第10話 難しい3択
2階層に降りてきた彼らは、何やら紙を持って、そこに何かを書き込んでいる。マッピングでもしているのだろうか。今まで来た冒険者達はそんなことをやる奴らがいなかったので驚きである。
紙自体が貴重なものだと思っていたのだが。
彼らは紙をポーチにしまうと、また進み始めた。そこから先はスライム罠だが、どうでる?
おれがどう対応するか、どう引っかかるか見ていると、彼らはまるで知っているかのように、通路の手前の壁に埋め込まれた罠を解除した。
さては他の冒険者から情報を買ったな? そうなんだよな。ここら辺の罠ってそういうリスクがある。
これまではサボってきたが、こまめに変えた方が良いか…?
そのまま彼らは通路を進み、バネ罠をわざと踏んで、さらに横からの矢を発動させると、その後、ゆっくり慎重に進んでいった。
それから4時間ほど経って、彼らは2階層の階段前まで帰ってきた。見たところ、疲れている様子だが、怪我はしていない。
かなり腕が立つか、それとも他にも色々情報を仕入れていたのか。
先行していた冒険者達がその有利を投げ捨て、2階層の情報をそう簡単に売るとは思えないが、どうだろう。
もしかしてかなり金をかけて買ったとか?
もしくはやはり実力のみで2階層を乗り切った?
やはりダンジョン内のカメラ不足は深刻だな。今ある4000ポイントを注ぎ込んでもいいが……
1000ポイントぐらい使おうか。しかし1000ポイントあったら、スライム生成器がもう1個買えてしまう。
うーん……あ、そうか。何も全階層増やすことないんだ。
今冒険者が来るのは主に2階層までだからな。それなら1階層に1つ追加、2階層に3つ追加ぐらいで良いだろう。
下の階層は薄いままだが、なんなら3階層以下に人が来そうな時だけ、移動させたらいい。
何で今までこんな単純なことを思いつかなかったのか。バカだな、おれは。
思わぬ思いつきに興奮しつつ、おれは干し肉を口にした。そろそろこの味も飽きてきそうだ……。
翌日。また新人冒険者ちゃん達が2階層まで来た。今度こそ、その秘密見せてもらおうか。
まず彼らは昨日と同じく、最初のスライム罠を通過した。
次に彼らは迷路を迷いなく進み、壊せる壁を破壊していく。
途中、壁越しのトラップに金髪の男が引っかかりかけた。それを赤リボンちゃんが引っ張り、そして黒髪の男がスライムを斬り落としてカバーした。
「大丈夫? 気をつけてよね」
「ああ、すまん」
「怪我はありませんか?」
杖を持った三つ編みの新人冒険者ちゃんが尋ねた。心配というより、確認という感じだ。まああくまで印象だが。
「ああ。大丈夫」
良いチームワークである。
彼らはそのまま行き止まりを避け、澱みなく進んでいったが、半分くらい来たところから、行き止まりの方にも進むようになった。
なるほど。買ったのか、昨日調べたのかは知らないが、データはここまでという訳か。
彼らは壁を壊し、慎重に角を曲がり、エンカウントするゴブリンやスライムと戦った。
新人冒険者ちゃんは光の魔法の球を撃って戦っている。なんだそれは。
光の球とは何ともファンタジーだ。魔法というやつだろう。それを喰らったゴブリンの皮膚が焼けこげていた。概念的なものではなく、物理的な光の集合体ということだろうか。太陽の光を集めて燃やす的な。
そしてゴブリンを倒し終われば、魔石を取り、壁をどんどん壊し、ひとつの通路を進んでいくのだが、残念。その先は行き止まりだ。
と、そこで彼らは立ち止まった。カメラ位置が遠くてよく見えない。地図でも書くのだろうか。確かに行き止まりなら安全で合理的だ。
そう思って、何とか地図を見ようと観ていたのだが、その内に男2人が少しカメラ側に来て、こちらを向いたまま辺りを警戒しつつ、立ち止まる。そして行き止まりの方では、赤リボンちゃんが男冒険者の方を見ていた。
その後ろの新人冒険者ちゃんが何やらゴソゴソと……ズボンを下ろし、しゃがみ込む。白い下着が恐らく見えた。もしかして……。
くそ。何でおれはあっちにカメラを置いてないんだ。
できる限り情報を得ようと、おれは頑張って映像を見るが、よく見えない。
一生の不覚だ。おれはカメラを増やすことを誓った。でもポイントがキツいんだよなあ。
その後新人冒険者ちゃん達は、水を飲み、少し休憩した後、また他の道を進み始めた。
その途中、矢の罠が黒髪の男の腕に刺さった。すぐさま抜いたが、痛そうだ。抜かない方が良かったんじゃないの? と思っていたら、新人冒険者ちゃんが駆け寄ってきて、手を翳した。
光が傷を覆い、そして傷が治った。
まさかこれは回復魔法?
初めて見た。やはりこの世界にもあったか。昨日彼らが無傷だったのも、そうやって治療したからかもしれない。
それから彼らはしばらく探索した後、帰っていった。
現在のポイント:3755
カメラを増やすか、安全を取るか、食事を取るか。なんて難しい3択なんだ…!
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