断罪王家の生き残り〜全方位敵だらけですが力で捩じ伏せます〜

塚上

第1話

 冒険者の街――ハイベル。

 魔物の討伐、ダンジョン攻略、植物や鉱石の採集から人探しにペットの世話など、多岐に渡る依頼を受けて生きる糧を得る職業――冒険者。

 ハイベルは王国内でも発展した都市であり、周囲にはダンジョンや自然地帯も隣接する立地から冒険者には好まれ、商人も集まる街として名が知れている。

 ――人が多い場所には金が回るのだ。


 依頼人と冒険者を繋ぐ国に属さない民間組織――冒険者協会。様々な要望を依頼という形で請け負い冒険者へ斡旋する。難易度、冒険者の実力、パーティメンバーの有無から的した依頼を割り振るのも協会の仕事である。

 

 冒険者やパーティにはランク付け制度が導入されている。最上位がS、駆け出しがE。新人は依頼をこなしながら実力を身に付け、上位のランクを目指すのだ。

 冒険者からしてみればランクとは力と信頼の証。上位ランクであるほど受けられる依頼の幅が広がり、報酬が良くなり、待遇も変わる。国の目に留まれば王国軍入りや貴族との専属契約というのも見えてくる。刹那的な生き方から安定を得られるのなら誰もが上を目指すのも無理はなかった。


「おいおい、また来てるぜ」


「『永遠のZ』様だってよ。思い付いた奴天才かよ」


 どんな素人でも冒険者登録が認められればEランクの称号が与えられる。年齢等の理由から未成年者の登録に制限がかかることもあるが、逆に登録が認められることもある。依頼の管理は協会が行うがそれ以外の命を含めた管理は自己責任ということである。つまり、冒険者のスタートはEランクでそれ以外は存在しない――例外を除いて。


「あいつ薬草集めすら受けられないんだろ。ワンコロの散歩すら認められないとか傑作だぜ」


「国賊なんだから当然だ。生かしてもらえるだけありがたいと思えってな」


 協会の依頼は冒険者しか受けられない。そこに例外は存在しない。関係ないのだ。

 素材の持ち込みやダンジョン探索で得た宝物などの買取サービスも存在するが、登録された冒険者以外は手数料として五割近くが徴収される。これは単なる意地悪ではなく、素性の知れない者と商売するのは協会側にもリスクがある為、その回避行動という意味合いが強い。さすがに利益の半分が没収されるなら冒険者登録しよう、他で売ろうとなるのだ――普通なら。


「りゅ、竜種……ドラゴンの持ち込みですか」


「解体場の連中とは話を付けている。この伝票が読めないのか?」


 冒険者協会スタッフの若い女性と素材を持ち込んだ少年の会話に全員が注目している。――黒髪。この国では最も忌避されている唯一の存在が異様な空気を放つ。


「聞いたかよ、竜だとよ」


「ふんっ、詐欺に決まってる。それか他人から奪い取ったんだろうよ……Z最底辺が調子に乗りやがって」


 魔物の最高峰、生物の頂点に立つ竜というワードが国一の嫌われ者の口から出たこともあり協会内は騒がしくなる。


「て、手数料の決まりをご存知でしょうか? かなりの額を頂くことになりますが……」


「お前達協会が決めたルールの判断を俺に委ねるのか? 買うのか買わないのかさっさと決めろ。判断が出来ないなら上を読んで来い、時間の無駄だ」


 涙目になる職員を無視して淡々と雑言をナチュラルに浴びせる少年。その名はシュヴァルツ・ファン・ヴァイス。

 クロム王国の過去の名であり元々は王家であったヴァイス家唯一の生き残り。王や王妃、王子に王女の全員が王都で斬首されたが彼の少年だけが生かされていた。


 他の貴族に対する見せしめなのか、戒めか、単に幼子だったからかは分からない。を途絶えさせない為という理由も囁かれるが実情は不明である。


「……時間の無駄だ。また明日出向いてやる。それまでに決めておけ」


 ヴァイス王家の家紋が刺繍された衣服を堂々と身に纏ったシュヴァルツは冒険者協会を後にする。背中の家紋に向けて冒険者達がブーイングを飛ばすが何食わぬ顔で歩いてゆく。まるで眼中に無いという態度が余計に冒険者を逆撫でするが、誰も手は出そうとしなかった。

 

 元王子の肩書もあるかもしれないが、もっと根本的な部分からそれを行う者はいない……否、いなくなった。

 過去に敵対行動を取った者は全員がハイベルを立ち去っている。国賊だからという理由で剣を抜いた彼らは全員返り討ちにあったからだ。武器は折られ、鎧は砕かれ、魔法はより強力な魔法によって塗り潰される。十五歳の少年に心身共に蹂躙された者達は二度と歯向かうことは出来なくなるのだ。


 下手に絡み、手を出せば相手に大義名分を与えることになる。非が相手にあればシュヴァルツは容赦しない。辛辣な口撃と圧倒的な剣魔で邪魔者は全て叩き潰す。

 逆に現在のように外野からヤジを飛ばす程度であれば反撃をしない。一生埋まることのない冒険者ランクの差についても文句を言わない。依頼の全てを受注出来ないとしても。――それらを分かっていて離れた位置からしかヤジを飛ばせない冒険者は何とも情けない。だが、それが許容される程にヴァイス家に対する国民の悪感情は高いのだ。


 ――ヴァイス王家が敵対国と繋がっていた。それが露呈し王族は断罪。新たな王国――クロム王国が誕生したのは十年前である。

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