定官は言葉を失った。

その場にいた生徒たちも、ざわめきながらユンを見つめる。


パンッパンッ


「皆さん落ち着いてください。」


手をたたく音と共に学園長の声が聞こえる。


「彼女が噓をついているかは授業が始まってから明らかになるのですから…。」


どうやら私は学園長からも怪しまれているらしい。


「それではユン・セレーネ嬢、挨拶を。」


私は私と同じ新入生達の方向を向き、

片手を胸元に、もう片方でスカートを軽く持ち上げる。


「ユン・セレーネです。よろしくお願いします。」


最悪、国外へ逃げよう。

その時のために色々用意しておこう。(現実逃避)


ちなみに光属性&平民の『君の光と三本の薔薇』の主人公であり、

ヒロインである"アリシア・ユーレック"は本来この入学式で注目されるはずだったのだが、私のせいでそれどころではなくなっいてしまった。ごめんねヒロインちゃん。

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現在、新入生歓迎パーティーが行われている。

キラキラとしたシャンデリアに、

一流パティシエが作ったかと思われるスイーツがテーブルに並べられている。


「(さてと…寮に戻りますか)」


しかし私はめんどくさいのとさっきの騒動から

このパーティーを抜け出しているところだ。しかし…


「おいそこのお前!」


声のする方向を向く。

そこには赤い髪を一つに束ね、制服を少し気崩きくずしている青年がいた。


彼は攻略対象の一人、"アーロン・ウィリアムズ"。

正義感が人一倍強く、力も強い。

しかし感情的になりやすいという点がある。


「新入生歓迎パーティーは向こうだぞ?」


「…」


「まぁあんなことをした後だからな(笑)」


その挑発的な発言に私はカチンときた。

本当ならば顔面に一発パンチをぶち込みたいところだが、

彼のほうが爵位は上なのでそんなことをしたら入学早々、退学になりかねない。

私は作り笑みを浮かべながら、こう問う。


「…魔力測定の件ですか?」


「そうに決まっているだろ!お前は貴族としての誇りはないのか!」


アーロンは拳を握りしめて震えてる。


「…すみません。(んなもん、とっくの昔に捨てたっての!💢💢)」


そんな修羅場のような場面を乗り越えようと必死の時、


「おいアーロン。こんなところで騒ぐな。」

「そうですよ、全く…」


「今度はなんだ」と思いつつ声のする方向を向く。

そこには青い長い髪を一つに束ね、眼鏡をしている青年。


彼は攻略対象の一人、"オズワルド・アンダーソン"。

冷静で、魔法能力にたけている。

しかし眼鏡を押し上げながらこちらをにらみつけてくる。


そして黄色い髪の青年は"レオン・アルフデット"。

…この国の王子だ。そしてもれなく嫌われている模様。


「とにかく!ユン・セレーネ!

お前は本当に、貴族としての誇りを持っているのか?」


アーロンの声は鋭く、周囲の空気をさらに張り詰めさせる。

オズワルドは冷たい視線を向け、レオンは腕を組んで黙っている。


「(……あーあ。めんどくさ…。)」


ユンは内心でため息をつきながら、表情は変えずに立っていた。

その時だった。


「やめてください!」


澄んだ声が空気を切り裂いた。

ふわふわのピンク色のくせ毛が揺れ、まるで光の精霊が舞い降りたかのように、

"アリシア・ユーレック"が現れた。


そしてアリシアは私の前に立ち、両手を広げて守るような姿勢を取った。


「ユンさんは、何も悪いことをしていません!」


その瞳は真っ直ぐで、涙を浮かべているようにも見える。

まるで“誰かの痛みを感じ取る”天性の優しさが、全身から溢れていた。


「アリシア……さん…?」


レオンが戸惑いの声を漏らす。

オズワルドも眉をひそめ、アーロンは驚いたように目を見開いた。


「魔力が強いからって、闇属性だからって、責めるなんておかしいです!

ユンさんの噂を聞いてました!ユンさんはきっと、ずっと努力してきたんです…!

誰にも頼らず、誰にも甘えず、ただひとりで…!みんなを傷つけないように!」


「(え、なんでそんなこと分かるの?噂怖っ!)」


ユンは思わずアリシアを見つめる。

その瞳は、まるで“全部見えてる”ようだった。


「私は……ユンさんのこと、尊敬しています。」


その言葉に、場の空気が一変した。

王子たちも言葉を失う。


「(……ヒロインちゃん、まさかの“悪役令嬢を庇うルート”に突入した!?)」


「ユンさんは、誰よりも強くて、誰よりも優しい人です。

だから、どうか……もう責めないでください。」


「…分かった」


そう言い、3人の王子はパーティー会場に戻っていった。


「(天使か?)」


ユンは思わず、口元に笑みを浮かべた。

それは“悪役令嬢”の冷笑ではなく、

ほんの少しだけ、心がほどけた笑みだった。


「……ありがとう、アリシアさん。」


その一言に、アリシアはぱっと笑顔を咲かせた。


「えへへ、よかったです……!」


「(この子、ほんとに天使…いや女神だわ。)」


そんなことを思い、入学式を何とか乗り越えたのであった。

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