第44話 深い夜
勇者は聖女達を弔った。
そして帰るのかと思ったが、意外なことに奥へ進んできていた。
道に迷った? 違うな。もう後には引けないということだろう。
こちらには好都合。
時刻は0時を回った。
持久戦だ。
12階層は一瞬で突破された。凄い勢いだった。聖女達がやられた怒りがあったのかもしれない。罠とかがなかったので、そっちの方が大きいかもしれないが。
しかし13階層では、少し落ち着いたようだ。元のペースと同じくらいのペースで、進み始めた。
いや、聖女達がいた頃より少し速いかもしれないな。勇者一人のほうが動きやすい。そんな感じがした。魔物の横をすり抜けたりすることが多くなっていた。
そこで14階層では、魔物を減らし、網網の罠を増設した。時間はこちらの味方だ。時間が経つほど、勇者の動きは鈍るだろう。
ポーションも新たに一つ、使わせることができた。後何個あるのか知らないが、使い渋る様子が結構あるので、少ないのだろう。
そして15階層。
ここまで来ると、制限ポイントは5500もある。ボス部屋に来るまでにどう削るか。
迷ったが、やはり網網の壁や罠を多めにすることにした。勇者のスピードを捉えるのは簡単ではないからだ。
魔物だけでは抜けられる。ゆえに壁を置き、罠を置き、魔物を置き、削ることにした。さらに魔物を別の場所に集中させるブラフも行なった。
そして早朝5時。勇者が15階層ボス部屋前にたどり着いた。
今、勇者のステータスがどうなっているか、鑑定カメラは置いていないので分からないが、少し疲れているように見える。
探知魔法も使っているなら、MPもそれ相応に消費しているだろう。勇者はボス部屋の前で少し座り休むが、そうはさせじとおれはオーク(2000ポイント)を送り込んだ。
やはり15階層ともなると、ポイントにも余裕ができるな。
勇者はオークが近づいてくるのを探知したのか、座りながらそちらの方をじっと見ていたが、オークが目視できる距離に来ると、ボス部屋の扉の前に歩き、オークが到達する頃、中に入った。奇妙な落ち着きがそこにはあった。
勇者がボス部屋の中に入り、トコトコと歩く。静かな中に足音が響いた。
その眼の前には、500ポイント分のスライムとゴブリンが。
そして奥には壊れる壁で作られた分厚い壁があり、その奥には上級ゴブリン魔道士がいた。
元々はゴーレムとオーク、余りのポイントでゴブリンやスライム、という構成だったが、変えたのだ。
理由は勇者の力を見て、この方が良いと思ったから。
勇者のあの光る剣。何発撃てるのか知らないが、あの一撃でやられるなら問題だ。さらに勇者は上級ゴブリン魔道士に結構なダメージを与えられていた。だからこそである。
ボス部屋の通路は少ないが、そこに穴を開け、さらに壁がない部分には壊れる壁で念入りに壁と通路を作り、上級ゴブリン魔道士がその壁の向こうから攻撃できるようにしていた。
つまりあの部屋の再現だな。
そして残った制限ポイントは5000。ゴーレムを召喚してもいいが、前衛としては簡単に抜けられそうで不適格。さらにスライムなどを置くことができないため、探知魔法も防げない。
よって、より壁を分厚くしたり、ゴブリンやスライムを召喚したり、上級じゃないゴブリン魔道士を召喚したり、ミニゴーレムを召喚したりするに留めたのだ。
オークを召喚しようかとも迷ったが、防御力のスペックが特に高いゴーレムであれである。オークも一撃でやられるだけと判断した。
代わりにミニゴーレムはスライムを纏っているし、天井にもスライムを仕込んでいるし、上級ゴブリン魔道士にミニゴーレムと剣士ゴブリンの護衛もつけた。
大事なのは最初の一撃になるだろう。
上級ゴブリン魔道士の位置を悟られていない最初の一撃だ。
勇者が手慣れた様子でゴブリン達を掃討していく。
そこにゴブリン魔導士3体とタイミングを合わせ、上級ゴブリン魔道士が例の雷の魔法を撃った。
ちなみにゴブリン魔導士はそれぞれ、炎の球、水の矢、炎の矢を撃った。色々な魔術を撃つことで少しでも勇者の判断を難しくするためである。
速さの関係で、雷の魔法が最初に勇者に到達した。勇者もさすがに警戒していたようで、身体を逸らしてそれを避けた。
「ぐっ!」
しかしお腹に少し掠めた。それで少し痺れたらしい。動きが一瞬鈍り、そこに炎の球が炸裂した。
上級ゴブリン魔道士が追撃に雷の矢を放つ。勇者は地面に転がりつつ、近くにいたゴブリンを盾にして防ごうとした。しかし雷の矢はゴブリンを貫通し、勇者の右太ももに当たった。
「が゛っ」
痺れ、片膝をついた状態で勇者は耐える。
そして耐えながら、剣を光らせ、横薙ぎ。周囲の魔物を一掃した。
しかしそこに炎の矢と炎の球が迫ってくる。
ゴブリン魔道士達の2発目である。
勇者は炎の矢を剣で弾き、地面に伏せることで炎の球を避けた。
そして起き上がり、壁に近づき、剣をぶつける。が、残念。壁にはヒビが入るに留まる。
これまでとは分厚さが違うのだ。
そして至近距離から、炎の魔法を喰らい、勇者は後ろにノックバックした。
彼女はすぐさま水魔法を使い、頭から水を被る。水魔法まで使えたのか。
しかし身体を濡らせば、あの時と同じだ。雷が通りやすくなる。
勇者は急に横に跳び、そのままピョンピョンと移動し始めた。
狙いを定められないようにしているのだろう。
あちこち縦横無尽に動きながら、壁にダメージを与えていく勇者。困ったな。
ゴブリン魔導士3体は水魔法を使い、勇者を撃つが、当たらない。
そして1匹がやられた。
魔法を撃つための隙間に剣を差し込み、刺し殺したのだ。
そして再度、跳ね回る勇者。しかしそこに電流が走る。
「ぐぁ゛」
勇者はバシャンと地面に転けた。
バシャンと。
そう。あのゴブリン魔導士達の水魔法で地面は水浸し。ダンジョンの環境維持の効果でもう水は引き始めているが、一瞬あれば充分。上級ゴブリン魔導士が雷の魔法を撃ち、勇者を感電させた。
さらに2匹のゴブリン魔導士が勇者に向けて、水球を撃つ。勇者はすぐさま起き上がり、ふらつきながら横に跳んで避けた。
空中にいる勇者に、上級ゴブリン魔導士の雷の矢が迫る。勇者は剣でそれを受けるが、痺れたらしく、体勢を崩し地面に落ちた。
勝負あったか?
しかしその時、勇者の剣が光だし、先程雷の矢が飛んできた方向の壁にその剣を叩き込んだ。壁は壊れ、そのすぐそばには上級ゴブリン魔導士。
そして、護衛のミニゴーレムとゴブリン。
勇者は剣を振り抜いた状態でミニゴーレムの拳を受け、吹き飛んだ。
「かはっ!」
そしてその衝撃で剣を落とし、壁に叩きつけられた勇者に、雷の矢が刺さる。
「あぁ゛」
雷で痺れ、苦しそうな声を出し、そして倒れ込む。
そのまま。
そのまま勇者は静かに動かなくなった。
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