第34話 エレノワ日記――止まらない止められない

 ダーリンと一緒に住めるなんて、人生でいちばんの奇跡やと思う。

 エイミーがあの人を勇者様って認めてくれた瞬間、

 ウチ、心の中でガッツポーズ三回くらい決めたもん。

 もしかしたら、心から飛び出してたかもしれへん。


 さらに会える機会が増えるどころか、まさかの同居やで?

 これってもう、カップル超えて結婚やない?💍


 ……でも、ウチは浮かれたりせぇへん。

 まだ足らんモンがあるの知っとるから。


 そう、それは――既成事実。


 広場の姉さんたちが言っとった。

 「男を落とすには既成事実をつくれ」って。

 なんやのそれ、よう知らんけど……

 きっとゴッツイことなんやろな。

 姉さんたち、目ぇキラッキラッしとったし。



 既成事実、よくわからんけどきっとこれでええやろ。

 “胃袋つかむ”作戦や!


 姉さんたち曰く、

 「男の心は胃袋から!」って。

 だから間違いあらへん!


 せやからウチ、毎日夕飯つくることにしたんよ。

 ウチの故郷の名物、“アツアツごった煮鍋”。

 根菜も肉も魚もなんでもドン!

 味も気持ちもごった煮や!

 ウチの心も似たようなもんやけどな。


 これでダーリンの胃袋ゲットや!


 エマとヨルちゃんは三日目で「もう鍋いらない」ってギブしたけど、

 ダーリンは残さず食べてくれる。


 ……いや、昨日ちょっと「今日もこれか」って言ってた気もする。

 気のせいやんな? うん、気のせい。



 最近、エミリヤもなんか頑張ってはる。

 キラキラしててちょっと腹立つけど、まあ可愛いとこもあるから許したる。

 でもどんなに頑張っても、ウチの方が一歩リードしとると思う。


 ウチ、一夫多妻の国出身や。

 だから、そもそも争う気なんてさらさらあらへん。

 ……せやけど、もし争うことになってもウチの圧勝やで。

 なんて言っても既成事実あるし(知らんけど)。

 それより、ウチが胸で勝っとるから、勝負にならんやろ?



 けどな。

 その既成事実があっても、ダーリンとの距離、

 あんま変わってへん気がすんねん。

 むしろ、ちょっと離れとる?


 なんでやろ。

 なんか、モヤモヤして、胸の中がムズムズして、

 気づいたら窓の外見つめてもうてる。


 そう言えば、

 最近、エイミーとダーリンが話してるの、よう見る。

 ……二人とも、よう笑ってはる。

 ウチの前では見せへん顔……。二人ともや。


 ……ウチ、なんかやらかしとる?

 そんな訳ないな。……多分やけど。


 恋は戦争やって姉さんたちが言っとった。

 なら、戦うことしか知らんウチでも、

 うまくいくって思っとったけど――

 でも、なんかちゃうっぽい気がすんねんな。


 勝てへん相手がいるとは思わんかった。

 うまく言えへんねんけど、

 勝ち負けとか、作戦とか、そういうんとちゃう。

 心が追いつかへん感じ。

 ウチ、なんでこんな苦しいんやろ。

 ……ダーリンを見るたび、

 笑いたいのに、胸の奥がちょっと痛いねん。


 あぁー! ……難しい事考えとったら眠たなってきた。


 もう夜も遅いし、もう寝よ。

 ……ダーリン、ウチもうちょい頑張るからな。

 明日も頑張らな。

 今日はここまで。



 今日の反省。

 ごった煮鍋は何入れても美味いんやけど、

 ケーキ入れたんはあかんかったかもしれへん。

 ダーリンの顔、ちょっと引きつっとったけど。


 ……ウチは、美味しかったと思うんやけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る