うちの魔法少女が多分黒幕なんだが

阿吽

うちの魔法少女が多分黒幕なんだが

魔法少女。魔法を使い、敵を鎮圧する存在。それは全世界での共通認識だ。ただ、魔法少女はいわゆる会社なのである。したがって金を必要とするし金を出せば傭兵やボディーガードのようなこともできるのだ。それこそ日本の貴族のほとんどが自身や家族に専属魔法少女を雇っており、自分の身を守っている。最神家、日本の貴族の代表格ともいえるその名家の三男である最神遥は一人私室で考え事をしていた。


僕は最神家の三男だ。

そう、三男なんだ。本来三男ともなれば扱いは素晴らしくもひどくもない普通の扱いをされるのが普通なはずなのだ。

じゃあなんで僕には日本でも有数のS級魔法少女が専属になっているのだろう。

そう、なぜか僕はでろっでろに甘やかされて育ってしまったのだ。

流石に途中から恐怖を感じてしまったことで今はまともな思考回路となり我儘王子として生きているということはなくなった。

どんなに甘やかされそうと日本最高レベルな魔法少女をぽんと専属にしたら流石に引く。月給億とからしい。バカかな?バカだな。

結果として今僕の私室は身内からのプレゼントが大量にある。

え?半分も使ってないよ?どうやったら日常生活で歩兵戦車の実物大レプリカを使うんだ。


「只今帰りました〜♪」


そう言いながら部屋に入ってきたのは血塗れの僕の専属魔法少女である響鬼さんだ。

いや怖いんだけど!?なんで血塗れなの!?

最近僕は思っていることがある。


うちの魔法少女が黒幕かもしれない


「あ、あの…その血は…?」


一応恐る恐る聞いてみる。


「…?あ、あぁ、大丈夫ですよ?返り血なので♪」


そうじゃっ…無いんだよ!

別に君の身を案じてるわけじゃないんだよ日本最強格魔法少女ぉ!

どういった経緯でそんな返り血がついてんのか知りたいんだよ…

しかし本当にあの人なんなんだ…常に陽気なのになんだかんだミステリアスだしなんか怖いし戦い方とかわかってないし……僕一応護衛対象なのに響鬼さんのこと全く知らないんだけどぉ!?

…一度付けてみようかな…


[壁]_・)チラッ


「……」


チラッ、スタスタ


ヨシッ!こっち見られた気するけど多分バレてない!

尾行を続けようか。


尾行して5分後、響鬼さんは商店街に到着。

血塗れでたこ焼きを買い、ソースを垂らしながら歩く。

てか血ぐらい拭いてよ!通行人2度見しちゃってるじゃんたこ焼きのソースと血で口元エグいくらいグロテスクになってるし!

そんなことを思っていると黒いローブを纏った魔術師集団が路地から現れた。

え?もしかして響鬼さんの手下だったり…?


「最神家の三男を差し出せ!」


(え、狙い僕!?)


次の瞬間、響鬼さんの足元に光陣が展開。

五色の雷が弾け、魔術師たちの杖を一瞬で焼き切った。

魔術師たちは慌てふためくが響鬼さんは落ち着いた様子で舞うようにステップを刻みながら、


「……そっちから来てくれると助かります♪」


そう言い右手で魔力を握り潰すような動作をすると、周囲の空気が低く唸り──


ズガァァン!!


空間そのものが爆ぜたような衝撃。

衝撃こそなけれど直撃した魔術師は相応のダメージを負った。

魔術師たちは全員、壁に磔にされる形で気絶していた。


(……容赦なさすぎない?これ、口封じとかじゃないよね?)


が、その後すぐ警備隊が到着。響鬼さんが証拠品と一緒に彼らを引き渡していた。

商店街の人たちも拍手。

特に何かあるわけでもなくことが収束した。


(あれ、別に黒幕とかではないのか…?)


