第17話 早く、帰ろう(side ジェイク)
「マッケラス公爵、今のアリエッタの話は本当か」
国王様が立ち上がり、マッケラス公爵の一族に近づく。衛兵が武器を構え、彼らの周りを囲んだ。
私は立ち上がると、国王様に近づいて一礼をした。
「国王様、これでお嬢様、そしてハウゼン家が今回の件に関係がないということがお分かりになったかと思います。お嬢様を屋敷で休ませる必要がありますので、私たちはこれでお暇させて頂きます」
そのまま騒めく聴衆たちの間を進み、旦那様と奥様、お坊ちゃまのところに行く。
「騒ぎを大きくして申し訳ありません。お嬢様と一緒に屋敷の方へ戻りましょう。私がお送りします」
後ろで首を床に降ろして、人間たちのやり取りを退屈そうに見つめる竜に視線を送る。彼はそれに気づくと、半分閉じていた瞼を持ち上げ、金の瞳を輝かせた。大人4人ならなんとか乗れるはず。
お坊ちゃまは奥様の影からこちらを伺うように頭を半分出していた。
少し怯えられてしまったようで、胸が痛んだ。――詳しくは後で説明させてもらおう。
少し俯いてから私は思い直して、旦那様の手を引いて竜の方へ歩み寄った。
「待ちなさい」
国王様が私たちを呼び止める。
「何でしょうか」
「――マーティンの件の話は聞いた。――が、君やエリスについての話がまだだ。君はハウゼン家の使用人だと名乗ったが――、その竜は、エリスがマーティンやオーウェンを治療した力は何なんだ」
肩をすくめる。
「この四つの翼を持つ赤竜をご存じないですか。百年前、魔王討伐部隊の先陣を切り、【赤い流星】と呼ばれた竜……クワトロを?」
どよめきが玉座の間に響く。「勇者」と誰かが呟いた。
「私は今はハウゼン家の使用人ですが、前世の名は――ルーカス、勇者と呼ばれている男でした。しかし――ルーカスは、本当の勇者ではない」
そう、私はトドメをさしただけだ。
ただ生き残っただけで、勇者と称えられた。
魔王が倒されたのは、全てマリーネ様や――かつての仲間のお陰だ。
「お嬢様は、――お嬢様こそ、魔王を倒した聖女様の生まれ変わりです」
聴衆から驚きの声が上がった。
「私――?」
隣で、お嬢様の当惑したような呟きが聞こえて、私は彼女を見つめた。
――癒しの魔法が使えたという事は、記憶を――マリーネ様としての記憶を思い出したのではないかと思っていたが……。
そうではない?
彼女に確認をしたかったが、私は言葉を飲み込んだ。
今はとにかく、落ち着いた場所へ戻りたい。
ここまで言ってしまったのなら――いい機会だ。
私はこの場に集まった貴族たちを睨んで告げた。
「今後、ハウゼン家に危害を加えようと思う者は――かつて、人の世を脅かした魔王を討ち滅ぼした私を敵に回すとお考え下さい」
「ジェイク!」
たしなめるように、お嬢様が私の名を呼んだ。
「ありがとう――でも、あなたも、休んだ方がいいわ」
「――いえ、私は」
お嬢様は私の肩をぽんとたたいて微笑んだ。
「顔色がとても悪いもの。私のために頑張ってくれたんでしょう? そんなに怒るなんて、あなたらしくないわ」
「お嬢様……」
一番大変だったのはお嬢様ご自身のはずだったろうに、気遣ってくださっている。
お嬢様に気を遣わせてしまった申し訳なさで恥ずかしくなり、私は視線を落とすと、国王様に頭を下げた。
「ご無礼をお許しください。ただ、お嬢様や旦那様にお休みいただきたいので、この場を離れさせていただきます」
「陛下、詳しい話は後程させていただければと存じます」
旦那様もそう言ってくださり、国王様は「わかった」と頷かれた。
私はほっと一息吐いて、旦那様たちを竜の背に案内した。
赤竜の四枚の翼のうち二枚で旦那様たちを包ませる。
これで安定するはずだ。
竜の首に跨り背中を叩くと、空中に舞い上がった。
早く、帰ろう。――私が愛する、今世の日常へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます