第20話:鋼鉄の涙

光が、弾けた。



それは、アヴァロンの空に、二つ目の太陽が生まれたかのような、圧倒的な閃光だった。



リミッターを解除し、PSそのものと化したアンナの、捨て身の突撃。

それはもはや、物理法則すら超越した、意志の力の発露だった。


スペシャル・マーク2が放った光の翼は、デビルスが誇る最強の防御壁、マッハバリアを、まるで薄紙を破るように貫いた。

そして、その光の槍は、デビルスの胸部中央、核融合炉を、正確に貫いた。




だが、それは、完全な相打ちに近かった。




デビルスの心臓部を破壊したスペシャル・マーク2もまた、リミッター解除によるエネルギーの暴走に耐えきれず、その内部構造が、分子レベルで崩壊を始めていた。

強固なはずの装甲が、まるで風化した砂のように、ボロボロと剥がれ落ちていく。



爆発寸前の、灼熱のコクピットの中。

アンナの薄れゆく意識は、不思議と穏やかだった。


彼女は、目の前で、同じように崩壊していくデビルスのコクピットを見た。

瓦礫と化した計器類の向こうに、シュタイナー博士の、安らかな顔が見えた。

彼の瞳には、もはや、狂信の色はなかった。


そこにあったのは、長い苦しみから、ようやく解放された者の、深い安堵の色だった。



『ありがとう、アンナ君…。君は、アーサーの、そして私の…本当の希望だった…。これで、ようやく、我々は一つに戻れる…』


シュタイナーの、最後の思考が、静かにアンナの心に流れ込んでくる。


彼は、争いを続ける自らの二つの人格を、そして、その争いの元凶となった、あまりにも強力すぎるこの力を、誰かに破壊して欲しかったのかもしれない。




『さようなら、アンナ君。君のような娘が、我々にもいたら、未来は、変わっていたのかもしれないな…』




次の瞬間、デビルスは、音もなく、巨大な光の球となって、空中で大爆発を起こした。




遠く離れた中央大陸のジャングルで、タカシは、動かなくなったPSSのコクピットから、その光を見た。

衛星回線を通して送られてくる、首都の映像。

戦いが終わったことを、彼は、直感的に理解した。


だが、彼の心に、勝利の喜びは、一欠片も湧き上がってこなかった。


アンナは?ガルシアは?多くの仲間たちの顔が、彼の脳裏をよぎっては、消えていく。

守るべきものを守れず、失われた命は、あまりにも多すぎた。

この勝利は、一体、誰のためのものだったのか。



彼のPSSのモニターに、一筋の冷却水が、まるで涙のように伝い落ちた。


それは、あまりにも多くのものを背負い、そして失った、鋼鉄の巨人が流す、静かな、静かな涙のようだった。



戦いは終わった。



だが、本当の戦いは、生き残ってしまった者たちの心の中で、これから、永遠に続いていくのかもしれない。

タカシは、静かに目を閉じ、終わることのない、心の戦場の始まりを、覚悟した。

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