第4話:救世主伝説 ー 哀と愛しみの果てに ー

 長いピロートークの間に、友莉愛ユリアが渋丘なら同じ流派である男徒酔懲拳なんとすいちょうけんの使い手であるレイがいるので探してみるといいと教えてくれた。


 世紀末の荒れ果てた状況下であるから、縦浜から西京の渋丘までは結構な道のりを歩くこととなった。暫く会えないことから、青志朗セイシロウ友莉愛ユリアの足腰が立たなくなるまで交わってしまったこともあり、最初は順調な軽い足取りも、後半、さすがに足に来た。


 この状態で、いきなりラスボスのいる古宿に行き、一気に畳みかけるのはムリかろうと思い、人が渦巻くこの渋丘でまず、レイを探し当て、その兄弟というのを調査することにした。


 レイがよく居るというネットカフェに行くと、くだんの男らしき長髪で筋骨隆々としたイケメンの男がいた。


 後ろから見ていると、人が酔っぱらって気が大きくなっている時間帯に小作品をアップ & 相手作品の第1話だけに思わせ振りたっぷりの催促ハーツのチョッパー切り刻み攻撃を目にも止まらぬ速さで何人にもわたって展開。

 「シャオ、シャオシャオ、シャオ!」と叫びながら、相手にハートを送りつけていく。よく見ると、即座に反応してきた読者には、甘い感想の一言も忘れない。

 またもや「シャオ、シャオシャオ、シャオ!」と叫んでいる間にあっという間に星を24個も集めていた。


 そして、近寄ってきた美しい女が、「レイ、また星が欲しいからって、女性読者ばっかりにハートを送って、甘い言葉も囁いてたでしょ!分かってんのよ!」と言って、いきなりレイに平手打ちを食らわせた。レイがぶたれた頬をさすりながら、「萬・真見夜マン・マミーヤ、お前もその男勝りのところがなければ、ホントにイイ女なのになぁ」とつぶやくと、真見夜マミーヤという女が「私は自分のことを女だなんて思ったことは1秒もないわ!」と言い放つ。


 次の瞬間、レイは「シャオ、シャオシャオ、シャオ!」と声を上げながら、男徒酔懲拳なんとすいちょうけんを繰り出し、真見夜マミーヤの服を見事に切り刻み、見事なまでの黄金比の乳房を露わにさせ、相対性理論の時空理論ではないが、周りにいる者全ての時間経過をゆっくりにさせた。30秒眺めたかのような錯覚を覚えさせたが、真見夜マミーヤは即座に胸を両手で隠す。レイは言い放つ。「女でないというのなら、なぜ、胸を隠す?」と。真見夜マミーヤは恥ずかしさのあまり、化粧室に向けて駆けてゆく。今度は、青志朗セイシロウレイの前に駆け寄り、話しかける。


 「男徒性拳なんとせいけん友莉愛ユリアからキミの話を聞いた。俺は星与心拳ほしとしんけんの伝承者、青志朗セイシロウ。さきほどのキミの美技は見事であった。ついでに言うと、あの女の胸も見事であった。まぁ、これは蛇足であるが、礼を言う。イイものを見させてもらった。

 ところで、この渋丘に徒喜トキという男がいると聞いた。どこにいるのか、教えてほしい。」

 「あん?徒喜トキの居場所を教えてほしいだと?徒喜トキと会ってどうしようってんだ?」

 「決着をつけ、裸王ラオウの場所を聞き出し、この世界の秩序を正す。俺がしたいのは、ただそれだけだ。」

 「って、ことはあんたが、徒喜トキを倒し、裸王ラオウも倒してくれるってか!?ソイツは面白ぇや!そんじゃ、オレさまが遂に週間1位の座に就けるじゃねえか!」

 「そうとは限らんぞ。」

 「ばーか。あの二人がいなくなりゃ、オレさまの天下よ。お前の探している徒喜トキならなぁ、この先の道幻坂ってところを登っていったホテル街の入り口にいることが多いぞ。キリストみたいなツラして、女にばっか声掛けてっから、すぐに分かるさ。」


 それだけ聞き出すと、青志朗セイシロウはすぐに道幻坂に向かった。


 徒喜トキはすぐに分かった。本当にイエス・キリストみたいな顔して、キレイ系の女に片っ端から声を掛けていた。いたずらにニコニコしているのかと思うとそうでもなく、時に見せる憂を湛えた表情に女たちは、ハートを射抜かれるようだ。会話を聞いていると「僕は小説を書いているんだ。でも、こんな煩いところではなんだから、静かなところにいって、さわりだけでも、僕の小説を読んでみてよ。そして、ちょっとでもいいな、と思ったら、まず静かなところで、二人でウルサイことして、そのあと、ピロートーク代わりにじっくりと読んでみてよ?」と言うが早いか、徒喜トキは女の腰に手を回し、オシリに触ったかと思うと、アッという間にラブホテルにしけこんでしまった。止める間もなかった。あれは、間違いなく性与有情拳せいとうじょうけんの秘講だった。甘いマスクで女性の歓心を買い、小説を少し読ませただけで、星と心を集めまくる洗脳を武器としており、別名「ランダムハーツ」の異名まで取っているという拳術の使い手とのことだ。


