第24話:家族の温もり、そして過去と向き合う心。

 素材集めを終え、ラジアナの工房に帰宅する。

 帰宅早々、ラジアナは義父に早速採取した素材を見せ付ける。


「とーちゃん!見てみて!結構上質な素材だ!これなら良い武具創れそうじゃないか!」

「おっ!こりゃ凄いなラジアナ!…よくこんな良い品質なモン取れたな!……うむ、工房の奴等もなかなかやるじゃねえか!暫くストック出来るなぁ!」


 嬉しそうにうなづくラジアナの義父。

ラジアナと響夜は顔を見合わせ、小さく笑い合う。

まるで秘密を共有し合うように。

 そして、炊事場の奥から透かさず、母親らしき怒号が飛び出す。


「ちょっとアンタ!素材のチェック私がやるって言っただろ?! それより、西の採掘用のツルハシの納品は終わったのかい?」

「そう焦るなよぉ、かーちゃん! 期日は守ってるだろぉ?」

「…ったく!無駄口叩いてないで働きな!」

「ははは!まぁーたかーちゃんに怒られてやんの!」


 二人のやり取りを見て、笑い出すラジアナ。


「うるせーぇ」


 そう言って義父は立ち去ろうとする。


「すまないね、客人方。ウチは騒がしくて落ち着かないだろ?」


 そう言いながらラジアナの母親は、響夜にお茶を差し出す。


「…いえ」


 柔らかい笑みで返す響夜。

 ラジアナは先の出来事を話し始めた。


「それより聞いてよ!キョウヤの『魔法剣』すごいんだよ!!」

「おっ!なんだなんだ?!聞かせてくれよォ!」


 立ち去ったはずの義父が、食い付くように戻って来る。


「アンタ!!」


 母親の雷。

 楽しそうに盛り上がる会話劇。

 工房の中は、温かい笑い声が絶えない家族の団欒だんらんに包まれていた。

 親に甘え、親が子をいつくしむ、当たり前のようでいて、響夜きょうやにとっては決して経験することのなかった光景だった。

 その様子を目の当たりにした響夜の心に、言いようのない切ない感情が込み上げてくる。


 それは、憧れや羨望せんぼう

 そして……自身の過去への寂しさが、醜く入り混じったものだった。


 響夜きょうやは、そんな愚劣な感情を誰にもさとられたくなかったのか、そっとその場を離れた。

 急に響夜が姿を消したことに気付いたラジアナは、彼の様子に何かを察し、街のあちこちを探し回る。

 やがて、街の小さな公園のベンチに独り、物悲しい雰囲気で座っている響夜を発見した。

 ラジアナは響夜の隣にそっと座り、優しい声で彼の心に寄り添おうとする。


「キョウヤ…どうかしたか?」

「あ…。うん…、いや……」


 ラジアナの真っ直ぐな問いかけに、響夜きょうやは最初は言葉をにごそうとするが、彼女は響夜の手をそっと握り、心配そうに見詰める。

 彼女の温かさに触れ、少しだけ、心の内を話し始めた。

 『現世の事』は伏せながらも、響夜きょうやは自身が望まれて生まれた子ではない事や、両親は自分に無関心で、いつも自宅で独りで過ごしていた事を、ぽつりぽつりと語った。

 ラジアナはその話を聞いた途端、瞳に涙を浮かべた。

 そして、彼をなぐさめる様に、言葉ではなく、衝動的に響夜に抱きついた。

 彼女は、親から愛情を注がれて育った自分とは違う、響夜の孤独な過去に深く共感し、その痛みを分かち合おうとした。


「僕ね…小さい頃、瀕死ひんしの状態で捨てられてたんだ」


 ラジアナの告白に、響夜きょうやは目を見開く。


「でも今はさ…今の両親に拾われて、大切に育ててもらった。…キョウヤと同じとは言わない。でも…寂しいって気持ちは……判る。……僕も、拾われる前は独りぼっちだったから…」


 なんて……暖かいんだろう。

 ラジアナは更に強く、しかし彼を壊さないように優しく抱き締める。

 響夜きょうやは暫く、彼女の温もりにいやされていた。


 ちょうどその時、響夜を探して公園にやってきた、ティア、コハク、そしてリゼッタ。

 ラジアナが響夜を抱きしめている現場を目の当たりにし


「こーらーぁぁ!私のマスターに気安く触るなぁ!!」

「あ!ちょっと……!」

「キョウヤさん!こんな所に!」


 発狂したように叫ぶリゼッタ。

 そのリゼッタを止めようとするティア。

 心配して駆け寄るコハク。

 響夜きょうやを大切に想っている純粋な気持ちが入り混じった彼女たちは、一斉に響夜に向かって駆け寄る。


 そして、他のことを考える間もなく、みんなで響夜に押し倒すように抱きついた。

 響夜は突然のことでおろおろするが、たくさんの温もりと、自分を大切に思ってくれる仲間たちの存在に、胸の奥から温かいものが込み上げてくるのを感じていた。


 この温もりが、今の俺の『家族』なんだ。


 なんだか、いじけてた自分が恥ずかしくなった。

 また忘れる所だった。


 自分は……独りじゃない事を。


 みんなで帰宅する際、玄関でリアーナとラジアナの両親が、温かい笑顔で帰りを待っていてくれた。


 そして、優しく


「おかえりなさい」


 と、笑顔で迎えてくれた。

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