最終話:新たなる夜明け

戦いは、終わった。



「デビルス事変」あるいは「二人の天才の戦争」と呼ばれるようになった、あの悪夢のような数日間は、惑星連合の歴史に、決して消えることのない深い傷跡を残して、その幕を閉じた。



シュタイナーの野望は、彼自身の消滅と共に潰え、S.Yのその後の行方は、杳として知れなかった。

彼は、どこかの闇に消え、新たな復讐の機会をうかがっているのかもしれない。

だが、少なくとも、惑星連合は、建国以来最大の危機を、脱したのだった。



しかし、その代償は、あまりにも、あまりにも大きかった。



最強のPSであった「デビルス」と、その対抗馬であった「スペシャル・マーク2」は、首都の上空で、光となって消滅した。

そして、その心臓部であり、人類の科学技術の結晶であった「ブラックボックス」の技術もまた、この世から完全に失われた。

人類は、自らが作り出した最強の力を、そして、その力を制御するための鍵を、自らの手で、永遠に葬り去ったのだ。








PSの歴史は、大きな転換点を迎えた。

絶対的な力を持つ「神」は、もはや存在しない。

PSEを主力とする、人間のパイロットが操る、「人間的な」兵器の時代へと、逆行するように戻っていった。


それは、技術的な退化だったかもしれない。


だが、多くの人々は、それを、健全な進化だと考えた。

人の手に余る力は、持つべきではないのだ、と。


タカシ・ミヤザワは、あの日、ジャングルから生還した後、軍を退役した。

彼は、英雄として称えられたが、その称号を、決して受け取ろうとはしなかった。

彼の心の中には、英雄という誇りではなく、生き残ってしまった者としての、重い負い目だけが存在し続けていたからだ。

彼は、これからの人生を、二度と、あの過ちを繰り返さないために、PSという力がもたらした光と影の歴史を、正しく後世に語り継ぐことに捧げようと決めた。





数年の歳月が流れた。




タカシは、銀河の外縁部に位置する、穏やかな辺境の惑星で、小さな私設の歴史博物館を開いていた。

そこには、彼が私財を投じて集めた、様々な時代のPSの残骸が、静かに眠るように展示されている。

初代PSの無骨な腕、PSEの流麗な脚部、そして、ガラスケースの中には、瓦礫の中から奇跡的に発見された、スペシャル・マーク2の、焼け焦げた頭部の一部が、大切に保管されていた。


ある晴れた日の午後、一人の少年が、母親に連れられて、その博物館を訪れた。

少年は、展示されている鋼鉄の巨人たちを、目をキラキラと輝かせながら見上げていた。


「おじさん、このロボット、昔は本当に空を飛んで、悪い奴らと戦ったって、本当?」

少年は、タカシの足元に駆け寄ってきて、尋ねた。



タカシは、ゆっくりと屈み、少年の目線に合わせると、優しく、そして、少しだけ寂しそうに微笑んで答えた。


「ああ、本当だ。彼らは、空を飛び、海に潜り、そして宇宙を駆けて、我々を守るために戦ってくれた。

彼らは、最高の英雄だったんだ」


タカシは、そう言うと、少年の頭をそっと撫でた。


「だがな、坊や。一つだけ、覚えておきなさい。どんなに強い力も、どんなに素晴らしい技術も、それを使う人間の心が正しくなければ、それは、ただ人を傷つけるだけの、恐ろしい鉄の塊になってしまうということを。本当に大切なのは、力の大きさじゃない。その力を、何のために使うかという、君の心なんだ」



博物館の大きな窓の外には、惑星の、二つの太陽が、地平線へと沈んでいくところだった。

空は、オレンジと紫の、美しいグラデーションに染まっている。

それは、一つの時代の終わりと、そして、新たなる時代の夜明けを告げる、静かで、荘厳な光だった。



人類が、パワードスーツという、かつて「神の雷」と呼ばれた強大すぎる力を手放し、再び、自らの知恵と、そして心で、未来を歩み始めた、新しい時代の光。

それは、まだ、か弱く、不確かな光だったかもしれない。


だが、タカシの目には、その光が、かつて見たどんな爆炎の光よりも、力強く、そして、希望に満ちたものに、見えたのだった。





物語は、ここで終わる。


だが、人類の、そして、鋼鉄の巨人たちの魂の物語は、きっと、これからも続いていくのだろう。





新しい夜明けの、その先へと。

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