 その日は、1時間延長しくさったと見え、青志朗セイシロウは、ふたりが出てくるまで、なんと路上で3時間も待たされる羽目になった。徒喜トキがようやくホテルから女と連れ立って出てきて、二人もつれ合うようにして歩いてくる。

 女が甘ったるい声で語りかける「もう、徒喜トキったら、あれもこれもあっちもそっちも良かったわぁ。」目をみれば、もはや、性与有情拳せいとうじょうけんの秘講を突かれまくられ、徒喜トキをまるで、イエス・キリストの神を見つめるがごとくうっとりとした目で見つめている。

 徒喜トキが「そうかい?あんなに激しくウルサイことしちゃったあとに、僕の112作品すべてにハートと星をつけてもらちゃって、ありがとうね。今日はキミの作品は読めなかったけど、今度、読んでおくよ。あっ、そうそう、来週あたり、僕の新作品を出す予定なんだ。新約聖書だと思って読んでもらえたら嬉しいな。それじゃあ、今日は楽しかったよ。キミの人生と作品に幸あれ! 乳と子と精子のみ名によって。 ザーメン。」そういって、イエス・キリストまがいのセリフを言いながら、女と別れると徒喜トキは鼻唄まじりに歩き出した。


 青志朗セイシロウは、徒喜トキの前に立ちはだかり、怒りに満ちた声で確認する。

 「お前が性与有情拳せいとうじょうけんの使い手、<ランダムハーツ>こと徒喜トキだなっ!? お前はその風貌を活かして、神の名を語り、しかも、言葉巧みに女性を誘い込み、性的な悦びを与えた後に、性与有情拳せいとうじょうけんの秘講を突き、洗脳状態にした上で、自分の作品を聖書まがいに盲信させ、ハートと星を集めまくっている罪深き男。最も俺が許せんのはイエス・キリストまがいのセリフを言うが、それが、ことごとく微妙に卑猥な感じに間違った形で濫用していることだっ!正しくは、父と子と精霊のみ名によって。アーメン。だろうがっ!」

 「お前の知ったことか?!女たちは、みな、喜んで、俺にハートと星を送ってくれているんだ。何も罪深いことなどない。信者たちがしていることは私が施した慈悲に対する信仰の告白にすぎない。」

 「お前のやり口は汚い。しかし、まぁ、見事なお手並みとも言える。どうやってやっているんだ?秘講だけではあるまい?」

 「ほぅ?お前、秘講だの、性与有情拳せいとうじょうけんだの、ちったぁ、その道のことに詳しいんだな。今日は一晩で600ハートに、336個もの星を集めることができて、超ご機嫌だから、お前のメイドへの土産話に聞かせてやろう。」

 「バーカ、それを言うなら冥途の土産話だろうが。まぁ、いい教えろ。」青志朗セイシロウも、思わず、一晩で荒稼ぎする<ランダムハーツ>の手法に、よく聞こえるよう片耳を上げつつ、メモの用意までする。

 「じゃあ、教えてやろう。オレの場慰撫溜バイブルは、かつて短期間、放映されていた『スペルマン』さ。彼が敵をやっつけた後の「The Amen」シーンに心を揺さぶられたんだ。その時は「これだッ!」とビビビッと来たもんさ。まさに、神からの天啓とでも言えよう。それにオレ独自の、撒美歌さんびか、そして、精書せいしょ、最後は、免斉付めんざいふといったオリジナルのツールを追加して、女の心を、先ずは「場の量子論」ではないが、「場」に誘うんだ、そしたら、みんな書き手は大なり小なり、書く内容の稚拙さやらテーマの浅薄さに悩んでいるだろ?そこで、たっぷり「慰」める。すると、女はもう目がとろんとしてくる。そしたら、そこで優しく髪の毛を「撫」でてやる。そこで焦りは禁物さ。一度、間を「溜」める。そしたら、耳元でその女の作品のどんな小さなところでもいいから、褒めちぎるのさ。美を撒き散らすように、耳元で囁き続ける。これがオレさまが言う撒美歌さんびかさ。その女の作品に唯一無二の理解者だと思わせる。次に、自分の作品の唯一面白い作品を読ませる。誰だって、一つぐらいはそこそこ自信のある作品あるだろ?それを精読させる。精書せいしょの時間さ。そして、あとは、俺の駄作に、読む前に先に全部一斉に、ハートと星を付けさせるのさ。「信じる者は救われる」って言ってね。これが免斉付めんざいふさ。まぁ、もちろん、スペルマン譲りのベッドでの性なる儀式で十分に信仰、いや、親交を深めておくことが重要なんだがね。」


 最初こそ、熱心にメモを取っていた青志朗セイシロウであったが、己のその浅ましい姿に怒りと羞恥心を覚えたのに加え、一時は次の「スペルマン」に推挙されていたような微かな記憶が自分の中に蘇りつつあり、その「スペルマン」の教えを曲解し、勝手にさらにお下劣にアレンジし、しかも、その手法で、星とハートを荒稼ぎし、しかも悩める心につけこみ、おねーさんたちと美味しい思いをしまくっていたと思うと、煮え滾る怒りが込み上げてきた。


 「おぉぉぉぉぉぉ!」バリバリバリバリと服が破け、腕や腹に巻いていたさらしの布が音を立てて裂けていく。青志朗セイシロウの胸に燦然と輝く三連星が露わになる。

 「徒喜トキよ。俺が誰だか知っているか?」

 「知らんよ。名も名乗らん、無礼なヤツだと思っていた。さながら、ロボットアニメに出てくる主人公パイロットさながら、嗚無論・無礼アムロン・ブレイとでも言うのか?」

 またも何か脳の深くの記憶を揺さぶられる。(一体、オレは何者なんだ!?)

 「それ以上、俺の神経を逆撫でるな!俺の名は、星与心拳ほしとしんけん 一子相伝者の青志朗セイシロウだ。冥途ではなく、ゴルゴダの丘への土産に覚えておけ。」

 「何?お前が、あの星与心拳ほしとしんけんの伝承者だと?面白い!相手にとって不足なし!この手でお主を文壇から葬りさってやるわ!ほぉぉぉぉぉぉぉ!」


 徒喜トキが両手を座禅を組み念仏を唱えるような位置から、腕を前に突き出し、大きな円を描いていくような構えを見せる。対して、青志朗セイシロウはつま先立ちとなって、左右の手、それぞれ親指、人指し指、中指を軽く突き出す感じでボクシングのジャブの態勢のような構えを取る。


 二人の技量は同じだった。。。しかし、唯一違うとすれば、精子を出してからの回復時間であった。プロボクシングにしても、サッカーワールドカップの代表チームなどどでもそうだが、試合に2日前とかからは、SEXが禁止となるケースがほとんどだ。それだけ、「精を放つ」とは足腰に来るものなのである。「精魂尽き果て」という言葉もあるように、それだけのダメージというか、エネルギーを人から奪うものである。たいてい男子は、〇〇時間で何ラウンドまでやった、みたいなことで報告というか、マウントの取り合いというか、自慢というか、アホさ加減を男だけの飲み会での報告会があるのだが、筆者が聞いた範囲でも、また、筆者の経験からもだいたい半日で6ラウンドぐらいが、たいていの上限値である。丸一日とかだとまたもう少しラウンド数も伸びるのかもしれないが、猿でもあるまいし、そんな丸一日、ずっとやり続けているということも普通はない。これまた、拙著『量子と精神』でも触れたが、人間には古来より「賢者の時間」が訪れるように、生き残る術としてその機構がインプットされているのである。したがって、丸一日やり続けているようだと、それはそれで生存確率を押し下げてしまうことでもある。ホモ・サピエンスとは「賢い人」という意味なのであるから、まぁ、あながち半日統計が、統計ものとしてはいい線行っているのではないか?また、ついでに言っておくと、「猿じゃあるまいし」とよく言うが、これは自慰行為を猿のオスは一生やり続ける続ける、というところから来ている。これも実は理にかなっていて、生殖確率を高めるために、精巣内で出来る精子を常に最も元気な状態に保っておくために、3日~4日に一度、在庫の最適化を行っているということに他ならないのであり、全ては生存戦略に通じていることなのである。蛇足が過ぎた。


 二人それぞれ「ワァタァァァッ!」「はぁぁぁぁぁ!」と裂帛の気合を漲らせ、拳と拳で何回も打ち合うものの、決定打がなかなか入らなかった。しかし、上記の理由から、若干、徒喜トキの方に早く疲れが出てしまった。


 そして、打ち合うこと300回目ぐらいに、遂に、青志朗セイシロウの突きが徒喜トキの喉に入り、呼吸が乱れる。そこからは、徐々に押され、遂には、徒喜トキは鼠径部の秘講を突かれてしまった。


