『最弱のリターナー』〜脅威! 古代ゴーレムの暴走〜

 この世界では、誰もがスキルをレンタルして生活している。

 攻撃魔法、鍛冶、鑑定――高価なスキルを借りられる者ほど、成功を手にする。


 金のない俺が借りられたのは、月額わずか300リール、誰も見向きもしないハズレスキル【返却リターン】だけだった。


 【返却リターン】の能力は、実に地味なものだった。

 レンタルされた道具を、借りる前の新品同様の状態に戻す――ただ、それだけ。


 俺はこのスキルを使い、街のレンタルショップで清掃員として働いていた。

 冒険者がボロボロにして返却した剣を磨き、料理人が焦げ付かせた鍋をピカピカにする。

 人々は便利なスキルを借りて夢を追い、俺はその後始末をする。そんな日々に、何の希望も見出せずにいた。


「お前も、もっといいスキルを借りればいいのに」


 同僚はそう言うが、俺にはそんな金も、才能もなかった。



 そんなある日、街が揺れた。

 古代文明の遺物である巨大なゴーレムが、長い眠りから目覚め、街で暴れ始めたのだ。

 騎士団の魔法も、高ランカースキルを持つ冒険者の攻撃も、硬い装甲に阻まれて全く通用しない。

 誰もが絶望し、街の終わりを覚悟した。


 俺は瓦礫の陰から、破壊を繰り返すゴーレムを呆然と眺めていた。

 その時ふと、ある考えが頭をよぎった。


(この世界に存在するありとあらゆるものは、どこかから・・・・・何かを借りて・・・・・・出来たものだ。だったら、あのゴーレムも――――?)


 古代文明が、強大な力を「自然」そのものから「レンタル」して作り上げた存在だと考えられないか。

 そして、長い年月を経て契約が切れ、制御を失って暴走しているとしたら――――


 馬鹿げた考えだと、自分でも思った。

 だが、試してみる価値はあるかもしれない。

 俺にできることは、これしかないのだから。


 俺は瓦礫の山を飛び出し、ゴーレムの足元へとひた走った。


「馬鹿、死ぬぞ!」

「何考えてんだ、あいつ!」


 人々の叫び声が聞こえる。

 巨大な拳が、俺の頭上高くから降って来る。


「スキル発動、【返却リターン】ッ!」


 俺はゴーレムの足に手を付き、ありったけの魔力を込めて叫んだ。

 俺のスキルが、ゴーレムという「レンタル品」に適用されることを祈って。


 次の瞬間、ゴーレムの動きがぴたりと止まった。

 全身がまばゆい光に包まれ、その巨大な身体を構成していた岩や金属が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。

 そして、光が収まった後には、ただの土や石、鉄鉱石の山が残されているだけだった。

 ゴーレムは、あるべき場所――「自然」へと、無事に返却されたのだ。


「な、何が起こったんだ……? ゴーレムがひとりでに……」

「ともかく、これで助かったわね!」

「バンザーイ!!」


 街は救われた。

 だが、俺が世界を救ったことを知る者は誰もいない。



 翌日、俺はいつも通りレンタルショップへ向かい、冒険者が汚した盾をピカピカに磨いていた。

 俺の日常は、何も変わらない。――それでいい、と今は思える。


 この地味なスキルも、案外悪くない。



(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る