第19話 恩人と記憶結晶
「救った?」
「ああ」カイトの目が陽をじっと捉えた。
「5年前、私は境界評議会の実験体だった」カイトは少し遠い目をして言った。
「彼らは私の『位相転移』の力を利用しようとした。でも実験は制御不能になり、私は暴走した。誰も止められなかった……『影帝』以外は」
陽の心拍が速くなった。
「影帝……父のこと?」
カイトは笑みを浮かべた。
「直接答える代わりに、これをあげよう」
彼はポケットから小さな水晶のかけらを取り出した。
「これは『記憶結晶』。私の記憶の一部が封じ込められている。君の『記憶閲覧』能力があれば、読み取れるはずだよ」
葵は教授と零に目配せした後、慎重に結晶を受け取った。
「ただし、一度きりしか見られない。見た後は消える」
葵は結晶に触れ、目を閉じた。彼女の表情が次第に変わっていく。驚き、恐怖、そして理解。結晶は青く光り、徐々に透明になっていった。
「見えた……」葵は目を開けた。
「カイトさんと『影帝』の出会い、そして……」
彼女は陽を見つめた。
「あなたのお父さんが『影帝』に変身する瞬間」
部屋が静まり返った。
「父は本当に……」陽は言葉を失った。
「そういうことさ」カイトは頷いた。
「彼は表向き、侵食者のリーダーとなり、評議会に対抗している。でも、その目的は破壊ではなく、改革なんだ」
「なぜ敵に情報を漏らすんだ?」零が疑念を露わにした。
「敵? 私たちは敵同士なのかい?」カイトは不思議そうに首を傾げた。
「『影帝』も、君たちも、目指しているのは同じこと。境界の安定と、評議会の腐敗の終焉だろう?」
零は黙った。
カイトは陽たちが持っていた「境界の地図」を受け取った。
「ありがとう。きっと役立てるよ」
彼は真剣な表情になった。
「警告しておく。評議会の長老・蒼月が君に接触するだろう。彼の言葉を信じるな。彼はお前の父親について嘘をつく」
「蒼月……」
「彼こそが評議会の首魁であり、境界結晶抽出計画の中心人物だ。理人さんの最大の敵でもある」
突然、廊下から足音が聞こえた。
「評議会の監視者だ。逃げろ」
教授が急いで言った。
「私が時間を稼ぐ」カイトは頷いた。
陽たちが急いで階段を駆け下りる間、背後ではカイトと監視者の衝突音が聞こえた。
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