 そこは、部位が部位であるだけにヤバかった。性与有情拳せいとうじょうけんで数多くの無垢な女性たちから多くのハートと星をむしり取ってきた徒喜トキにとってへのせめてもの青志弄セイシロウなりの有情拳でもあり、そして、ゴルゴダの丘での磔刑たっけいでもあった。


 鼠径部の秘講を突かれた徒喜トキは、両手をその場で広げ、そこにあたかもはりつけにされたかのような恰好になった。もともとが、イエス・キリストを彷彿とさせる顔立ちである。いつのまにか、衣服は白い布が巻きつけられたようなもの着替えさせられ、少し高い街路樹を植える石の入れ物の上に立つ形で両手を広げさせられた状態で立っている。

 そして、その目の前に、いつしか、スピーカーが置かれ、場慰撫溜バイブルの朗読と称して、音声が流れ始めた。

 

 「本日の精書せいしょは『芥 Ⅱ』の<波動砲発射!!>の章です」と始まり、非常に臨場感溢れる感じで、男女の声のみでの朗読演劇が始められた。

 すると磔にされていた徒喜トキの局部がみるみる大きく腫れあがり、布の間から「こんにちは状態」となってしまった。そして、<波動砲発射!!>のシーンはますますクライマックスになっていく。朗読箇所も「ウィンウィンウィンウィン」と波動エンジンが回り始め、いよいよ「人体間電子および量子移動発射法」のシーンへと突入する。すると、「こんにちは状態」のところから、刺激の限界を迎えたのか、徒喜トキの波動戦士ギンダチかと見紛うかというほどの怒張した局部から突然の波動砲の打ち上げ花火が腹部に向けて発射された!! 痙攣の後、うなだれたと思ったら、今度はすかさず間髪入れずに『芥 Ⅳ』の<コーヒー配達員は二度スプーンを回す>のシーンが同じく臨場感たっぷりの男女の声優が登場し、朗読演劇が読み進められる。徒喜トキが「もう逝ってるてバァ!」と懇願しても、機械音は意に介することなく、無情にも朗読を感情たっぷりの迫真の朗読劇を進めていく。すると、一旦、沈静化していた徒喜トキのそれが膨らんできて、物語のクライマックスに差し掛かると、物語さながらに、10回ほど連続で放出を繰り返す。磔状態同様、ぐったりとうなだれる徒喜トキであったが、追撃の手は緩められなかった。結局、エンドレスでリピートが繰り返され、6時間にも亘って、徒喜トキは己の意思ではなく、放出を続けさせられ、6時間合計72発の発射を余儀なくされたという。これまで、他人の女性の秘講を突き、徒に喜ばせた挙句、自身の作品を読ませるという、卑劣な手を使ってハートと星を集めてきた因果応報ともいえる仕打ちを受けたと言えたようだった。

 喜ばさせていれば良いという独りよがりの考えに立っていた徒喜トキであったが、この日を境に改悛し、二度と性与有情拳せいとうじょうけんを使っての自作を読ませることはなくなったという。


 残るラスボス裸王を倒すべく青志朗セイシロウは、古宿へと向かった。



 お伽話といえば、日本が第二次世界大戦の戦端を切るべきか、自重すべきか、215年に亘って守り続けてきた鎖国政策から開国して以来、産業革命以後、日本とは比べ物にならないほど進展を遂げていた欧米各国の文明文化を目の当たりにしてきた日本は、懸命に追いつき追い越せとばかりに文明開化や富国強兵に努めていたが、太平洋戦争を開戦するにあたり、「総力戦研究所」というところに、開戦時のシミュレーションをさせていた。結果は、何度やっても「必敗」。百田尚樹氏の「永遠の0」にも記述があるが、日本には、もはや戦艦や戦闘機を動かすだけの石油がなかったのだ。そして、その石油を南方から奪還しようとするが、奪還したところで、その石油を運ぶだけの船舶がない。

 合理的な判断がなされていれば、日本は全力で外交努力をして、開戦を避けるべきであった。しかし、現実はそうではない。日本海軍は、比較的英語も取り入れる合理精神があったが、鬼畜米英として、敵国語を扱うことを禁じたり、大和魂で欧米との物量差は乗り越えてみせるという精神論を掲げる日本陸軍の強硬論が開戦の決を採ってしまう。

 逆に、3日で終わるとされていたロシアによるウクライナ侵攻は、怒りに燃えるウクライナ兵士の士気が、物量に勝るものの無理矢理に連れて来られた兵士で構成されるロシア軍を打ち破ることしばしばであったりと、物量差があっても士気の違いにより、机上の算定とは全く違う現実となることもあり、また戦ってみないことには分からないことがあることも思い知らされた。ヴェトナム戦争における国務長官「マクナマラの誤謬」と言われたアメリカ史上初の敗戦もまた同様である。


