第29話 神の恵み

 5階層は所々に雑草の生えた迷宮である。


 それを利用した見えにくい所からの矢の罠がメインの仕掛けだが、さすがに彼らも突破してきた。


 何回か矢に貫かれていたが、その都度、回復魔法で治療しながら進んできた。


 せめて矢の罠(上)が設置できればよかったのだが、制限ポイント的にきつかった。


 今、彼らはボス部屋の前にいた。


 ボス戦前の休憩というわけだな。定期的にゴブリンを送り込み、邪魔をする。


 彼らは少しの間そこにいたが、あのままゴブリンに邪魔されるより、さっさとボスに挑んだ方が良いと判断したらしい。


 中に入ってきた。


 彼らが警戒して辺りを見回す。しかし敵は見当たらない。奥の壁の影に隠しているからな。何だかんだでボス部屋の広さは、その階層の4分の1はあるのだ。


 とはいえ、奥に配置しすぎると休まれてしまうので、すぐそこの壁裏にいる。


 白装束の1人がバネ罠を踏み、ガクンと体勢を崩す。その瞬間、スライムが天井から落ちてきて、さらにミニゴーレムとゴブリン10匹が壁裏から姿を現した。


 白装束の1人がミニゴーレム達に向かって駆け出した。そして、自爆。芸がない。


 前に出たゴブリンが3匹がかりで覆い被さり、爆発を抑え込むことに成功した。


「なっ…⁉︎」

 もう自爆は散々見たからな。言い含めておいたのだ。ミディアムヘアの女レベルの爆発じゃなければ、こんなものである。


 とはいえ、他のゴブリン達も少し爆発を喰らったらしい。ミニゴーレムも少し傷がついていた。


 白装束の連中は、保護派の爆発を一対一で抑えていたはずだが、こちらは3人がかりでこれである。


 何か魔力的な防ぎ方があるということだろうか? 魔力で抑え込む的な何かが。


 しかし分かってもどうせ魔力なんて使えない。とりあえず置いておこう。


 大事なのは今である。白装束達は今、スライムを退治し終えたところだった。


 そこにゴブリンが斬りかかる。4匹が風魔法で吹き飛ばされ、1匹が火魔法で焼かれた。


 残りの2匹とミニゴーレムが襲いかかる。少し遅れてその時、風魔法を発動する白装束達。


 ゴブリン達を吹き飛ばすことには成功したがしかし、ミニゴーレムは飛ばない。重いからだ。


 ミニゴーレムが白装束の1人を殴り飛ばした。ぶっ飛んで壁に叩き付けられる。ピクリともしない。


 白装束が散り散りに逃げ出した。

 しかし1人がバネ罠に足を引っ掛け、こけた。


 そしてミニゴーレムに叩き付けられた。


 これで残りは3人。


 しかしその時、ミニゴーレムに三方から魔法が飛んできた。距離を取った白装束達が撃ち始めたのだ。


 火魔法で削り、風魔法で体勢を崩す。ミニゴーレムの速度は遅い。こうなるともう追いつけず、ついにミニゴーレムはやられた。




 これにてボス部屋は終了である。

 これから15分間、ボス達はリポップしない。


 しかし15分後からは、周囲に冒険者が居ようとリポップさせることができるようになる。もちろんポイントは必要だが。


 これがボス部屋の強みである。


 彼らもそれを知っているのか、特に休むこともなく、先に進み始めた。ちなみに帰りはボス部屋を迂回して進むことができるので、良い判断だ。これも知っているのだろうが。


 彼らが6階層に降りると、すぐ目の前に明るい部屋があった。そう。偽セーフティエリアだ。


「なんだあれは…?」

「もしかしてダンジョンの核がある部屋では?」


「そんな馬鹿な……まだ続いているぞ」

「…行ってみますか?」


「あ、ああ」

 彼らはどうやら偽セーフティエリアに行ってみることにしたらしい。…いいぞ。


 ちなみにダンジョンの核というのは、最下層を攻略したら現れる階段を降りた先にあるクリスタルのようなものである。攻略しないとそこには行けないので、おれも見たことはないが。インプットされている知識にあった。


 彼らが知っているということは彼らは行ったことがあるということか? それか彼らも知識だけか……。


「核はないようだな……」

「ですね」


「代わりに椅子がありますよ」

「ああ。なぜ椅子が……」


「隊長。見てください」

「なんだ?」


 そこにはモルダン教を象徴する、同心円に十字が重なったようなマークがあった。


「モルダン教のシンボルです」

「どうしてこんなところに…」

 それはおれが冒険者から回収したものを参考に壊れる壁で作ったからだ。良い仕込みだろう?


 本当はこれに加えて聖書でも置いておきたかったのだが、ダンジョンに置いた誰のものでもないものは15分で消えてしまう。


 この前試しにおれのものとして、冒険者の古びたカバンを置いてみたが無理だったからな。


 これが精一杯である。


 シンボルを見て油断したのか、それとも疲れたのか、隊長は椅子に座り、言った。ちなみに椅子も壊れる壁で作ったものなので、厳密には椅子ではない。

「…ちょっとここで休んでいくか」


 その時、ゴブリンが部屋の前を通りかかった。


 彼らはさっと立ち上がって構えるが、ゴブリンは部屋の前でウロウロして、どうにか入れないか、横の壁を叩いてみたりするだけである。


「なんだ…?」

「来ませんね」


 そうしてしばらくすると悔しそうにゴブリンは立ち去った。

 もちろん演技である。


 その後も何度かゴブリンにそこを訪れさせた。さらに、ミニゴーレムにも。


 そうして魔物達が入らないのを見て、彼らは確信したようだった。


 そこは魔物が入ってこれない、聖域なのだと。



 現在のポイント:3万1115

 実は彼らが偽セーフティエリアに行った時、本当にそれでいいのかと少し葛藤した。折角あそこまで消耗させたのに、という思いが頭をよぎったのだ。

 しかし、ここまでで消耗する奴は所詮雑魚。偽セーフティエリアの目的は手に負えない奴を油断させ、仕留めることである。そのための仕込みなのだから良いのである。多分。

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