第34話─このゲームには必勝法がある


キーンコーンカーンコーン……



チャイムが鳴り響き放課後になったことを知らせる。



普段なら生徒達は部活動に向かう準備をしたり友達と談笑し始める頃合いだが、ここ第一学年Sクラスは静寂に支配されていた。



誰も席を立たず誰とも話そうとしない。



まさに異様な光景といった感じだが、僕としても皆がそのような様子になるのがとても理解できた。



まさかあんなに酷い組み分けの結果があるなんて……。



体育館で生徒会長の京極ナツメ先輩がパソコンを操作し、組み分けがスクリーンに表示された瞬間ピシッと身体が固まった。



僕達『黄陣営』は僕達第一学年の魔法師Sクラスと武士Aクラスを除いて、全ての学年の下位クラスが集まった、ぱっと見でわかるくらい最弱の陣営となっていた。



僕達はまだ学園に入学して間もない一年生だ。魔法の実力も知識も何もかもが不足している。本来なら先輩達についていって『陰陽大祭』のノウハウを教えてもらいたかった所ではあるけど、順当にいけばSクラスの僕達が『黄陣営』の指揮を執ることになるだろう。



まさに絶対絶命である。



はぁ…これからどうやって『陰陽大祭』までの期間を過ごしていけばいいんだ…と考えていると僕に声がかかった。



「ヒカル君。部室に向かいませんか?」



教室の静寂を破り僕に声をかけてきたのは西園寺テルネ。僕の友人で名家の西園寺家出身のお嬢様である。



「テルネ…。そうだね、落ち込んでてもしょうがないや。気持ちを切り替えて部室に向かおう。……それに、アラタ先生ならこの状況を打開するための策を持っているかもしれない。」



僕達が現状唯一希望を持てる点といったら、僕達『黄陣営』の実質的な指揮をSクラスの担任であるアラタ先生が執るということだろう。



彼なら…何か秘策を持っていてもおかしくない。



根拠も何もないけれど何故かそう思った。



「はい…私もそう思います。現実から逃げるためじゃなく、現実に立ち向かうために私達はアラタ先生の下へ向かわなくてはいけません。」



僕の目をまっすぐと見返してテルネが力強くそう言った。



そして彼女は僕から目を外すと教室をぐるりと見渡し、徐に口を開く。



「皆さんも…まだ諦めるには早いと、私は思います。少なくとも私達にはまだ時間が残されている。一つずつ問題を解決していけば現状を打開することが叶うかもしれません。それに、この『黄陣営』は我々が引っ張っていかねばならないことは明白です。第一学年筆頭クラスの自覚を持ちなさい。」



教室中の注目を集めてもテルネは堂々としたまま言葉を続ける。



自身の中に確固たる芯がありそれが折れない限り彼女が諦めることは決してない。



それが短い付き合いながらも僕が彼女について知ったことだった。



「今日はそれぞれ課題を持ち帰り、自分の頭で考える日にしましょう。そして明日から反撃の狼煙を上げるための作戦を皆で考えるのです。」



そうテルネが提案すると教室内が息を吹き返したように普段の様子を取り戻す。



慌てて部活に向かう者、机に座ったまま考え込む者など様々だ。



皆必死なのだ。『黄陣営』を勝利に導くために。意気消沈してうなだれていた分の遅れを取り戻そうと活気に満ちあふれている。



皆の目に闘志が宿った。



そしてその闘志の火を皆につけたのは他でもないテルネだ。



僕と同い年のはずなのに……やっぱりテルネはすごいな。



改めて僕の友達の凄さを再確認して僕達も教室を出る準備をする。



「行こう。」



「ええ。行きましょう。」



勝利をこの手に掴むために。






────────────────────────────


ソワソワソワ……。



先程から気が落ち着かない。やたらとソワソワして中々ドアの取っ手に手をかける覚悟が決まらないのだ。




現在、俺はとあるドアの前に立っている。



そのドアとは俺が顧問を務めるオカルト研究部の部室のドアだ。



人数の集まらない廃れたオカルト研究部を象徴するように、ドアは汚れて錆びついている。



なぜ俺が入室する決心がつかないのか



それは─────






主人公達が俺を頼ってくることが分かりきっているからだ!





無いよ!解決策無いよ!