 戦艦を動かすだけの石油もない日本が、圧倒的、物量や無尽蔵なエネルギー埋蔵量を誇るアメリカに戦争で勝とうとするのも、あまりに非現実的な「お伽話」であり、空爆や火炎放射器を行うアメリカ軍に対して、木で作った槍がつたに巻き付いた形で突然振ってきたり、落とし穴に落ちてみれば槍襖やりぶすまが仕込まれているような密林でのゲリラ戦で対抗する手段しか持たないベトナム軍側が事実上の勝利を収めるなども、当初は想定もしない「お伽話」のようなことが現実に起こるのである。



 覚世夢カクヨム王国の王を名乗る裸王ラオウについては、古宿に至る道々で情報を得た。筋骨隆々で堂々たる体躯をしており、並外れた膂力を有しているだけでなく、その風貌はカリスマ性を有し、多くのレビューワーを抱えており、新たな小説を出せば、その岩盤支持層から膨大な数のPVとハートと星を都度、集めていた。得意とするジャンルは「転生」もの。人が思いもよらぬ奇想天外な転生を得意として、生粋の転生もののファンだけでなく、ギャグ・萌え・巨乳・メイド・ラブコメなど、プロの作家はなかなか書かないが、多くの同人的な作家志望が多く渦巻くジャンルが好む関心領域を巧みにバランスよく取り込み、その筆致は、「書く融合」と言われていた。

 いくつかの例をあげれば、

  ・一度死んだら、冥途のメイド喫茶で

   「おかえりなさい」と言われた件

  ・神話エルフに転生しようとしたら、

   いつゞトラック エルフの運転手に

   なってた件

  ・目が覚めたら貴族令嬢の甘い吐息から

   悪徳令嬢のオナラに転生していた件

  ・俺の人生、病むデレヤンデレ詰むデレツンデレ

   デレデレ・死ぬデレ等シンデレラ

 と言った具合で、いくらでも泉のごとく何にでも転生するその様態と、絶妙な感じで不安要素を織り交ぜてくるその手法は<転生 不安多事ファンタジー>というジャンルを確立し、多くの同人的作家志望集団にとっての神ポジションを占めるに至り、カリスマ的絶対王者として君臨するようになっていた。


 そういう意味では、太陽のような絶対的存在感であり、裸王ラオウというペンネームが示すとおり、きわどいエッチな描写を駆使したPV稼ぎも得意技としていた。太陽は、<水素>(H)と<ヘリウム>(He)による核融合反応であるが、覚世夢カクヨム太陽神ファラオこと裸王ラオウは、エッチ(H)と変態転生(He)による「書く融合」であった。この結び付きは極めて強い結びつきの強固さを誇っていた。しかし、一部の噂では、この裸王ラオウ、最近では新作を出せばPV数やハートや星が稼げるものの、転生ネタやエッチネタのアイディア枯渇が囁かれ、それを「AI」に頼って、かろうじて、新作を出しており、もはや自分の脳で汗をかいて書き表したものではないという黒い噂があるとのことだった。


 裸王ラオウのアジトは、自飯愚ジパングきっての繫華街、西京は古宿の能楽町にあった。PV数・ハート数・星数等のインディケーターでは、圧倒的に裸王ラオウ有利の分析シミュレーション結果である。しかし、青志朗セイシロウには、唯一、数値としては見えないポイントで裸王ラオウを凌駕し得る点が有り得ると思っていた。それは、<感想>コメントによる作者と読者との交流や意見交換による“喜びの深さ”であった。すなわち、コメントの交換 → 交感 → 好感 → 交歓 による「物書き同志/同好の士」としての「心の繋がり」「切磋琢磨の気風」であり、換言すれば「励ましAI」であった。つまり、これは「AI」対「愛」の戦いの構図でもあったのである。


 アジトに乗り込んだ青志朗セイシロウの目には、【累計1億PV達成!】という俄かには信じがたい額に入れて飾られた書が飛び込んできて、一瞬怯んだが、勇を鼓して戦いを挑んだ。早々に先制攻撃を仕掛ける。

 「日本国民ですら1億人しかいないのに、1億PVとは誇張するにも甚だしい!」

 「カウンターの実数があるわ、たわけが!ぬん!これでも喰らえ。絵露素エロスPV獲得拳!」 目の前を秒速200PVの数値が飛んでくる。

 「ある程度は、岩盤支持層のあるお前のことだ。出せば数値は伸びよう。しかし、ログインせずに自分でリロード<F5>ボタンの連打も行っているのであろう!そんなことでPV数を稼いで楽しいのか?」青志朗セイシロウあいに満ちた悲しげな目で見つめ、文学への深いかなしみを湛えた表情で裸王ラオウに静かに諭す「あとに残るのは、虚しさだけだぞ。」と。


