第2話 足元

 パンを食べ終わったおれは布団もないので床で一眠りし、起きるとなんとカメラに侵入者が映っていた。それも複数人だ。


 彼らは革でできているように見える装備を着けていて、3人だった。


 今更ながらに冷や汗をかいた。侵入通知のアラームは確か1000ポイントかかるのだったか。早く導入する必要があるかもしれない。いやしかし、結局分かっても今のポイントではやりようがないか。なら要らないか?


 それはさておき、侵入者3人はハズレの道を行って、帰ってきたところのようだ。何か喋っている。


 カメラの位置は天井で少し遠いが、洞窟だからか男達の声はよく響いて、カメラ備え付けのマイクでも音を拾うことができた。


「…本当にダンジョンなのか? ここ? 魔物も罠も全然ねえじゃねえか」


「ああ。間違いない。あの天井に取り付けられた黒い物体がその証拠さ。あれはダンジョンにしかないからな」


「しかし誰かがダンジョンに行って取ってきて、あそこに取り付けたのかもしれないだろ…?」


「…………それもそうだな」


 どうやら男達は中々賢いらしい。喋り方は粗雑な感じだが、よくあるヒャッハーな知能の感じはしない。意外だ。


 その時、黙っていた残りの男が言った。


「どうする? ダンジョンじゃないなら帰るか?」


「いや……どの道行くところなんざねえんだ。やるしかねえ」


「…そうだな」


 男達は悲痛な感じでそう話して、残りの道を調べ始めた。そしてそこは正解の道だった。




 しばらくして、ぎゃあ! という声をカメラが拾った。

 罠だ! という叫び声が聞こえた。そしてドサドサという足音が響いて、男2人が通路から走って出てきた。

 その時、358ポイントが入る。どうやら1人、罠にかかって死んだらしい。ありがたい。


「くそっ! やっぱりダンジョンだったんだ!」


「おい、どうする⁉︎ アランが来てないぞ⁉︎」


「アイツはもうダメだ! それより迎え撃つぞ!」


 男のひとりが剣を構えて、通路の奥を睨んだ。しかし、何も来ない。


 そのシュールさに思わず笑ってしまう。あんなに真剣に構えたのに……!


 恐らくゴブリンなどが追ってくると思ったのだろうな。しかしゴブリン達には、罠の周りから動くなと言っているので、当てが外れたようだ。


 罠の周りじゃないと彼らはただの雑魚モンスターだからな。罠はモンスターには反応しないので、そこにいるのが良いのだ。


「……くそ。来ないのか?」


「おい、逃げようぜ?」

 1人が及び腰になって言った。しかしもう1人が言う。


「馬鹿野郎。ここで魔石を取らなきゃ、何のためにここまで来たと思っている」

 魔石を取る、か。ダンジョンコアのことか、それとも魔物の心臓部にある石か。スライムなどは中心にふよふよと浮いているからな。


「だがモンスターがこっちまで来ないんじゃ仕方ないぜ?」

 魔物の心臓部にある石で確定。


「向こうから来ないなら、こっちから行くまでだ」


「おれ達じゃ無理だ。アランも死んだ」


「そうだ。このままじゃアランは無駄死にだ」


 どうやらかなり熱くなっているらしい。いいぞ。戻って来い。そしてポイントを!


 しかしもう1人の男が泣きそうになりながら言った。


「馬鹿。おれ達が生き残ってこそ、アランの死が報われるんだろうが」


 その言葉に、剣を持っている男はハッとした。


「そうか……そうだよな。すまないアラン。ここにお前を置いていくことを許してくれ…」


 そう言うと、男達は入り口からトボトボ去っていった。


 何この展開…?


 しかしマズイな。ここで逃すとダンジョンがあることを知られて、そうすると討伐隊とか来るんだろうか?

