未だ浮かぶ風船。

月猫

第一話 夢の遊園地

メリーゴーランドに、バックに観覧車。もう動かないコーヒーカップ。周りを囲むように線路が張り巡らされているジェットコースターも、

すべてが錆びつき、色褪せている。

そう、何を隠そうここは廃遊園地「バルーンランド」。

開園当時は豪華なキャストに、

期間限定でサーカスなんかもやっていたらしいが、いまやこのザマだ。

お世辞にも天気がいいとは言えないじっとりとした曇り空。

なぜかずっとここに居たくなるような、そんな空間。

人の入っていない着ぐるみが落ちている。「それ」の影が、

張り付いたように動かなかったのが妙に気持ちが悪かった。

だが、一つあることに気づいた。着ぐるみの手が握っていたのは、

まだ、ぷかぷかと浮いている風船の姿がだった。

不気味に思い、目を離した。

が、その直後。突如として風船は割れてしまった。

長年の劣化に耐えきれなかったのだろう。――おかしい。錆びつき、色褪せるまでの時間、風船が耐えていられるはずが無いのだ。では…

そう考えた瞬間、独りでにアトラクションが動き始める。

誰も、何も乗せずに。

さっきまでの帰りたくないという気持ちはさっきの風船のように

弾け飛んでしまった。帰ろうとしたが、何故か出口が見つからない。

そもそもどうやって来たのか、なぜ来たのかすらも、

何故か思い出せない。

その時、直感が動いた。帰るためには、

アトラクションを止めなければならない。そう、感じたのだ。

一番事故が少なさそうなメリーゴーランドから止めよう。と考え、

アトラクションに入った、その時。見てしまった。いや、見えてしまったの方が正しいだろう。「居た」のだ。あの中身の無い着ぐるみが。

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