 これを聞いた裸王ラオウは怒髪天を衝く形相で襲いかかってきた。図星を突かれた証左であろう。怒りを滾らせたかと思ったら、熱々にぐらぐらと煮え滾るラーメンに転生してきた。自分の名前と掛けた駄洒落のつもりでもあるのだろう。しかし、料理の温度には一家言ある青志朗セイシロウにはその手は通用しない。なぜなら、アメリカでラーメンを客に提供する際に、アメリカは訴訟社会ゆえに客が火傷をしないように、少しぬるくして出すとの話を聞いた時に「ばっきゃろー!ぬるいラーメンなんぞ出そうものなら、それこそ訴えてやるぞ!」と息巻いた男なのであるのだから。また十分想定の範囲内であったこのラーメン転生攻撃は、完全に青志朗セイシロウに看破され受けきられる。


 先制攻撃を仕掛けたつもりであるが、さすがは、覚世夢カクヨム王国の初代KINGを名乗るだけあって、クリーンヒットは入れられない。逆に、裸王がまたもや<転生技>を仕掛けてきた。


 太陽が鼻唄を歌ったらソが抜けて、太陽神ファラオになった拳

 ♪ドレミ!!


 渾身の技を繰り出したつもりだったのだろう。しかし、これが青志朗セイシロウの青き志の怒りスイッチを押してしまった。


 「貴様、たったそれしきの、たったそれしきのつまらぬギャグで、ハートと星を山と積み上げてきたというのか?! そこに、考え抜いた呻吟や良作を生み出そうとする苦心惨憺はあったというのか!? 答えろッ!」目に青き焔が立ち上り始めている。


 裸王としては、最近、AIに頼りっぱなしであったところを、自らの頭で考え出したオヤジギャグだったので褒めてほしかったところを、一刀両断されたものだから、こちらも逆上!前頭葉に浮かんだ転生へと走った。


 しかし、「裸王がライオンに転生した拳」を繰り出してはみたものの、音が少し似ているからという安易安直すぎるものであったため、青志朗セイシロウの怒りの炎に油を注ぐ結果となった。

 「オォォォォォォォォォ!」バリバリと衣服が裂けてゆき、胸に刻まれた三連星がキラリと光ると同時に青志朗セイシロウの背面には青き炎が立ちのぼる。次の瞬間、青志朗セイシロウが叫ぶ。


 「星与心拳 奥義 猛虎猛省拳!」


 青志朗セイシロウがまるで虎のように、身体の前面で鉤爪ポーズを作りつつ、片足を上げ、虎となって襲いかかった。「ヒャオゥゥゥ!」


 裸王は、青志朗セイシロウの安易な転生を罰すると言った舌の根も乾かぬうちの、虎に転生した青志朗セイシロウにあっけにとられ、脇腹がガラ空き。

YouはShock!!


 裸王ラオウもすかさず、「それこそ、安易な転生そのものだろう!」と指弾糾弾しながらパンチを繰り出すが、青志朗セイシロウは、今のは「転生」ではなく、あくまで「憑依」だと言って批判を退け、裸王からの反撃パンチをと交わすとガードががら空きとなっていた脇腹に、遂には、最終奥義「夢想夢精天逝」である『量子と精神』『神が授けた悪手』のダブル精子青志攻撃を浴びせかけ、裸王ラオウの腹筋が崩壊したところに強烈パンチを叩き込み、遂に裸王ラオウをノックダウン。


