ダンジョンマスターは盗撮魔⁉︎ 〜ダンジョンなのにカメラやマイクを付ける必要があるんだが〜

日山 夕也

第1話 カメラ

「其方には世界の調査のため、ダンジョンマスターとして異世界に転生してもらう」


 目の前にいきなり髭たっぷりの大きいジジイがいた。なんかぐにゃぐにゃして身体の輪郭がぼんやりしていた。


「ついでに倫理観も弄っておこう。ダンジョンマスターならそちらの方が良いからな。サービスである。まあ其方は元々倫理観がないようなものだから余り変わらんがな」


「ではこれから規定を説明する」


「一つ。異世界人との直接的な接触の禁止。喋るのも文字も、ボディランゲージも、コミュニケーションを取るようなことは一切禁止」


「二つ。ダンジョンの外に出ることの禁止」


 それだけ言うと神は杖を振り出した。何やらそこにエネルギーが集まってきているように見えた。


 まさかもう転生させるつもりか? 説明は?


 おれは慌てて話しかけた。


「待て。そもそもどうして世界を調べるんだ? 規定は何のためにある?」


「それは下々の者が知るべきことじゃない」

 神はそう言うと間髪入れずに杖を振り、それでおれの意識は薄れていった。




 そしておれはダンジョンマスターとして転生した。


 といっても肉体は前世と全く変わらないがな。ていうか転生ってことはおれ死んだのか。全く覚えてないんだが……まあいいや。


 ダンジョンマスターの仕組みは、知識としてこの身体に入っていた。


 ダンジョンはポイントで運用し、1番奥のコアを壊されたら終わり。

 よくあるパターンだ。


 ダンジョンポイントは、侵入者を倒す、侵入者の滞在、1日の終わりの調査書の内容、によって貰えるらしい。


 調査書には、ダンジョンに入ってきた侵入者から分かったことなどを書けば良いらしく、内容によって貰えるポイントが決まるのだとか。


 目的は世界の調査らしいが、しかし神の規定により、直接的な接触は禁止。


 どうしてこんな面倒なことをするのだろうか。

 

 似たパターンとしてはタイムパラドックスが思い浮かぶが、別に過去に来た訳じゃない。実はここが地球で過去の世界ということもまだ考えられるが。


 おれは神が言ったことを思い返した。

「それは下々の者が知るべきことじゃない…か」


 面白いじゃないか。この世界だけじゃない。神の目的。規定。その全てを解き明かしてみせよう。そして神の鼻を明かすのだ。





 さて。おれはまずダンジョンの把握に努めた。


 現在は2階層まであるらしく、所有ポイントは1000ポイント。


 階層を増やす場合、5階層までは1階層ごとに100ポイント、そこから10階層までは1階層ごとに1000ポイント、そこから15階層までは2000ポイント、20階層までは3000ポイントと必要ポイントが5層ごとに増えていくらしい。


 中々高い。すごく高い。

 しかし5階層までは安いのがありがたい。サービスだろうか。


 階層生成により生み出される地形はランダムで生成される。地形といっても海や森になったりする訳ではなく、基本は洞窟型で、そこから配置される壊れない壁や床などがランダム配置ということだ。


 そいつらは後から自由に動かすことはできないが、1回だけ生成時の1/10ポイントで再生成可能らしい。その後は生成時の1/2ポイントかかる。

 酷い仕様だ。


 しかし1回だけ1/10ポイントで済むというのは温情にも思える。最悪な地形というのもありそうだからな。


 そこまで融通効くなら接触を許可してくれたらよかったのに。


 まあとりあえず現在ある1階層と2階層の地形を確認することにした。


 まずは1階層に転移する。


 ちなみにこの転移機能、半径50メートル周囲に侵入者がいない時だけ可能で、つまり視認できる距離にいたらダメということだった。


 しかも半径25メートルに侵入者が入ったら、マスター室に強制送還。恐らく接触禁止の規定が影響しているのだろう。かなりきつめの制約だ。


 そして1階層だが、入り口から入ってくるとまず真ん中に大きな広場があって、そこから通路が7つ広がっていくような形をしている。


 その内、次の階層への階段に繋がる道は2つ。


 なるほど。中々良さげな地形だ。しかし広場で侵入者に休まれてしまうリスクもあるかもしれない。いやむしろ……


 おれは罠のアイデアを考えながら、次の階層に繋がる道を歩いた。


 そして2階層に降りてきた。罠を設置するなら1階層だけでなく、2階層も把握しないとな。





 2階層はただの迷路だった。壁が乱立し、迷路になっている。個性がないといえばそれまでだが、しかし実際に歩いてみると迷路というのは強い。曲がり角が多く、出会い頭に襲われたら中々苦労しそうだ。


