第41話 障子に目あり

 12階層の偽セーフティエリア。おれはそこで勇者達を不意打ちする。


 そのために12階層もこれまでと同じように、スライムが至る所にいるよう、仕込んでいる。


 勇者の探知魔法対策である。


 普通なら、偽セーフティエリアの周りに魔物が集まってきたら怪しむだろう。だが、最初からスライムがいたら? 他の階層も同じ感じなら? きっと気にしないはず。


 そして勇者達が12階層の、偽セーフティエリアに来た。




「ふ~。やっと休めるよ」

「そうですね。お疲れ様でした」

 偽セーフティエリアに入ってきた勇者と聖女が言った。

 どうやら完全に油断しきっているようである。まあ13時間ほぼぶっ通しでダンジョンを攻略してきたのだから、当たり前か。


 現在、時刻は22時を回っている。9時から入ってきて、1階層ごとに平均1時間ぐらいかけたのだから、こんなものだろう。それに加えてボス部屋もあったしな。


 道中歩きつつ、干し肉などは食べながら来ていたので、食事は十分だろうが、疲れや眠気は蓄積しているはずだ。そこに現れたセーフティーエリア。


 もしかしたらここで夜を越すということもあり得るんじゃないか? その場合、寝ているところを襲うべきか、それとも寝かす間もなく襲うべきか、どうしようか。難しいな。


「リーナ様。一応探知魔法の発動をお願いします」

 青髪の女はそこまで油断しきっていないらしい。勇者にそうお願いした。


「大丈夫。中には罠も魔物もいないことは探知済みです」

 勇者が得意気に言った。

 それで青髪の女もようやく少し気を休めることにしたらしい。

「ありがとうございます」

 そう言って、椅子に腰を下ろした。


 さて、どうするか。


 今から襲うか、寝るまで待つか。それとも誰かがシャワーを浴び始めるまで待とうか。


 その場合、聖女か青髪の女が浴びている時がいいな。勇者は裸でも気にせず突っ込んできそうだ。


 いやしかし。勇者の動きが鈍る方に賭ければリターンもでかそうである。何せ勇者が彼女達の最大戦力なのだから。


 逆に聖女が浴びている時はそんなに意味がないかもな。普段の戦闘でもそこまで役立っていないし。


 それかシャワーを浴びている奴を最初に狙うというのはどうだろう。そんなこともあろうかと、壁には小さく穴を開け、それを壊れる壁で薄く隠してある。そこからゴブリン魔道士の魔法で奇襲する。それかスライムをこっそり中に入れて、顔に張り付かせる。


 うん。それでいこう。良さそうだ。弓矢でもいいが、彼女達の防御力の前では効かなさそうだしな。ゴブリン魔導士(上級)は3000ポイントだったか。12階層の制限ポイントは4000ポイントまで。今、12階層にいる魔物達を下げればいける。


 生成器から生成したスライムやゴブリン、最低限の罠だけは怪しまれないように残しておいて、ゴブリン魔道士(上級)の魔法でシャワーを浴びている誰かを奇襲する。


 それで決定だ。




 となると誰がいいだろうか。順番にシミュレーションしてみよう。


 聖女はありだ。本人の戦闘能力も弱いし、簡単に奇襲できそうである。しかし、殺りそこねた場合、回復される恐れがある。鑑定結果的には、持ってるスキルは回復魔法だけだし、他の連中より防御力も低そうなので殺りきれる可能性は高そうだが……。


 次に勇者。これもあり。殺りきれない可能性は高いが、もし殺れたらリターンがでかいし、そうでなくても最低限戦線からしばらくの間離脱する。その隙に他の魔物に襲わせれば、悪くはなさそうだ。ただ、結局青髪の女に時間を稼がれている間に聖女に回復されてしまう可能性が高いか。防御力も高いしな。


 最後に青髪の女。コイツもありだ。勇者達程ではないがリターンはあるし、殺りきれる可能性もでかい。10階層のボス戦でも、こいつがいなければもっと善戦できた可能性が高い。ただ他の面子より少し警戒が強いのが厄介か。魔法の発生を感知される可能性もあるか? 鑑定結果的にはそういうスキルは持ってなさそうだが……。


 そう考えると聖女なんだよな。聖女がいなければ、勇者達の回復手段はかなり減る。ポーションを持っていなくて、誰も回復魔法が使えないなら、回復できなくなる可能性もある。


 だが、そうなると彼女達は撤退するか? …まあそれならそれで良いだろう。その間にまたダンジョンは力を蓄える。


 問題は聖女か青髪の女か、どちらにするか。勇者はリスクが高いのでなしだ。


 聖女か、青髪か。


 そうだ。今セーフティーエリアの近くで魔法を発動したら、彼女達は気づくのか試してみるか?


 いや、それで警戒心が高まっても問題だ。


 やはり聖女かな。一番殺りきれそうだし。それに青髪の女を殺したところでリターンは薄い。そのまま下に降りてきてくれるなら良いが、そうではなく撤退していくなら、また同じことの繰り返しだ。正直青髪の女の代わりはいそうだからな。


 聖女なら、肩書的にも唯一無二な気がする。今のところ凄いところは見ていないが、聖女と呼ばれるなら特別であるはずだ。


 うん。そうだな。ターゲットは聖女だ。





 現在のポイント:2万11

 ちなみに、シャワールームだけでなく、他の部分にも壁が薄い部分を作っている。勇者に感知されたらマズイので、中に入れるのは聖女に攻撃した後だが、しかしそっちでもスライムによる奇襲はする予定である。


 しかしこれで彼女達の裸も見納めかと思うと寂しいな。


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