第31話 潜入計画

 蒼月が去った後、部屋には重い沈黙が流れた。

「3日後……『永久境界』が完成するの?」葵が不安げに言った。

「父さんに連絡を取らなきゃ」陽は急いで言った。


 その夜、陽はカイトと連絡を取り、翌日の夜、侵食者との会合が設定された。


 ◇


 翌日の夜、都外れの廃墟となった倉庫。陽、零、葵、奏の4人は、緊張した面持ちで待機していた。

 空気がわずかに震え、碧水カイトの姿が現れた。

「来てくれたんだね」カイトは微笑んだ。

「蒼月が動き始めた。『永久境界』の発動が近い。そして、奏が標的にされている」

「そういうことか」カイトの表情が真剣になった。


 彼は手を上げ、何かの合図をした。すると暗闇から数人の人影が現れた。御影蓮、白河ミユキ、そして数人の侵食者たち。

「境界委員会の皆さん」蓮が冷静な声で言った。「カイトから話は聞いている。状況は深刻なようだな」

「俺たちに協力する気があるのか?」零が一歩前に出て言った。

「お互いの利益のためだ」蓮は答えた。「評議会という共通の敵がいる以上、協力するのは自然でしょ」


 ミユキは奏をじっと見て言った。

「前は対立していたけど、私は協力したいと思っています。みんなのために」奏はしっかりした声で言った。

 ミユキの表情が少し和らいだ。

「あなたの『共鳴増幅』は貴重な力よ。だから守ってあげる」


「『影帝』――高城理人さんは、今どこに?」零が尋ねた。

「少し離れた場所で作戦の準備を進めています」カイトが答えた。

「父さんに会える?」陽は静かに、しかし強い意志を込めて言った。

 カイトと蓮が視線を交わした後、カイトは頷いた。

「連れて行こう。でも、その前に」蓮が言った。「私たちの協力関係の証として、一つお願いがある」

「何だ?」

「白河の『封鎖術』を椎名奏さんに施させてほしい。これは攻撃ではなく、保護のためだ。彼女の境界力の気配を一時的に隠し、評議会の追跡から守るものだ」


 陽は「真実顕現」で蓮の言葉を確認した。周りに青い光が見える。嘘ではないようだ。

 奏は勇気を出して頷き、ミユキの手を取った。ミユキの白い手袋が青く光り、奏の周りに透明な膜のようなものが形成された。

「これで安全よ。少なくとも明日の夜まではね」


 ◇


 陽たち4人はカイトの「位相転移」の力で、古い寺院の中へと移動した。その中央に「影帝」の姿があった。

「父さん……」

 影帝はゆっくりと仮面を外した。

「陽……みんな、よく来てくれた。蒼月が出向いてきたそうだな」

「うん」陽は頷いた。「彼は『永久境界』が世界を救うためだと言っていたけど、僕は信じなかった」


 理人は満足げに頷いた。

「正しい判断だ。だが、それでは永遠に狙われるだけになる」

「何か手があるの?」

「彼らに捕まったと思わせ潜入する」理人は言った。

「罠を仕掛けるということ?」陽が目を見開いた。

「そう。評議会を欺き、彼らの本拠地に潜入する。そして『永久境界』の装置を破壊する」

 彼は古い地図を広げ、評議会の本拠地の設計図を示した。

「かつて私も評議会の一員だった。だからこの設計図を持っている。しかし、潜入は容易ではない」


「奏が囮になり、陽が彼女を救出するふりをして潜入する」零は計画を読み取った。

「彼らは陽や俺たちの力も欲しているから、容易に侵入を許すはずだ。外部から援護する俺と葵も含めて」

「賢いな、鷹野零」理人は評価するように言った。

 そう言いながらも、理人の表情には僅かな躊躇いが見えた。


 翌朝、作戦の最終確認が行われた。

「奏は今日、一人で登校してほしい」理人は言った。「評議会の監視員に見つかるように」

「わかった」奏は決意を固めていた。「私、やれます」

「陽。君の『真実顕現』が、この作戦の鍵だ。評議会の幻術を見破り、真実を見極める力が必要になる」

「わかった」陽は父を見つめた。


 計画は動き出した。

 奏が校門に近づくと、案の定、2人の男性教師が彼女に近づいてきた。

「椎名奏さんですね。少しお話があります」

 奏は震える手で胸ポケットの通信装置に触れた。そこにボタンを押す――作戦開始の合図だ。

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