 しかし通路が多く、全体に罠やモンスターを設置するとなると、かなりポイントがかかりそうである。


 やはり要所を抑えるに留めるべきだろうか。


 ちなみに階層ごとに使えるポイントの量は決まっていて、1階層は500ポイント。2階層は750ポイントである。

 神は何を思ってこんな制限をつけたのか。まあ神じゃないかもしれないが。


 今はそもそも1000ポイントしか持っていないので、2階層にフルで設置すると1階層には半分ほどしか置けないが、どうしようか。


 じっくり考えた末、1階層に300ポイント、2階層に700ポイントほど使うことにした。


 1階層は階段につながる2つの通路だけを重点的に抑え、2階層も基本方針はそうだが、余ったポイントで全体的に不意打ちを行えるような配置にした。





 それからしばらく。おれはポイントも使い切って、侵入者が来るのを楽しみ半分、ドキドキ半分で待っていたのだが、誰も来ずに2時間ぐらい経った。


 そうだよな。そんなすぐ来る訳ないか。むしろ来たらヤバいとまで言える。


 おれは椅子を引いて、大きくもたれ掛かり、伸びをした。

 お腹が空いた。


 しかし食べ物を得るにもポイントがかかる。部屋にあるのは机と椅子と、カメラを買った際に繋ぐためのモニターと、ダンジョンコア。


 それに水道と洗濯機と、浴槽もないシャワーのみのシャワールームとトイレだ。あ、あとトイレットペーパーもある。


 万が一のため残しておいたなけなしの30ポイントを使おうか。いやしかしな……


 そんなことを考えていたら、滞在ポイントが入ってくるのを感じた。侵入者が滞在している時に入ってくるポイントである。


 どうやら侵入者が現れたらしい。思ったよりも早いな。


 しかしその姿を見ることはできない。声を聞くことも。


 なぜならこのダンジョン、ダンジョン内を自由に見聞きできるような機能がなく、カメラとマイクを設置して、映像と音を拾う必要があるからだ。


 そしておれはそれらを設置していない。


 なぜならポイントがないから。


 カメラは1番安いものでひとつ100ポイント。マイクは50ポイントで、カメラとマイクが一体化したものなら120ポイントで買うことができる。


 しかしカメラを設置したところで、ポイントがすっからかんの今できることはほとんどない。なら初めから置かずに、その分のポイントを防衛に回した方が良いだろうと考えたのだ。


 にしても、どうしてこんな仕組みにしたのだろうか。考えられることとしては、普通に技術的に無理だったか、もしくはまた規定か。


 そんなことを考えながら、マスター室の椅子に座ってドキドキしながら待っていると、ポイントが入った。247ポイントか。恐らく侵入者を殺せたのだろう。よっしゃあ!


 おれはそのポイントで、1階層の大広間にひとつマイク付きカメラを設置した。


 ……いや違うんだ。


 よく考えたら、カメラ設置してないと改善点とか分からないということに気づいたんだ。罠にどうかかったか、モンスターとどんなタイミングで当たっているか。その辺がわからないと改善できないだろう?


 というわけでカメラを設置したが、既にダンジョンに吸収されたようで、侵入者の姿を見ることができない。音も。


 代わりに罠や魔物の消耗具合を確認すると、2階層に降りる階段への道に設置しておいた矢の罠(10ポイント)の矢が消費されていることが分かった。1ポイントかけて補充しておく。


 あとはスライム(10ポイント)が2匹やられている。ゴブリン(20ポイント)は全員無事だ。とりあえずスライムを補充しておいた。


 これで残るは、136ポイント。おれは5ポイントで買える1番安い何の味もついてなさそうなパンを買って、食べた。


 美味しい。久しぶりの飯だ。

 こういう時のパンは異様に美味いと思う。


「美味い!!」



 現在ポイント:136

 もっと食べたいが我慢。

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