行き詰まったら先生に助言を求めるのは当然である。しかし、こちらが何も解決策を持ち合わせていないときに頼られても困る!



『陰陽大祭』がこんなに難しいイベントになるとは思わなんだ。



主人公が成長した二年生とか三年生の時とかなら何とかなるかも知れんが、この時点でこんな事になったら詰みである。



ゲームならリセット案件だ。



俺が遊んでた時もここまで酷い組み分けはなかったぞ!バグか?バグなのか?そうに決まってる。



敵は悉く強い組み分けを引き、自分たちは悉く弱い組み分けを引く。



一体どうすればいいんですかねぇ……。



俺が教えて欲しいくらいだ。



この『陰陽大祭』はもうどうしようもないが、せめて主人公達の前では不甲斐ない様を見せる訳にはいかない。



さて…これからどういうムーブを取るべきか…。最低限俺の株は落ちないように立ち回りたい。



生徒の自主性を尊重するという名目で黙秘を貫くか…。それとも突然体調を崩したことにして武士クラスのテンカに丸投げするか…。



悩ましい。悩ましいぞぉー。



そんなふうにうんうんと頭を悩ませていると突如目の前のドアが開き、中から金剛ルナが出てくる。



ガラッ…



「トイレ……。」



やべっ…逃げろ……!



慌てて踵を返そうとするが時すでに遅し。



「あれ…アラタ先生?」



バッチリと目があってしまった。



オワタ\(^o^)/



俺を見つけて途端に表情を明るくする金剛ルナ。



こちらに近づき俺の腕を取ってくる。



く…来るな……!



俺のそばに近寄るなあああーーッ!



「もう来てたんだね…!アラタ先生!皆待ってるよ!早速作戦会議を始めよう!」



俺の内心とは裏腹に金剛はウキウキと俺を部室に入れようとする。



やめろぉ…!そこは俺にとって地獄の入り口なんだ…!



ズルズルと引きずられまんまと部室に入室してしまった俺。



部室に入るなり、そこにいるメンバー全員の注目を一斉に受ける。



なんだよ。



こっち見んな◯すぞ。



「アラタ先生…!待っていました…!」



嬉しそうな表情でこちらを見る主人公─北条ヒカル。やめろ俺を待つな。



「まぁヒカル君落ち着いて。アラタ先生は逃げたりしませんから。」



興奮した様子のヒカルをたしなめる西園寺テルネ。そうだお前ら落ち着け!



──ちなみに俺今からでも全然逃げるけど大丈夫そ?



「ホラ!ここ!ここ座って!」



長机の所謂お誕生日席にあたる場所を指差しそこに座るよう促す金剛ルナ。



よりにもよってこの場所とか何かの罰ゲームですかねぇ。



俺が最悪な状況に陥り絶望していた時横から声がかかる。



「お、お久しぶりです…弥勒院先生…。」



「です。」



主人公達に混じって聞き慣れない声がして怪訝に思いつつもそちらに顔を向けると、そこにはオカルト研究部の部長─法霊崎ほうりょうさきシド─と副部長─蜘蛛宮チエ─がいた。



法霊崎は痩せこけた頬をした身長の高い男子生徒で、蜘蛛宮は髪を大きめのお団子にして纏めている身長は普通くらいの女子生徒だ。



彼らは数少ないオカルト研究部のメンバーで、ほぼほぼ幽霊部員と化しているので部室に来ることはほとんどない。



俺も顧問に就任した時の挨拶で一度顔を合わせたきりだ。



なんだお前らまで顔を出すなんて珍しいもんだな……って



そういえば確か、法霊崎が三年Fクラスで蜘蛛宮が三年Eクラスだったな。



『黄陣営』に所属してしまい、藁にも縋る思いで部室に顔を出したのか…。



ていうかオカルト研究部全員『黄陣営』かよ。



確率どうなってんだ。やっぱり誰かが仕組んだんじゃないだろうな…。



「さて、挨拶も済んだことですし…早速『陰陽大祭』に向けての作戦会議を始めましょう。と言っても私達だけではもはや八方塞がりで……何か妙案があったりしませんか?アラタ先生?」