そう思いつつも僕は尾行を続けることにした。


尾行を再開してから5分後、響鬼さんはキョロキョロと辺りを見渡しながら巨大な建物へと入っていった。

そう、市役所である。

貴族は金を持ってるだけで市の運営にはあんまり携わってない。逆説的に言えば市役所オンリーで市を動かしているとも言える。


(まさか…市の偉い人に賄賂!?)


建物の中をガラス越しで凝視するとなんかスーツを着た偉そうな人と話している。響鬼さんの手には怪しげな茶封筒。

2人は話しながらこちらに向かってくる。

急いで僕は身を隠し二人の会話に耳を澄ました。


「…ええ、ですから被害を出してしまった小学校の修繕費を……」


「…でも、そんなことしなくても……」


…全然違った。

めちゃくちゃ善意じゃん疑った自分が恥ずかしい!

…いやでももう少しつけてみるか…


再び尾行を再開してから5分後、

ここは…廃郊外だよな…?殆どスラム状態の場所に魔法少女が何の用があるんだ?


「まさか…何かやばい取ひ――もがっ!?」


!?何か布で口を塞がれる。


「まさか貴族のガキがこんな廃郊外に居るとは…ヒヒッ、組織の糧となってもらおうか…」



えー、捕まりました。

そりゃそうだよね。スレ違いにいる名門貴族の息子とかカモ中のカモだもん。

何やってんだ僕ぅぅぅ!?

失敗した!こんなことなら最初っから尾行なんてするんじゃなかった…


「取り敢えずコイツを人質にして金を要求するか」


「…ヒヒッ、10億くらい要求するかぁ…」


ごめん響鬼さん、僕は帰れそうにありませんまる

誰か助けてくれないかな…


「何をやってるんですか?帰りますよ♪」


「いや…帰れそうにな――ってえぇ!?響鬼さん!?」


「はい♪遥様の専属魔法少女こと、響鬼ですよ♪」


「「なっ――誰だてめぇ!?」」


「いえいえ、私はこの子を迎えに来ただけですので名乗るほどのものでは♪」


「ハッ、ガキが!蜂の巣になれやぁ!!」


そう言いながら機関銃を構える悪人面の男。


「おま、バカ!人質にもあた――」


「遥様には傷1つつけませんので♪では――せいぜい地獄で詫びろゴミども」


彼女が左手を正面に突き出してを握りしめると悪人の持つ機関中がまるで粘土細工かのように曲がり、右手をぎゅっと握りしめると空間に無数の魔法陣がいくつも形成され、その魔法陣から氷の手が生成されていく。


凍結氷縛牢フリザ・リング・ケージ


その瞬間、氷が悪人へと一瞬にして纏わりついて悪人二人を完全に凍結させた。しかもその余波で部屋全体が凍り夏だというのに肌寒さすら感じる。


「では、帰りましょうか♪」


「アッ、ハイ」



その後家で僕は響鬼さんに謝った。


「すみません、あなたのことを悪人だなんて思って尾行してしまって」


「いえいえ♪私は全く問題ありませんので♪」


少し怖いけどやっぱり響鬼さんはいい人だった。

疑っちゃったら駄目だねなんて考えながら僕は寝床についた。


夜。

遥が眠りにつくのを確認すると響鬼は薄暗い廊下を足音を立てないように飛びながら彼の父親がいる書斎へと向かった。


コンコンコン


「入れ」


「失礼します」


そう言うと日本最強の魔法少女は遥の父、最神白哉のいる書斎へと足を踏み入れる。

それは昼のふざけたような口調などではなかった。


「…さて、計画はどうなっている」


「順調です、現在進捗は8割、後は厄介な廃郊外付近のマフィアを一掃すればこの市内は完全に安心です」


「そうか、遥のために頼むぞ」


「えぇ、遥様のために、必ずをして見せます」


最神遥は両親、兄姉に愛されている。

否、彼らだけでは無い。彼の専属魔法少女もまた、彼の尊さに脳を焼かれ、彼を安全な世界で暮らすことを誓っていた。

…彼の知らないところで、最神遥の為の世界征服が始まっていたのだった。


終わり

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