第9話 新人冒険者ちゃん

 その日を皮切りに、ポツリポツリと冒険者が来るようになった。


 どうしてだろうと思っていたら、1階層の大広間で、2人組の冒険者が漏らした。


「こりゃ、本格的に開拓村に移住するのもありかもな」


「マジ⁉︎ 超田舎だぜ?」


「稼げる内に稼がんとだろ。おれ達は王都で戦えるようと冒険者じゃないんだ」


「…まあな」


「そこで、ここな訳よ。まだほとんどが様子見してる。だから空いてて良いだろ。移住すれば、毎日朝から晩まで潜れるようになる」


「そりゃあいい。朝から晩までダンジョン生活。いっそここに住むか?」


「……悪かねえかもな」


「はあ⁉︎」


「はははっ。冗談だよ。冗談」


「はは…お前の冗談は分かりづらえよ」


 なるほど。冗談はさておき、どうやら新たに村が開拓されたと。

 ダンジョンができたから開拓したのか? それとここはやっぱり田舎だったようだな。兵士達が来るのが遅かったのは、やはり遠かったからか。


 それに冒険者。やはり彼らは冒険者か。今まではおれが勝手に呼称していた訳だが、これで正式に冒険者と呼べるな。やはりギルドとかあるのだろうか。





 それから3日たった。冒険者はやはり1日に数組来るぐらいだが、しかしそのおかげで割とポイントが稼げるようになった。ここ数日の収入は大体2000ポイントほどだ。


 話を盗み聞いたところ、ダンジョンで取れる魔石は高く売れるようで、それ目当てに冒険者は来る。

 元の世界でいう、石油みたいなものらしい。


 じゃあ、ダンジョンは攻略せず、生かさず殺さずを維持してくれるのかと期待したが、そんなことはなかった。


 何でもこの世界で絶大的に信仰されているモルダン教の聖典に「ダンジョンを攻略せよ(意訳)」と書かれているらしい。


 つまり、この世界の宗教的にはダンジョン攻略が推奨されており、この世界の人々は攻略に前向きなのだ。


 ダンジョンは絶対攻略しなきゃならない、みたいな感じでもないけどな。攻略できるならしとくか、みたいな感じだ。


 宗教は厄介である。元の世界でも豚肉を食べない宗教とかあったからな。理屈じゃないのだ。


 しかしそのモルダン教の聖典にはどうしてそんなことを書かれているのだろうか。


 持続的に魔石を取る方が良いに決まってるのに。


 昔は魔石の活用法が発見されていなかったとか?

 それとも、創作ものでよくあるスタンピートでも起きたとか?

 いやいや。この世界なら、本当に神が居てもおかしくないな。


 何せおれを転生させたのも神なんだから。


 案外、おれを転生させた神とこの世界の神が敵対しているとか、そんな感じかもしれん。


 なら、おれを転生させた神の目的も見えてくるな。この世界の情報を集めて、最終的には侵略するつもりなのだ。


 もしくはその情報を自分の世界に役立てるとか。防衛のため、という線もあるか。


 ただ単にゲームという可能性もある。捕まえたカブトムシ同士を戦わせるような……


 まだまだ分からんか。




 今日は新たな顔ぶれの冒険者が来た。まだ使われてなさそうな綺麗な装備で新人っぽい感じだ。


 今日はその子達の動向を追うことにした。ポイントをくれそうだからな。


 まず1人目は、ちょっと控えめそうな顔だが、よく見るととても整っていて、可愛い女の子だ。


 クリーム色のインナーの上に、髪の毛よりも薄い茶色い服を来ていて、ズボンも茶色。如何にも冒険者といった格好で似合っていた。前世のイメージでいうと探検家が近いか。短い杖を持っている。


 こういった服装の冒険者が既に何人か入ってきているので、この世界での標準的な装備なのだろう。


 ただ三つ編みの新人冒険者ちゃんは似たような服装をした他のどの冒険者よりも似合っていた。顔が大事なのかな。やっぱり。


 彼女は冒険者仲間と共に来ているようである。腰に剣をつけたそこそこイケメンで濃い茶髪の男と、短剣を持った軽薄そうな金髪の男、そして魔術師っぽい杖を持った黒髪の女の子と一緒である。


 最後の娘も中々の美人で、彼女は紫がかった黒髪を赤いリボンで一つ括りにしていた。

 特に良いのがその脚で、黒タイツを履いてラインを強調していて、こちらも良い。良いパーティだ。


「待て。罠だ」

 軽薄そうな金髪の男が手を横に出して仲間を止める。どうやら1階層のかなり手前の方にテストで作っておいた矢の罠を見つけたらしい。


 彼がガチャガチャと作業すると、解除されてしまった。解除された罠は5分間動かなくなるのだ。ただし壊されるのと比べるとポイントがかからないのでありがたい。


「さすがドンク」

 どうやら金髪の男はドンクというらしい。


「どうってことないさ」

 ドンクがカッコつけて言ったが、本当にどうってことないようだ。

 今のところ5組ほどが通ったが、この罠の発見率は100%である。その頃はカメラをつけていなかったので分からないが、最初のあの男達も恐らく引っかかっていない。


 この罠は周りに誰もいなくなったら調整しなければならないだろう。撤去してもいいかも。


「それでここからは……」

 と、そこで音が小さくなり、聞こえなくなった。どうやら盗聴機の範囲外に出てしまったらしい。要設置し直しだな。おれは手作りマップ(鉛筆と紙のメモセット:50ポイント)に丸をつけた。


 



 冒険者の大体は2階層のスライム罠で負傷、もしくは仲間をひとりふたり失い、初日に撤退する。


 しかしその後は罠の存在を知っているため、スライム罠では負傷せずに2階層までで稼ぐようになる。


 ほとんどは3階層には降りずに帰るのだが、たまに降りてきてはやられてくれるので、収支的には結構な黒字だ。2階層で凡ミスをして死ぬこともある。


 新人冒険者ちゃん達はどのパターンだろうか。そんなことを思いながら眺めていると、彼らは危なげなく1階層を突破して、2階層に降りてきた。


 ちなみに1階層には現在カメラを二つ設置している。ひとつは大広間。もう一つは正解の通路を一望できる壁に埋め込んである。


 2階層に降りてきた彼らは、何やら紙を持って、そこに何かを書き込んでいる。マッピングでもしているのだろうか。今まで来た冒険者達はそんなことをやる奴らがいなかったので驚きである。


 紙自体が貴重なものだと思っていたのだが。



 現在のポイント:4302

 中華料理屋の炒飯が、無性に食べたくなる時がある。あの完璧なパラパラ具合。ああ、食べたいなあ。

 

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