放課後デート

「お兄ちゃん、明日はついにあの願いを叶える日だよ!」


夕食のあと、私は「100の願い」のノートを抱えて、ソファに座っている智希の隣に飛び込んだ。


「……何の話だ?」


「ほら、これ!」


私はノートを開いて、すでに書かれていた願いを指さす。


『放課後デートをする』


「そういえば、こんなの書いてたな」


「書いただけじゃなくて、ちゃんと実行しなきゃ意味ないもん!」


「はいはい。で、どこに行くんだ?」


「お兄ちゃん、甘いもの好きでしょ? クレープ屋さんに行って、それからゲーセン!」


「甘いものはいいけど……ゲーセン?」


「たまには遊ぼうよ!」


智希は少し考えてから、小さく笑って頷いた。


「わかった。明日な」


「約束だよ!」


私は満面の笑みで指切りをした。




次の日の放課後。


昇降口で待っていると、智希がゆっくりとやってくるのが見えた。


「待たせたか?」


「ううん、ちょうど来たところ!」


「……有紗、それ絶対嘘だろ」


「ちょっとだけ早く来たかも。でもいいじゃん! 早く行こ!」


私は智希の腕を引っ張って、駅前のクレープ屋さんへと向かった。




「お兄ちゃん、何にする?」


クレープ屋さんの前でメニューを見つめながら、私は智希に尋ねた。


「んー……俺はチョコバナナにする」


「私は……抹茶クリーム!」


「有紗、そういうの好きだよな」


「うん! お兄ちゃんも一口食べてみる?」


「いや、自分のを食うからいい」


「もーう!」


私は少し頬を膨らませながら、抹茶クリームのクレープをひとくち食べる。


「んー! おいしい!」


智希もチョコバナナクレープを食べながら、満足そうに頷いた。


「やっぱり間違いないな、これ」


「ねえねえ、交換しよ?」


「……まあ、少しだけなら」


智希はため息をつきながらも、自分のクレープを差し出してくれた。


「やった!」


私は智希のチョコバナナをひとくち食べる。


「やっぱりおいしい! お兄ちゃんのも正解だね!」


「有紗のも悪くないな」


二人でクレープを食べながら、穏やかな時間が流れた。




「次はゲーセン!」


クレープを食べ終わると、私は元気よく次の目的地を宣言した。


「有紗、今日はずいぶん張り切ってるな」


「当たり前でしょ! だって、デートだもん!」


「はいはい」


智希は少し呆れながらも、私についてきた。


「まずはクレーンゲーム!」


私はさっそく猫のぬいぐるみが入ったクレーンゲームを指差した。


「この猫、かわいくない?」


「有紗、ほんと猫好きだよな……」


「お兄ちゃん、取って!」


「俺がやるのか?」


「うん! お兄ちゃんの方がこういうの得意そうだし!」


智希は仕方ないな、という顔をしながらコインを入れ、慎重にクレーンを操作する。そして——


「取れた!」


「やったー! ありがとう、お兄ちゃん!」


私は智希が取ってくれた猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


「そんなに喜ぶなら、取った甲斐があったな」


「お兄ちゃん、さすが!」


私はぬいぐるみを抱きしめたまま、次のゲームを探す。


「次は……これ! レースゲーム!」


「有紗、運転下手そうだな」


「失礼な! やってみなきゃわからないよ!」


ゲームがスタートすると、私は一生懸命ハンドルを回すが、すぐに壁にぶつかってしまう。


「うわぁぁ! お兄ちゃん、ずるい!」


「別にズルはしてないだろ」


「お兄ちゃん、運転うまい……」


「まあ、ゲームだからな」


結局、私がボロ負けしてしまった。


「悔しい……!」


「まあ、次は勝てるといいな」




日が傾き始めた帰り道。


「今日は楽しかったね!」


「まあな」


「またデートしようね!」


「……有紗、デートって言いたいだけだろ」


「えへへ」


私は猫のぬいぐるみを抱きしめながら、智希の隣を歩く。


少しひんやりした風が吹き抜ける。


「お兄ちゃん、寒くない?」


「ん? まあ、ちょっとな」


私はそっと、智希の服の袖を掴んだ。


「こうしたら、あったかいよ」


智希は驚いたように私を見たが、何も言わずに歩き続けた。


——二人きりの放課後デート。ノートに書いた願いが、またひとつ叶った。


次は何を叶えようかな?

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