第7話 覚醒、真実顕現
「お父様は影学園でも優れた研究者として知られていました」
凛子は続けた。
「その息子が素質者だと聞いて、多くの者が注目しているわ」
「父さんは……ここで何を研究していたんですか?」
「境界理論よ」凛子は窓の外を見た。
「2つの世界がどのように影響し合うのか、境界力の本質は何か……彼の研究は多くの謎を解明しかけていた」
「かけていた?」
「失踪する直前、彼の研究は中断された」
凛子はそっと言った。
「詳しい理由は私も知らない。ただ――」
彼女の言葉は、突然部屋に入ってきた別の学生によって遮られた。
「委員長、侵食点の報告が」
「了解」
凛子は素早く対応し、その後陽に向き直った。
「高城くん、まずは君の適性検査をしましょう。それからでないと、これ以上の話はできないわ」
◇
凛子の指示で、葵は陽を別の部屋へと案内した。「境界力測定室」と表示されたそこには、複雑な装置が並んでいた。中央にはヘルメット型の機器が据えられていた。
「これが正式な境界感応器ね」葵は説明した。
「より詳細なデータが取れるわ」
室内には他にも2人の学生がいた。白衣姿の年配の男性も立ち会っていた。
「こちらが森下教授」葵が紹介した。
「境界力研究の第一人者よ」
「森下……先生?」陽は驚いた。桜ヶ丘学園の物理教師と同じ人物だった。
「ああ、高城くん」森下教授は微笑んだ。
「ようやく本当の姿を見せられるな」
「先生もこの世界の人だったんですか?」
「両方の世界に属しているんだよ」教授は説明した。
「君のお父さんと同じようにね」
陽の心拍が早まった。父についての情報がまた1つ。
「さて、測定を始めましょう」
教授はヘルメットを指した。
「これをかぶって、椅子に座ってくれたまえ」
陽は言われた通りにした。ヘルメットをかぶると、視界が暗くなった。
「リラックスして」教授の声が聞こえた。
「心を空にし、呼吸を整えるんだ」
陽は目を閉じ、深く呼吸した。すると徐々に、奇妙な感覚が広がり始めた。自分の意識が拡張していくような、世界の輪郭がぼやけていくような感覚。
「反応が……」教授の驚いた声が遠くから聞こえた。
「これは……」
突然、陽の頭の中で何かが弾けた。眩しい光が脳内を満たし、そして次の瞬間、彼の視界が一変した。
ヘルメットを通して見える室内の風景は、これまでとは違っていた。人々の周りに色彩が漂い、言葉が発せられるたびに、その色が変化する。特に驚いたのは、ある学生の言葉の周りが赤く染まっていることだった。
「おお……」森下教授の声が興奮に震えていた。
「これは間違いない! 『真実顕現』の覚醒だ!」
「真実……顕現?」陽は混乱しながら尋ねた。
「他者の嘘や隠された意図を視覚化できる稀少な境界力」教授が説明した。
「色の違いとして現れるんだ。赤く見えるのは嘘や欺瞞、青いのは真実、そして紫は曖昧なものを表す」
陽はゆっくりとヘルメットを外した。すると視界は元に戻ったが、わずかに色の残像が見えた。
「これが……僕の境界力?」
「そう」葵が近づいてきた。
彼女の周りの色は透明な青だった。
「そして、それはあなたのお父さんが持っていたものと同じタイプよ」
陽の心に静かな喜びが広がった。父との繋がりを感じた瞬間だった。
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