【番外篇】​第7.5話:緋色の晩餐、夜景に笑う。

​ 煌々と瞬くルアールの夜景を窓一面に臨む、高級レストランのVIP席。

 煌びやかなシャンデリアの光が、テーブルに並べられた銀食器に反射し、眩しい輝きを放っていた。

​ 『緋色ひいろつるぎ』のリーダー、バルドは、ワイングラスを片手に豪快に笑い、満足そうにステーキを頬張っていた。

 そして、向かいに座るエリシア。

 彼女は、『緋色ひいろつるぎ』のサブリーダー。

 漆黒の妖艶な旗袍チーパオに身を包み、魔法使い特有の黒い三角帽子を被っている。

 バルドの様子を微笑ましげに見つめながら、優雅にグラスを傾けるエリシア。


​「貴方らしくないわね?頬をかすめたぐらいで『降参』するなんて」


​ エリシアは、夜景に目を向けたまま、静かに口を開いた。

 その声は、優雅な雰囲気を壊さぬよう、少しばかり抑えられていた。


​「へっ!対峙すりゃわかる。もしあのにぃちゃん……キョウヤが本気なら、俺の頭は潰されていたぜ?」


​ 口いっぱいに頬張っていたステーキを飲み込むと、バルドはワクワクした表情で言い返した。

 彼の言葉には、敗北を悔しがる様子は微塵もなく、むしろ新たな戦友ともとの出会いに喜びを感じているようだった。

​ エリシアは、そんなバルドの言葉に首を傾げ、少しばかり眉を寄せた。


​「相手の武器が『魔法剣』…レイピアだったんでしょ?『潰される』なんて…ちょっと大袈裟な表現じゃない?」


​ 魔法使いである彼女にとって、魔剣士である響夜の強さは、想像の範疇を超えているようだった。


​「対峙してみないと判らねえ事もある。アイツの『魔法剣』……ヤベぇぜ?」


​ バルドは、声を抑えきれない様子で、身を乗り出す。

 その表情は、まるで初めて見つけたおもちゃに夢中な子供のようだった。


​「……うーん。その場に居合わせてないから、判らないけど、少し興味は持ったわ」


​ エリシアは、バルドの熱意に少しだけ押され、微笑みを浮かべた。

 その笑みは、バルドの無邪気な様子を楽しむかのような、少しばかり妖しい響きを帯びていた。


​「だろ?近々大規模討伐があるらしいからよォ!そん時に会えるんじゃねえか?」


​ バルドは、期待に満ちた表情で尋ねた。


​「どうかしら?大規模となると……参加者も多い上に、私みたいな後方支援型は、BとCランクのサポート役に回されちゃう可能性は高いわね。彼には会えないかも」


​ その言葉に、バルドは「ちぇっ」と小さく舌打ちをした。


​「だとしてもよォ。ぜってーどっかでは会えるだろォ?そん時ァ、飯にでも誘うか!」


​ その力強い言葉に、エリシアは面白そうに笑った。


​「あら。それは貴方にしては妙案。その日がくるのを楽しみにしようかしら」


​ 楽しそうに笑うエリシアにつられ、バルドも豪快に笑った。

 二人の笑い声は、煌々と輝く夜景に溶け込んでいった。

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