第4話:食堂での運命的遭遇
私は実に興味深い状況に陥っていた。
魔法学院に転生してから一週間が経ったのだが、その間に覚えた魔法はゼロ、暗記した古代魔法語の動詞活用は二十三個、解いた魔素計算問題は四十七問である。
これが華麗なる異世界生活への道のりかと思うと、実に気が滅入る。
その日の昼食時、私は食堂の列に並んでいた。
メニューは相変わらず黒パンとスープ、それに謎の根菜炒めという質素なものである。
「魔法学院の食事もこの程度か」と失望していたその時、私の前に一人の少女が立ったのである。
銀髪が食堂の照明に輝き、淡い紫の瞳が実に印象的であった。
その美しさは目を見張るものがあったのだが、なぜか憂鬱そうな表情を浮かべている。手には例の「異世界転生譚集」を持っているではないか。
「新入生の方ですね」と彼女は振り返った。
「ええ、そうです。」と私は答えた。
「私はアリア・ルーンヒルデです。魔法理論学科の二年生です」
声は清楚で、まさに理想的な美少女の声音である。
そして、内心では「遂に!これぞ異世界転生の醍醐味!美少女との運命的出会い!」と興奮していたのである。
「あの本は...」と私は彼女の手にした本を指差した。
「あ」とアリアは少し赤くなった。
「これですか?実は...この世界の文学は退屈なものばかりで、面白い作品を探していたんです」
私は驚いた。まさか学年首席の優等生が、このような娯楽小説を好んで読んでいるとは。
「私もその作品、知っています。大変面白い設定ですよね」と私は言った。
アリアの目が輝いた。
「本当ですか?あなたもお読みになるのですね!」
我々は意気投合し、列に並びながら異世界転生小説について語り合った。
アリアは実に博識で、「転生者の心得」や「チート能力の分類学」について詳しく論じることができるのである。
「でも」とアリアは溜息をついた。
「現実の魔法世界は全然違いますね。魔法があっても、結局は計算と暗記の毎日です。もっと劇的な展開があってもいいのに」
私は深く頷いた。
「実に同感です。私もこの世界で、もっと...こう、華麗なる冒険を期待していたのですが」
「そうなんです!」とアリアは身を乗り出した。
「小説の主人公のように、魔法で敵を倒したり、仲間と冒険したり...でも現実は魔素計算ばかり」
私は感動した。
遂に同じ境遇の人物に出会えたのである。この殺伐とした学院生活の中で、理解し合える相手を見つけるとは。
「よろしければ、今度一緒に図書館で勉強しませんか?お互い、この世界について語り合いながら」と私は提案した。
アリアは嬉しそうに頷いた。
「ぜひお願いします。実は最近、魔法に関する古い文献を調べているんです」
その時、アリアの後ろに並んでいた上級生が口を挟んだ。
「アリアちゃん、また異世界転生小説の話?」
「先輩...」とアリアは慌てた。
「君たちは知らないだろうけど」と上級生は苦笑いした。
「アリアは『現実逃避の姫君』って呼ばれてるんだよ。
優等生なのに、いつも『もっと刺激的な世界があればいいのに』って嘆いてるから」
私は愕然とした。つまり、この世界の住人にとっても、私が憧れていた「魔法世界」は退屈な日常に過ぎないということなのか。
「つまるところ...理想とは常に現実の向こう側にあるものなのだな」と私は呟いた。
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