第3話 寝る

 調査書に書く内容は何があったか。


 確か3つ。


 ①カメラはダンジョンの証拠として見られているようで、今日来た侵入者に関してはカメラではなくただの黒い物体として認識していた。


 つまりこの世界ではダンジョンは一般的なものとして認識されている可能性が高く、このダンジョンの他にもダンジョンがある可能性が高い。


 ②侵入者の目的はモンスターの心臓部にある石──魔石のようで、それを取りに来ていた。


「魔石を取らなきゃ何のためにここまで来たんだ」という発言をしており、ダンジョンでは魔石が取れるという認識をしていることは間違いない。


 そしてこの発言から魔石に価値があることも窺える。


 ③侵入者の武器は剣だった。

 そのことから剣が一般的な武器として使われる世界である可能性が高い。その他の武器に関しては見当たらなかった。


 これだけか。案外少ない。


 ④侵入者は仲間を見捨てることに涙していた。情はあるようだ。


 とか書いとくか。


 調査書の報酬ポイントは12時間後に来る。何ポイント貰えるか楽しみだが、恐らくあまり貰えないだろう。


 結構基礎的な情報だからな。だがどの情報で何ポイント貰えるかを知っていくことが、神の目的を考察する上では役立つのだ。





 12時間後のことより今である。


 あの逃げた侵入者が援軍を連れてくるかも分からない。何か秘策を考えないと。


 おれはとりあえず、2階層に行ってみることにした。


 実際に歩いて確かめてみる。魔物達には実際に襲うふりをしてもらった。


 なるほど。曲がり角でゴブリンは中々心臓に悪い。創作物では普通に攻略されるダンジョンだが、実際問題普通にこれだけで強いよな。


 曲がり角で武器を持った男が襲ってくるみたいなもんなんだから。普通に死ねる。


 あ、でもその分探知魔法とか気配察知とかがあったりするのだろうか? だとしたら曲がり角で待ち構えているゴブリンなんて……チョチョイのちょいとは行かないな。冒険者だったら余裕なのだろうか?


 そして既におれは現在位置がどこか分からない。これが迷宮の強みだよな。まあ歩いてたらいつかは出口につきそうだが。


 どうしようかなぁ、と考えていると、スライムがちょこんと目の前にいた。可愛い。


 ゆっくりと近づいてきている。


「それが全速?」

 おれが尋ねるとスライムが肯定するようにふよふよと動いた。

 それは…何というか……遅いな。


「よし。一回そこの壁に向けて攻撃してみてくれ」

 おれがそう言うと、スライムはピョンっと飛んで、壁に張り付いた。


 確かカタログに書いてあったことには、スライムはこうやって敵に引っ付いて、ゆっくり溶かすんだったか。グロいな。


「じゃあ今度はおれに」

 今度はおれの腕に飛びかからせてみる。ダンジョンマスターは味方からのダメージを無効にできるので問題ない。


 スライムが壁からまたピョンと、おれの腕に飛び乗り、まとわりつく。おれはスライムを剥がそうと腕を振ってみたり、空いている手で剥がそうとしてみたが上手くいかない。


 取り付ければ強いんだよな。


 カタログスペック通りである。


 たださっきの飛びつきを見るに、おれでも頑張れば避けれそうだった。


 そうだな。つまりどう近づけるかだ。




 スライムの纏わりつき性能はかなり高い。形も自由自在で、故にとりあえず天井に貼り付けて、そこから落ちる、というものを考えた。


 しかしスライム的には天井に貼り付くのは重力がきついらしい。持って10秒だとか。壁だと30秒だった。


 そこで補助のためにブロックを置いて、スライムがそこに乗っておくというものを考えた。


 必要なブロックは10ポイント分ぐらいで、これなら無理なくスライムは永遠にそこにいることができる。


 しかし実験してみたところ、高すぎる天井だとスライムが落下の衝撃で大ダメージを受けてしまうという問題が発生。


 故に高さは4mが限界だと分かった。つまり大広間などには置けない。


 しかし普通の通路だと丁度いい高さなのでそこに置くことにした。


 だが見た目で丸わかりという問題があり、それに探知魔法などが存在するなら意味のない罠なのではという疑問がある。


 そこでもうひとつ、考えたのが矢の罠の矢にスライムを纏わり付かせ、一緒に飛ぶというものである。スライムの酸は任意らしいので問題はない。


 まず初めに矢の先にスライムをくっつけ、実験したのだが、空気抵抗が強くなりすぎて失敗。


 次に矢全体にできる限り薄く纏わりつかせてみた。体積的に、矢全体をコーティングするような形になる。

 使ってみたところ、速度は通常の矢から2割減ほど。しかし、着弾したあと、矢からスライムが元の形を取り戻し、襲えるまで5秒。遅すぎる。


 そこで矢全体に纏わりつかせるるのはやめ、矢の先部分以外の部分をコーティング。


 矢の先に纏わりつかせると、空気抵抗のために形が尖らせる必要があり、スライムの形が戻りにくいのだ。逆にそれ以外の部分だけなら、ただの円柱なのですぐ。人間で例えるなら、お腹を凹ませるだけで済むような感じらしい。


 矢の先まで纏わりつくと、複雑なヨガのポーズをやっているような感じだとか。よく分からんが分かった。


 ただし、速度は3割減。重心が後ろに行くというのと、全体の形のバランスが崩れるからっぽい。

 しかし襲いかかるまでは1秒。凹ませたお腹を戻す要領で、その反動を使ってパッと襲いかかることができる。

 頑張れば矢が飛んでいる途中で、飛び掛かることもできるのだ。矢は反動で落ちてしまうが。


 おれはこのトラップを2階層の要所に設置。1階層にも置くか迷ったが、普通に矢の罠が当たる相手には必要ない。

 

 特にこの罠は最初のインパクトが大事だ。ポイントもキツかったので、その分2階層に回すことにした。


 さらに一部は、侵入者に直接当てるのではなく、真上や真横を通るように置いた。普通なら使い物にならない罠だが、自律的に飛び掛かるスライムによって、実用性の溢れる罠となった。

 上下左右前後ろ。全方位から飛び掛かるスライムは最強かもしれん。




 現在のポイント:22

 ポイント不足がやばい。空腹を誤魔化すために寝ることにした。布団はないので、硬い床で。

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