 負けを悟った裸王ラオウは、自分の始末は自分でつけると、べーゴマ劇場前の広場へ行き、自分の最後に相応しい名ゼリフを述べようとする。


 天を衝くが如くに片手を掲げ指を開き「我が生涯に5篇の悔いあり!芥 Ⅰ/ Ⅱ / Ⅲ / Ⅳ /Ⅴを読めていないことだ。」と言って静かに退場しようとした。


 が、みぞおちに青志朗セイシロウの強烈なパンチが入る。「ぐへぇ。」たまらず、裸王ラオウが膝をついて地面に崩れる。

「バカ野郎!あの名著『芥シリーズ』を読まずして退場していいわけがねぇだろう!」


 今のみぞおちでのパンチで裸王ラオウの秘講を突いた青志朗セイシロウは逆に決めゼリフを言う。


 「お前はもう読んでいる!」


 すると、裸王ラオウは貪るように短編4編を読み終わった後に、『芥シリーズ』を読み始め、もういち度、セリフを言い直す。

「我が人生に5篇の悔いあり!この面白き『芥シリーズ』のレビューコメントを書けていないことだ!」

裸王ラオウ、よくぞ申した!それでこそ、この王国のKIKGだ。今後は手をキチンと動かし、自分の頭で考えたものを発表するのだ!AIが考えだした作品なぞ、コピー&ペーストして、たとえ、それで星が1000集まろうと何になろうぞ!?虚しき哀しみが残るだけではないか?また、ただ只管ひたすらに章立てが多く、それでハートが多く集まろうと、何になる?新たな章を出して、ハートをつけ合うだけで楽しいか?そうではなかろう。。。お主にも、『面白れぇ作品を書いて、みんなからその一言を聞きたい!』そういった、青き志があったはずだ。だからこそ、ハートや星だけの投げ合いだけではなく、「言葉を紡いだ感想」を送り、良き作品は星と感想を以ってキチンと称える、それこそが、王国の平和の礎になろうぞ!俺もお前と拳とペンの干戈を交えてみて、分かったことがある。転生ものや異世界ものも、たしかに、仮託することで見えてこなかった世界観が見えてくることもある。また「不安多事ファンタジー」についても、適切な警句を発する手段でもあるし、また言わずもがな想像力ファンタジーこそが我々物書きを目指す者たちの創造の源泉だ。だから、俺もお前たちの世界は認める。ただ、単にドタバタ劇や長いだけの物語はお互い慎もうぞ。お互い凝縮された、無駄のない面白い物語を紡いでいこうぞ!」


 裸王ラオウ青志朗セイシロウの言葉に、失いかけていた己の青志を思い出し、激しく首肯した後、身体を大きく震わせたかと思うと、涙を流しながら、拳を天に向かって突き上げ、しばしその場に立ち尽くした。



 この「星与心拳ほしとしんけん」を巡る物語は、人類が自らの手で制御できる範囲を超えてしまった核爆弾とAIというものを作り出し、それを以って平和を創り出そうした「お伽話」とすべてをAI頼りへと深い思慮なく、また分別もなく傾倒&依存していってしまった人類が、自ら生み出した最高峰の叡知によって、図らずも自ら墓穴を掘り、絞首刑台を作り、あと一歩のところで、人類を滅亡への淵へと追いやる「カリカチュア(風刺文学)」とが絡み合い、最初はこよりのような状態だったものがアッと言う間に大繩へと肥大化し、容易にはほどけぬ社会のくびきとなってしまった世界と、その「書く」という本来、我々が追求すべきスタイル・本質・秩序が乱れ、PV数や心のこもらないハートや流れ星が行き交う、すさんだ「文学世界」を現出させてしまった。ここまで、この覚世夢カクヨムという世界に、再び秩序と我々がペンを取ったときの誇り高き志を取り戻す救世主伝説として、紡がれてきた。


 デジタル社会に文学を成さんと気高き青き志を以てこの覚世夢カクヨムという世界に降り立ったはずの星与心拳ほしとしんけんの伝承者 青志朗セイシロウですら、核戦争後の荒廃した世界にあって、一時はものすごい数のPV数やハートや星を集める集団を目の当たりにし、それらを伸ばしやすい絵露素エロスの魔力に取り憑かれ、その青志は時に弄ばれ、一時は「精子漏」「青志弄」に成り下がり、「写生派」としての哀と愛しみの果てなき砂漠を彷徨し、自らの心の裡にあるコンパスは壊れ、羅針盤を失い「進むべき方向性」が分からなくなってしまった時もあった。しかし、その試行錯誤の中、徐々に本来の筆力を取り戻し、打算力に支配された世界を救うために戦う決意を新たに天を見上げた。


 その時だった。ふと天を仰ぎ見てみれば、天空に浮かぶ数多の星の中から、瞳にまっすぐに飛び込んできた一つの星があった。それこそが「北極星」であった。


 「そうだ!迷った時は天を見上げて『北極星』を見つめ直せばいいのだ!この青く美しく輝くいつもブレることのない北極星を見失ってはいけないんだ!」


 青志朗が北極星を見据えて指差し叫ぶ。

「頭上に輝く北極星こそ我らが原点なり!」


 そう思えた時、なんと3つの流れ星が夜空を走り、心の中で「星与心拳ほしとしんけん」もスーッと『星を与える心』と読めた。


 我々、ホモ・サピエンスもレズ・サピックスも、本来は争いごとが好きな種族ではない。どちらかと言えば、言葉というものを編み出し、貨幣や神、来世や天国といった誰も見たことのない世界観さえも創り出し、虚構に基づく神話や小説、理論や共同主観的概念を生み出すことによって、次第にコミュニティを形成し、コミュニケーションを通じて「大規模な協働」を成し得てきたからこそ、社会を形作り発展してきたのだ。


