第2話
シュヴァルツが冒険者協会を去り、解体場に集まった協会職員達。言葉通り本当に竜の死体が持ち込まれており、解体場のスタッフも困惑していた。
「支部長……お疲れ様です」
「うむ、話は聞いているが念の為教えて欲しい」
「はい、ご覧の通りです。例の問題児が討伐した竜を運んで来ました」
体長十メートルを軽く超える大きさは、竜種からすれば小ぶりの部類となるがそれでも竜であることに変わりはない。運搬業者を雇ったのか荷車で運ばれて来る竜を見た時職員達は腰を抜かしていた。
「あらゆる可能性を考慮して調べましたが、竜は本物でした」
偶々見た目が似ている魔物じゃないのか。
偶然見つけた死体を拾っただけではないか。
他人から手柄を奪ったのではないか。
色々な意見が出たがどれも否定される結果に終わった。薄い赤色の鱗が特徴の列記とした竜――レッサードラゴンであり、死因は寿命や病気ではなく戦闘。付近で竜が奪われた事案も発生していない。職員の考えとは真逆な答えが出ていた。
「どうやら致命傷は――この傷か」
元Sランク冒険者だった支部長――ラーク・バルクがレッサードラゴンを観察しながら呟く。鉱石よりも硬いとされる竜鱗は傷付き剥がれている。魔法によるモノなのか焼き焦げた跡も確認出来るが、致命傷は心臓部を貫かれたことによるもの。迷いのない一太刀によってこの竜は生涯を終えたのだと想像が付く。
「並の冒険者では不可能だろう。上位ランクが揃ったパーティでなければ戦いにはならない」
「……Zに協力者が?」
首を振るラーク。
クロム王国で最も低いカーストにいるシュヴァルツに誰かが協力するとは思えない。あるとするなら金の関係だが、命を犠牲にする可能性がある中で竜の討伐に手を貸す者などまずいない。シュヴァルツの性格からしても単騎で討伐したと考えるのが普通だろう。――これまでの実績もある。
「それで、彼は買取を望んでいると?」
「はい。『お前達は口を開けて待つ雛鳥みたいだな』と。許せません!」
憤りを隠せない解体場の職員達を見れば一悶着あったことが容易に想像出来る。いつものように毒を吐いたのだと。
「態度はともかく、身元がはっきりしていて同意しているのなら、こちらが拒否するわけにもいかん。作業を進めてくれ」
ラークの発言を聞いた職員達はあからさまに嫌そうな顔をする。だが断る理由がないのも事実。これで無碍な扱いをしてしまえば、いくら相手が国随一の嫌われ者だとしても協会側には正当性を証明する根拠がない。
クロム王国内では支持されるかもしれないが、他国からすればそれは関係ない。協会は複数の国、大陸中に拠点を持つ非政府組織。個人の感情が対応に出てはならない。――それでもシュヴァルツの扱いだけは例外となっていることをラークは心苦しく思う。
(言葉は決して褒められたものではないが、実績だけなら十分すぎる。そもそも彼から問題を起こしたことは一度もなかった)
――『永遠のZ』。
随分と不名誉な二つ名が定着したものである。ラークとしては正式な冒険者として認めたい想いがあるが、シュヴァルツを取り巻く環境は良くも悪くも特別すぎる。
クロム王国から圧力をかけられているわけではないが、冒険者として認めてしまえば確実に両者間で確執を生むことになる。冒険者ランクは信頼の証。それを断罪された元王家に与えることが何を意味するのか。冒険者協会という巨大組織の後ろ盾を得た元王子の存在を王侯貴族はどう思うのか。余計な混乱と争いを生むことをラークはもちろん、冒険者協会は望んでいない。
「……せめて、あの態度だけでも改めてくれればな」
「支部長? 何か仰られましたか?」
「何でもない。またあの少年は来るだろう。対処が難しければ直ぐに私や上に連絡するように」
全てを拒絶する瞳。執拗なまでに力に執着する理由。それらを知ることが出来れば関係性は変わるのかもしれない。
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