第17話 飽和へのアンサー

 その後彼女はすごくやる気を出し、次にゴブリンが出たら絶対殺してやると意気込み始めた。


 ならばご要望通り、ゴブリンを出してやろうではないか。


 おれはコウモリで指示して、次の曲がり角で、ゴブリンが現れるよう手配した。


 ただし、今度は見つかったらすぐに逃げる。


 そのために曲がり角の多いところを選んだ。


「あっ!」

 女が声を上げた。どうやら見つかったらしい。


 ゴブリンは一目散に逃げていく。


「! 待ちなさい!」


「…! 待て!」


 彼女が追いかけようとするが、仲間が止めた。


「罠だ」


 そう。ゴブリンが逃げた先には、矢の罠が張り巡らされていた。

 後、バケツを持ったゴブリンも。


 惜しい。


 今なら激情のまま追いかけてくれると思ったのだが。


「今日は撤退するか」


「嫌よ! このままじゃ収まらないわ」


「でもまた濡れたら嫌だろ? 今度タオルを持ってこよう。な」


「…分かった」


 そうして彼らは撤退することにしたらしい。今後はタオルも持ってこられてしまうが、まあそこは仕方ない。


 タオル分、荷物が増えるし、濡れた不快感が減るわけでもないので、良いだろう。


 ここはあくまで下に来る冒険者を削るのが目的だからな。


 大成功である。


 さらに言うと、この罠はかなり安く済むし、ゴブリンも減りにくい。水は無料。つまり維持費が安い。


 最近飽和してきた冒険者に対するカウンターにもなり得るのだ。


 下層での運用の場合も、帰るにも手間だし、進むにしても精神が削られた状態になる。


 我ながら良い罠を作ったものである。






 それからまた3日が経った。おれのダンジョンでは水に濡れる冒険者が急増。


「おいおい。水浴びでもしてきたのか?」


「…聞くな」


「くくく…」


 という会話がちらほらと見られるようになった。


 また他に変わったこととして、最近、1階層の大広間で、ついに商売をする奴が現れ始めた。


 地面にシートを敷いて、その上に商品を並べる露天商スタイルである。


 商品としては、回復ポーションや短剣、矢やタオル、食糧が売っていた。後は変わり種として、魔石を利用した魔道具なんてのもあった。


 機能は光を灯すだけのランプである。ウチから獲れた魔石がこう実際に使われているのを見ると、感慨深い。


 ちなみに売れ行きはそこそこ。1番の売れ筋がタオルという、面白いことになっていた。




 そんなこんなで楽しくやっていたのだが、ある日。変わったことがあった。


 どこがおかしいかは分からないが、何となく違和感がある冒険者4人のパーティが2組、別々に入ってきたのだ。


 装備も普通だったし、今考えても何の違和感があったのか分からないが、とにかく変な感じがしていた。


 そうして何か変な感じだなあと見ていたら、何とそいつら、3階層で合流し始めたのだ。


 場所はハズレの道の奥の奥の行き止まり。


 おれの勘も捨てたもんじゃないと思った。


 彼らは今、そこにテントを張って、休んでいる。


 幸い冒険者が使いそうな休憩所候補だから、カメラはあったが。


 そいつら、かれこれ2時間程そこから先に進む様子も見せなくて、かなり怪しい。


 本来魔石を入れる筈のリュックから結構な荷物を取り出してたし、もしかしたら泊まり込む気なのかもしれない。


 何の目的で?


 攻略だろうか。それとも調査? そこを拠点にしてゆっくり魔石を集めるとか?


 色々思いついたが、彼らに動く様子はないので、ゴブリンを向かわせてみることにした。


 彼らは行き止まりの突き当たりにテントを張っていて、見張りを2人立てている。


 つまり近づけばバレる。


 そこでとりあえずはゴブリンを近づけてみて、その後Uターンさせてみることにした。


 ゴブリンを見つけた彼らが追いかけるようなら魔石目的で確定だが……


 追いかけない。


 どうにもそこに留まりたいようである。


 彼らはコソコソ話すのでマイクに音も入らない。


 部屋の中の虫を見逃すようで気にはなるが、スライムに見張りを頼み、とりあえず放置することにした。



 現在のポイント:1万657

 ちなみに今6階層は生成器から生成した魔物の待機所、7階層は一応罠などを整えた状態にしている。5階層のボス部屋を突破する奴が現れたら、そいつの能力に合わせて補強する予定である。



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