 時には鎬を削り1位の座を争うこともあろう。しかし、同好の士が集うこの「覚世夢カクヨム」という世界にあって、良き作品に出会えたならば、素直に称え、ハートを送り、星を与え、そして、手を動かして感想を送る。これこそが、「まだまだ青き分際ながら、共に志を同じくして、文壇デビューという見果てぬ夢を見、覚めては頭を捻り、必死に筆を走らせ、自分なりの世界を生み出そうとする。それこそが、「青志を以て共に覚世夢カクヨムの世界にて生きていく最良の術」ということなのだと、最終奥義を理解し悟りに到達し得た。



 最大の敵、裸王ラオウと拳とペンという干戈を交えることで、多くの気づきも得られた。そして、まがりなりにも、ここ覚世夢カクヨム世界に、再び秩序と平和を取り戻せた今、ここが潮時と見た青志朗せいしろうが突然ラストダンスを始める。


 つま先立ちになったかと思うと、いきなり、徒手空拳、何もない虚空に向かって、星与心拳を繰り出す。


「アタタタタタタタ、オアタタタタタタタタ、ワァタタタタ、アタタタタタタタ、アタタタタタタタタタ、オアタタタタタタタタ、アタタタ、アタタタタタタタタ、オアタタタタタタタ、ヲワッタ終わったーッ!」


 青志朗せいしろうは、かつて夢に見た青志に立ち返り、本来の想いを天に誓い、すっきりとした澄んだ気持ちで、心新たに本来の道を歩み始めたのであった。これこそが、青志朗せいしろうという、今回、天から与えられた名前の意味するところだったのだろう。このラストダンスとも言うべき虚空への星与心拳を終えたとき、すべての記憶が戻ってきた。自分が青山翠雲であることも、そして、ここが星“エーアデ”であり、今回、ここに来た目的やこれまでの経緯などすべてを思い出せた。


 縦浜に戻り、ユリアに記憶が戻った自分と、この覚世夢カクヨムの世界に、秩序が再び戻ったことを報告し、地球に向けて帰還する意思を伝える。


 宇宙戦艦ムサシにまで戻ってみれば、これまで『芥シリーズ』に登場してくれた主要オールキャスト揃い踏みで、見送りに出てきてくれていた。みんな無事だったのが嬉しかった。最後に多難が続く魚路出位美瑠・是恋好ウォロディミル・ゼレンスキー大統領ともがっちり握手をした。


 1台のオートマ車がクリープ現象のようなゆっくりとしたスピードで港に滑り込んでくると、そのまま、転がっている鞠をタイヤで轢き破裂させてしまった。この芸しかできず、オーディションどまりだった、栗位婦クリープ鞠居無マリームも恨めしそうな表情をしながら、こちらを見つめている。コーヒーミルクグループを形成し、センター的ポジションを飾るスジャータを中心に、珈琲・鈍頼斗コーヒー・ニブライト艦長、尼怒・二度ニド・ニド、そして、よく見れば、惑星ガミタスの通商代表トップのクレマクレマトップまでもが居り、栗位婦クリープ鞠居無マリームを輪に入れながら、こちらに近づいてきた。聞けば、長年、何かと鍔迫つばぜり合いをしてきて惑星“エーアデ”と惑星ガミタスであったが、惑星“エーアデ”の危機に際し、惑星ガミタスが人道的救いの手を差し伸べ、遂には友好条約も締結され二国間貿易もこれから始まるところだという。今回、地球から持ってきたお米は、白飯 真珠しらいい まじゅ監修のもと、シルクライスへと加工してもらい、惑星“エーアデ”から惑星ガミタスに直接、渡してもらい、今回クレマが帰還する船で惑星ガミタスに持ち帰ってもらうことにした。これで晴れて、あのコスモクリーナー タイプEで抱えた天文学的宇宙債務も完済となった。


 代表して、スジャータが一歩進み出て、見送りの挨拶を述べてくれた。


 「お見送りの言葉は、『さようなら』ではなく、父である真鑑がこういう際に言っていた『再見ツァイツェン』にするわ」と。


 お別れの時が訪れた時、最後、AIに打ち勝ったのは、人間のAIだったことにあらためて気づかされ、ようやく訪れた「平和ピース」が『芥 ピース』の意味するところだったのだと青山翠雲氏自身思いが至り、感動巨編ここに極まれり、との確信を得て、筆をく気持ちが固まった。


 見送りに来てくれたみんなが見えなくなるまで、手を振り続けながら、青山翠雲氏は次の文学世界に向けて、飛び立っていった。


               (終)

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