第22話 もったいない
爆発の煙が晴れると、そこには血を流して倒れ込んでいる付き人と、それに覆い被さられている聖女がいた。
爆発の原因と思われる、助けを求めていた冒険者達は6人全員が焼け焦げ、既に死んでいるようだった。一応言っておくと彼らは保護派の連中である。
おれは揺れている映像をずっと見ていたので少し酔いそうだった。
「リディア? 大丈夫ですか⁉︎」
聖女が煙に咳き込みながら、恐らく付き人に言った。
しかし返事はない。聖女は付き人に左手を当て、その手を光らせた。回復魔法だろうか。しばらくそのまま光らせていたようだったが、やがて力なく止んだ。
「そんな……」
どうやら死んでいるらしい。聖女の反応からそう分かった。
少し後ろにいた新人冒険者ちゃん達が駆け寄ってくる。
「聖女様! 大丈夫ですか!?」
彼女らも所々傷を負っているが、そこまで重症ではないようだった。
彼女らに話しかけられると、聖女は言った。
「大丈夫です」
そう言うと彼女は息絶え絶えに、自らの焼け焦げた右腕を治療し始めた。すぐにシミひとつない綺麗な肌に再生した。
聖女は右腕を治療した後、新人冒険者ちゃん達を治療し、ふらついて膝をついた。
「聖女様⁉︎」
「大丈夫。ただの魔力切れです」
「そうですか……」
辺りを沈黙が包んだ。
「その、リディアさんのことは…」
その沈黙を破り、新人冒険者ちゃんが話しかけようとした、その時、新たに保護派の連中が彼らを囲うように現れた。敵であることは明らかだった。
「マジかよ」
ドンクが言いながら、短剣を構えた。
「リーナ! 聖女様を連れて逃げろ!」
黒髪の剣士が恐らく新人冒険者ちゃんに言った。
「でも」
「聖女様を頼んだ」
ドンクが目を合わせて、真剣な表情で言った。新人冒険者ちゃんも答えた。
「……分かった。聖女様、逃げましょう」
新人冒険者ちゃんはそう言うと、聖女を背負った。大きな胸が背中でふにゅりと柔らかく歪んだ。
「ですが……」
聖女が反論しようとするが、新人冒険者ちゃんの辛そうな表情を見て、やめた。
「…分かりました。皆さん、ご武運を」
そう言い残し、逃げていく。保護派の連中が止めようとするが、赤リボンちゃんの魔法が炸裂し、さらにドンク達の決死の攻撃に邪魔されていた。
逃すかよ。
おれはコウモリネットワークでゴブリン達に先回りさせた。
「いくら命を使ったとはいえ、あの威力の魔法を放った奴らの仲間。かなりの実力者のはずよ。皆気をつけて」
「わかってるさ……」
「勝とうぜ!」
「ええ!」
そんなドンク達の映像を尻目に、おれはコウモリに指示を出し、先回りさせる。
現在、他の冒険者は幸運なことに3階層にはいない。しかし2階層にはたくさんいる。
3階層から逃したら終わりだ。おれはゴブリン達を階段前に待機させた。
間に合ったのは、10匹。攻撃手段の乏しい新人冒険者ちゃんじゃ、厳しいんじゃないか?
「…!」
案の定ゴブリン達を見て、新人冒険者ちゃんが少し苦虫を噛んだような顔をした。
しかしそのままスピードを緩めず突っ込んだ。
ゴブリン達は短剣を振るい、さらには身体を張って邪魔をしにかかった。
新人冒険者ちゃんの腕に、足に短剣が刺さり、転ける。
聖女が前に放り出された。
「行って!!」
新人冒険者ちゃんが聖女に叫びながら、それを援護するように光の魔法を放った。
その甲斐あってか聖女はふらつきながら、階段までたどり着いた。
しかし、新人冒険者ちゃんはその瞬間、短剣を胸に刺され、力無く横たわった。
予想外の健闘である。おかげで聖女に逃げられてしまった。
「…っ」
聖女は悲痛な表情を浮かべつつ、フラフラと上に登っていった。
現在のポイント:22877
やば!!!!
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