お揃いのパジャマ
「お兄ちゃん、今日はこの願いを叶えるよ!」
私は「100の願い」のノートを開き、智希の前に差し出した。
『お揃いのパジャマを買う』
「……なんでこれを叶えたいんだ?」
智希はノートを眺めながら、少し困ったように言った。
「だって、兄妹でお揃いのパジャマって可愛くない?」
「いや、兄妹でわざわざお揃いにする必要あるか?」
「あるよ!」
私は力強く頷いた。
「お兄ちゃんとお揃いのものを持ちたいし! それに、寝るときもお揃いだったら、なんか特別な感じがするじゃん?」
「……有紗はほんと、変なところでこだわるよな」
「変じゃないもん! ということで、買いに行くよ!」
「はいはい……」
智希は呆れたようにため息をつきながらも、断る様子はなかった。
私たちは近くのショッピングモールの衣料品店にやってきた。
「お兄ちゃん、どんなのがいい?」
私はさっそくパジャマコーナーへ向かい、色々と見比べる。
「別にどれでもいいけど、派手なのはやめてくれよ」
「うーん……じゃあ、派手じゃないけど、ちょっと可愛いのにしよう!」
私はいくつか手に取って、智希に見せる。
「これとかどう?」
私が選んだのは、淡いグレーに小さな白い星柄が散りばめられたパジャマ。
「これなら、お兄ちゃんでも着れるよね?」
「……まあ、ギリギリな」
「やった! じゃあこれに決定!」
「有紗、即決すぎるだろ」
「迷ったら直感が大事なの!」
私は満面の笑みでレジに向かった。
夕食を終え、お風呂に入った後、私は新しいパジャマに着替えた。
「お兄ちゃん、準備できた?」
「……まあな」
「じゃあ、一緒にせーので見せ合いっこしよう!」
「なんでそんなこと……まあいいけど」
私はドアの前に立ち、智希と声を合わせて言った。
「せーの!」
私が扉を開けると、ちょうど向かいの部屋から智希も出てきた。
お互いに同じグレーの星柄パジャマを着ていて、なんだか少し照れくさい。
「……どう?」
私はくるっと回ってみせる。
「……まあ、似合ってるんじゃないか?」
「えへへ、お兄ちゃんもね!」
「いや、俺は普通だろ」
智希はそっけなく言ったけれど、少し頬が赤くなっている気がした。
「でも、お揃いだね!」
私は嬉しそうに言いながら、智希の袖を軽く引っ張った。
「お兄ちゃんとお揃いって、やっぱり特別な感じがするなぁ」
「有紗はほんとに単純だな」
智希は小さくため息をついた後、ふっと優しく笑った。
「でも、まあ……悪くないかもな」
その言葉を聞いて、私は思わず顔をほころばせた。
部屋に戻り、ベッドに入ったものの、私はなかなか寝つけなかった。
――お揃いのパジャマ。
それだけなのに、なんだかすごく特別な気がする。
智希とお揃いのものを身につけているという事実が、私の胸を妙にドキドキさせた。
「お兄ちゃんとお揃い……ふふっ」
そう思うと、嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
向かいの部屋にいる智希も、今、同じパジャマを着ているんだよね……?
なんとなく、智希の部屋の方を見つめてしまう。
「……お兄ちゃん、もう寝たかな?」
小さな声で呟いてみる。
寝る前に、もう一回だけ話したい気分だった。
けれど、このまま部屋を出て行くのは恥ずかしい。
「……おやすみ、お兄ちゃん」
そっとつぶやいて、私は毛布を引き寄せる。
ドキドキしながら眠るなんて、今までなかったのに。
――これも、お揃いのパジャマのせい、なのかな?
翌朝、目を覚ました私は、ぼんやりと天井を見上げた。
いつもと変わらない朝。だけど……。
「……あ」
私は、自分がまだ昨日買ったばかりのパジャマを着ていることに気づく。
パジャマの袖をそっと触りながら、少し微笑んだ。
――お兄ちゃんも、今、これを着てるんだよね。
それを思うと、なんだか胸がくすぐったくなる。
同じものを着て、同じ家で眠って、同じ朝を迎える。
それだけなのに、すごく幸せな気持ちになった。
「お兄ちゃん、もう起きたかな?」
部屋のドアを開けると、ちょうど智希も出てきたところだった。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「……なんだ、その顔」
「え? なんか変?」
「いや、妙に嬉しそうだから」
「だって、お揃いのパジャマで朝を迎えるの、なんかいいなって思って!」
私が満面の笑みで言うと、智希は少しだけ目をそらして、呆れたように笑った。
「有紗はほんと、単純だな」
「いいじゃん、幸せなんだから!」
私は智希の袖をちょこんと引っ張る。
「お揃いのパジャマ、今日からずっとこれにしよ?」
「それはやめろ」
即答されて、思わず頬を膨らませる。
「むぅ……でも、また一緒にお揃いのもの買おうね!」
「はいはい」
智希は苦笑しながらも、どこか優しく微笑んでいた。
またひとつ、ノートの願いが叶った。
少し恥ずかしくて、とっても幸せな気持ちだった。
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