予知能力
リュウ
第1話 予知能力
「……ヨチが出来るんだよ」
私は、その言葉の方を振り向いた。
私は、この公園のベンチに座って遊びまわっている子供たちを眺めていた。
私も幼い頃だったと心を寄せていた時、この声が僕の耳に飛び込んできた。
いつのまに私の横に子どもが、ちょこんと座っていた。
言葉の主だろうか。
僕の腰ほどの男の子だった。
その子は、私を見上げていた。
私の耳に届いた言葉を発したのはこの子だろうかと戸惑いながら顔を覗き込んだ。
子どもは、鈍い奴とでも言うように唇を尖らせて私を睨んだ。
「だ・か・ら、人間はヨチが出来るんだって言ってるだろ」
私に向かって偉そうな言葉をかける。
やはり、私に話しかけていたんだ。
私は、小さなころから、なぜか知らない人に話しかけられる。
公園の子供や道を聞くお年寄り。
その度に僕は、訪ねた人の目線を合わすために腰を落とした。
今もこの子の目線と並行になるように腰をかがめた。
子どもの目を見ながら、訊いた。
「ヨチって?」
「未来がわかるってこと」
「ああ、その予知ね。難しいこと知ってるね」
「あっ、バカにしてる?」
「そんなことなないさ」
「調べたんだ」
私は、頷いて次の言葉を待っていた。
「人間がこれまで生き残ったのは、何故だと思う?
絶滅危惧種が増えているのにさ」
私は頷く。
「で、考えたんだ。他の動物に無くて人間にあるものは、何か」
「予知能力」私が答える。
「そう……予知能力は、みんな持ってるんだけど、個人差があるんだ」
「個人差って?」
難しい話なので、僕の眉間に皺が寄る。
「予知できる時間の長さ」
「時間の長さ?」
「おじさん、込み入ったこと訊いていい?」
お・じ・さ・ん。
まだ三十代の私をおじさんと呼ぶのか、少しムッとした。
この子どもからみたら、おじさんかもしれないが、
お兄さんにしてほしかったかな。
「ああ、いいよ。訊いてごらん」
大人は、こんなことで怒ってはいけないと、心の広さをアピールした。
「おじさん、女の人と付き合ったことある?」
それか……。面倒くさい質問だ……。
「あ、あるさ。当然だろ。おじさんなんだから」
おじさんを強調して、答えた。
「でも、一人でしょ。ルックスもいいし、健康的なのにね」
「ルックスもいいし、健康的なのにね」って言葉が、私の心に引っ掛かる。
「ああ、なんで私が一人だって、わかったのかなぁ」
「だって、公園でこんな時間に居るからさ」
「確かに、独身だけど……」
「着ている服もおしゃれだし、いい仕事している風に見えるけど、なんで一人なの?」
「それは、僕にもわからないさ。収入は平均より上だし、センスや趣味も悪くないと思うよ」
僕は、大人げなくイラついた口調で答えた。
付き合ったことがあったが、何となくしっくりこなかったのは、事実だ。
しかし、気にしていることをズケズケというなんという子供だ。
最近の子どもは生意気だ。
SNSとかAIのせいか?
そんな私を見て、子どもは、ニヤッと微笑む。
「僕は、おじさんのこと好きだよ。
こうやって、僕の話に付き合ってくれる。
誰にでも優しいじゃない?」
「……優しいとは、よく言われるよ」
誰にでも優しいのが、原因か?
「好きな人は居ないの?」
「ああ、居ない」僕の声が段々と小さくなる。
「まだ、好きな人と出会ってないじゃないの」
「そうかなぁ……」
「大丈夫、きっと出会えるよ」
子どもは僕の肩をポンと叩いた。
私は、慰められているのか……。
「なぜ、人は結婚すると思う?」
子どもは、一呼吸置くと話を続けた。
「ビビッときたとか、一目ぼれしたとかあるでしょ……
あれは、一緒に生きていく未来が見えたか……
体の細胞が未来に期待したからだと思うんだ。
この人と一緒に居れば幸せになるって予知したからだって」
「でも……別れる人もいるぞ」
「予知する時間に個人差があるんだって……。
予知する時間が短ければ、その先にあるトラブルが見えないんだ。
トラブルにあった時、落胆した方が別れたいって思うんだ」
「なるほど……面白い考えだ」
私は、感心していた。
「おじさん、僕のこと好き?」
「ああ、しっかりしてるし、活発だし、好きだよ」
「オレも好きだ。お父さんにしてあげてもいいくらい」
「……ええっ、お父さん?」
「うん、僕、お父さんが居ないんだ」
突然、子どもが振り向いた。
遠くから、女の人が手を振ってこちらに歩いてくる。
背の高いスレンダーな体系。
派手な顔ではなくて、整っ綺麗な顔立ち。
「素敵なひとだ」私は、心の声を上げ、見つめるだけだった。
たぶん、私の瞳孔は開いている。
私と子どもの前に来ると、しゃがみ込んで両手を広げた。
子どもは、女の人の胸に飛び込んでいく。
抱きしめあう二人。
親子なのだろう。
幸せそうだ。
女の人は立ち上がると、子どもに手を引かれて、私の前になってきた。
「これ、僕のお母さん」女の人が会釈した。
「こんにちは、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
綺麗な声だ。
「……全然……楽しいお話を聞きました」
「このおじさん、気に入ったんだ。お父さんにしてよ」
子どもは、私の手を握って言った。
「あら、何言っているの?」
女の人は、子どもに目を向け恥ずかしそうにしていた。
私は、何か変な気分だった。
この女の人と子どもと笑いながら暮らしている映像が頭に浮かんできた。
もしかして……
これが私の予知能力。
予知能力 リュウ @ryu_labo
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