 だが、男達を止める手段がない。男達の話し振り的に、ゴブリンを向かわせても倒される可能性が高いし、そもそも間に合わない。


 早急にダンジョンを強化しないと。


 



 現在のポイントは494ポイント。矢の罠が5つ発射されていたので、5ポイント使って補充する。結構連続して罠にかかったらしいな。我ながら良い配置だ。


 ちなみにモンスターの被害はゼロだった。と言いたいところだが、ゴブリンが負傷していたので5ポイントで治した。


 治すためのポイントはモンスターの怪我の具合などで変化するが、5ポイントなら安いもんだ。


 ついでに1階層の矢の罠に3ポイントずつ補充しておいた。計30ポイント消費。しかしこれで罠は5分経ったら自動補充される。


 残りポイントは454ポイント。あのアランという男が300ポイント持っていたのがでかかったな。結構余裕ができた。


 しかしどうしようか。アラン君を倒したように、矢の罠とゴブリン&スライムの組み合わせは普通に強い。

 だが、所詮は10ポイントと20ポイントの集まりである。ちょっと強い人間が来たら一瞬で攻略されるのではないだろうか。


 そう考えると少し怖い。何か別の奇抜なアイデアに頼りたいところである。


 おれはカタログを眺めた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜

 スライム:10ポイント

 ゴブリン:20ポイント

 吸血コウモリ:30ポイント

 槍持ちゴブリン:100ポイント

 ミニゴーレム:300ポイント

 ゴブリン魔導士:500ポイント

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 矢の罠:10ポイント

 バネ床:50ポイント(踏むと少しだけ沈み跳ねる。バランスを崩させる効果あり)

 落とし穴:100ポイント(設置数制限あり)

 壁槍:100ポイント

 スライム生成器 1000ポイント(1日に10体)

 ゴブリン生成器 2000ポイント(1日に10体)

 再利用器 1万ポイント(魔石を入れるとモンスターを再生成する)

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 〜〜〜〜〜〜〜〜


 生成器か。

 スライム1体10ポイントなので、10日で元が取れると考えると安い気がする。でもポイントはない。


 コウモリは既に2階層に1匹いるが、ゴブリンと模擬戦をさせたところ、普通に負けそうだったので今回はなしだ。


 ちなみに落とし穴の設置制限についてだが、理由としてはダンジョンを削るようなものだからだと思われる。


 ダンジョンの壁や床は基本壊れないので、逆にダンジョンを削って設置するのはパワーを使うのだろう。

 もしかしたら倒壊のリスクがあるのかもしれない。


 その仮説を裏付けるように、外側に設置するタイプ──例えばカメラとか、矢の罠とかは無限における。他にもダンジョンに壁を足すのとかも簡単にできる。まあその壁は簡単に壊されるし、周囲と色が違うので一瞬でバレるようだが。


 使うポイント1m四方の立方体で5ポイント。要は1m^3ごとに5ポイント使うらしい。


 少しだけなら形を変えることもできて、頑張って薄くすれば5ポイント分で1.3m^2ぐらい塞ぐことができた。誤差だな。


 逆に壁を1m^3分削ろうと思うと50ポイントかかるので、やはり正しいように思える。



 他にはビュッフェカレー(300ポイント)やデリバリーピザ(3000ポイント)などがあった。


 ビュッフェカレーは何がビュッフェなのか、もしかして食べ放題なのかと思ったが、写真を見る感じ、朝食ビュッフェなどでよくあるほぼ具なしのカレーだった。


 なるほどな、という感じである。ただおれ、あのカレーも嫌いではない。むしろたまに食べたくなるぐらいだ。


 ライスも付いているし、300ポイントにしては中々悪くない。買えないがな。


 カレー食べたいなぁ。


 ……その他、寝袋(250ポイント)や、炊飯器(5万ポイント)、テレビ(10万ポイント)などがあった。テレビは電波が入るわけではなく、映画などをダウンロードできるらしい(別料金)。


 足元見やがって。


 ちなみに1番高いのがドラゴン(1億ポイント)。買わねーよ。というか買えない。


 というわけで、使えそうなものとしては、オオカミか槍ゴブリン、あとはバネ罠、落とし穴、壁槍、壁の増築ってところか。


 ただどれも中々高いんだよな。それだったら矢の罠とかゴブリンを増やした方が良いと思う。


 …そういえばもうすぐ報告書を出す時間だ。


 先にそっちに取り掛かるか。



 現在のポイント:454

 カレー食べたい。

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