西園寺が音頭を取り会議が始まるが、案の定俺に丸投げされそうになる。



ほ〜れ見たことか。こうなるのが分かってたから入りたくなかったんだよ。



とりあえず当たり障りのないことを言って時間稼ぎを……



「ふむ……。間違いないなく言えることはここにいるメンバーが『黄陣営』の中心になるということだな。Sクラスの中心である西園寺と北条、そして最近力をつけている金剛。法霊崎と蜘蛛宮は高学年の生徒と第一学年を繋ぐ役割をすることになる。お前達一人一人が重要な役割を果たさねば勝利はありえないだろう。」



「確かにそうですね……。ここにいるメンバーが『黄陣営』の中心……。」



改めて自分たちの置かれた立場を理解したのか、俺の言葉を繰り返す北条ヒカル。



そうだよ。実際お前が頑張らない限り勝利はありえないだろう。



「そのためにも…まずは各々の得意魔法の把握といったところか。それなくして作戦は立てられん。」



ここまではまぁ誰でも思いつくようなことしか言っていない。



しかし、ここから先は俺の秘策が求められる所だ。



その期待に応えたいところだが無理なものは無理なんだよな…!



どっかから妙案が転がってきたりしねぇかな。



「私は雷を使った身体強化が得意かな。」



「私は回復魔法と支援魔法といったところでしょうか……。」



各人が自身の得意魔法を発表する。



そして法霊崎と蜘蛛宮が自身の魔法について語る番になった時だった。



何かモヤモヤとした違和感が俺の中に渦巻いた。



何故か俺は法霊崎と蜘蛛宮の顔にものすごく既視感があったのだ。



「俺は…壁をすり抜けることができる。でも…それだけだ。使い道といったら逃げることくらいだよ。」



「私は…魔力でつくった蜘蛛を呼ぶことができる。後は…糸で敵を繭に包んだり自分自身を繭に包んだりもできる。……実用性が全くないんだけどね。」



そして彼らの魔法について聞いた瞬間ピンときた。






ああ…ここにいたのか。



なんで始めに顔を合わせた時に気づかなかったんだ。



くそ、この世界に転生してから結構な時間が経っているから細かい原作知識が薄れてきてるのか?



ピーキーな魔法の性能を持っていて、局所的に大変役に立つモブキャラ。



原作のゲームでは滅茶苦茶活躍してくれてたからてっきりSクラスとかAクラスにいるんだと思ってたぜ。



『マジキン』廃ユーザ御用達の有能モブ。その二人が『黄陣営』にいるとするなら話は変わってくる。



『マジキン』のプレイヤーは『陰陽大祭』イベントの間は自身の陣営に所属する生徒を好きに編成してチームを組むことができる。



そして法霊崎と蜘蛛宮は二人とも『陰陽大祭』の特定の競技の中で大活躍する。『マジキン』プレイヤーはこの二人が自身の陣営にいるかどうか真っ先に確認する程だ。



彼らはいわゆる、時と場所を選ぶが強い時はとことん強いキャラなのだ。



しかし…この世界ではその魔法のピーキーさゆえ成績があまり芳しくないようだな。



まぁ使い方がわからなかったら普通に弱いからな。



しかし……これは……勝てるぞ……!



「成る程……だいたい分かった…。」



そう言って碇◯ンドウのポーズを取る俺。



俺の中で勝利の方程式が組み上がっていく。



ショウリツケイサンチュウ……



ショウリツ────99%デス。



「アラタ先生…!それで…何とかなりそうですか…?」



不安そうに俺に聞いてくる西園寺。



大丈夫だ。問題ない。全てうまくいく。



「ああ…作戦が思いついたぞ。それもとびっきりのが……な。」



「!!」



驚愕の表情を浮かべる一同。



まぁ無理もない。絶望的な状況が覆るかもしれないのだ、その驚きは一入だろう。



「このゲームには必勝法がある。




───そしてその鍵を握るのが法霊崎、蜘蛛宮お前達だ。」



突如名指しされて目を丸くする二人。



そんなに驚くなよ。



お前らは今までの学園生活が嘘かのように脚光を浴びることになる。



このゲーム……勝ちにいくぞ……!






──────────────────────


普段やるゲームとかでも、知る人ぞ知る有能モブとかいますよね。


そんな感じです。


ちなみに、第一学年武士Aクラスの担任はテンカちゃんなので同じ陣営ですね。




★と♡とフォローたくさん欲しいです。


ps.主人公の北条ヒカルの一人称を「俺」から「僕」に変更しました。なんか違和感があったので。

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