第9話 初めての任務
「さて、今日はもう遅い」凛子は言った。
「桐生、明日から高城くんの指導を頼む」
「はい、委員長」葵は頷いた。
二人は影学園を後にした。帰り道は来た時とは違うルートだった。影学園の側廊下から出ると、不思議なことに桜ヶ丘学園の裏門の外に出ていた。
「どうやって……?」
「境界の通路よ」葵は説明した。
「影学園と現実世界を行き来するための」
「古井戸は何だったんだ?」
「通路の1つよ」葵は素っ気なく言った。
「さては、僕の覚悟を試したな?」
葵は何も答えず、笑みを浮かべていた。
夕闇が迫る中、二人は並んで歩いた。
「明日から本格的な訓練が始まるわ」葵は言った。
「鷹野の言うことは無視して、基礎から始めましょう」
「いや、彼の言う実地訓練も受けるよ」
陽は決意を示した。
「早く前に進みたい」
「でも」葵は心配そうに言った。
「境界力を制御するのは難しいわ。特にあなたの『真実顕現』は精神的な負荷が大きい」
「構わない」
陽は左手首のブレスレットを見つめた。
「父さんが残してくれたこの力を、使いこなせるようになりたい」
葵はしばらく黙って陽の横顔を見ていたが、やがて小さく頷いた。
「わかったわ。でも約束して」葵の声は真剣だった。
「危険を感じたら、すぐに私に言うこと」
「ああ、約束する」
◇
翌日、学校が終わると、陽と葵は再び影学園へと向かった。
「今日はどうやって行くの?」陽が尋ねた。
「学校にはいくつか境界への通路があるわ」
葵は説明しながら音楽室へと向かった。
「今日はここから」
放課後の音楽室は無人だった。葵は部屋の隅にある古いヴァイオリンケースに近づき、その光に手を伸ばした。
目を開けると、彼らは影学園の訓練室にいた。
「来たか」
振り返ると、鷹野零が腕を組んで立っていた。彼の隣には森下教授の姿もあった。
「予定通り訓練を始めよう」零は冷たく言った。
「ちょっと待って」葵が割って入った。
「彼はまだ基礎も――」
「大丈夫だ、葵」陽は彼女の肩に手を置いた。
「やってみる」
森下教授が説明を始めた。
「今日の訓練は基本的な境界力の制御と、簡単な実地演習だ」
教授は小さなカードを取り出し、文章を読み上げる。陽は自身の「真実顕現」の力で、それが真実か嘘かを次々と言い当てていった。
「素晴らしい」教授は感心した。
「初日にしては驚異的な安定性だ」
零は腕を組んだまま、無表情で見ていた。
「では次のステップだ」
彼は陽の前に立った。
「よし、ここからが本番だ」零は陽に向き直った。
「小規模だが、本物の侵食点の封印任務だ」
「本物の?」葵が心配そうに言った。
「まだ早すぎるわ」
「大丈夫だ」零は断言した。
「侵食レベルは低い。それに私がついている」
森下教授も頷いた。
「高城くんの能力が実際の状況でどう機能するか確認する良い機会になる」
陽は緊張しながらも、決意を新たにした。
「行きましょう」
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