ちょうちょ ~非現実な私~

 あと半年。

 それで私は高校生で無くなる。

 私にとってそれは、まるで背中にヒビが入ったさなぎのようだった。


 義理の父が再婚する。

 それを聞いたのは先月の事だった。


 実の両親にネグレクト同然の扱いを受けていた私にとって、引き取ってくれた今の家は人生の転機だった。

 人並みの幸せと言う名の天国。

 それを与えてくれた義理の両親に私は感謝し、義理の母が事故で亡くなった後……私は義理の父……パパに対する気持ちに気付いた。


 私が支えよう。一生。

 あの人よりもずっと上手く支えられる自信がある。

 身も心も……


 そんな時、パパから再婚話を聞かされた。

 相手は同じ職場の後輩の女性。

 小動物のような可愛い人。


 私は自分の中がポッカリと黒い空洞になるのを感じながらあの女と会った。

 パパの同期の男性……真鍋信二まなべしんじさんもその場にいた。

 真鍋さんが二人を結び付けたらしい。


「お前みたいなのが一人でいたら、雪ちゃんも辛いだろ?」と。


 誰も頼んでいない。

 私を勝手にバッグのチャームみたいに扱うのはやめて欲しい。

 真鍋さんはいつもそうだった。


 頼んでも居ないくせに、私とパパの間にずかずかと入ってくる。

 物語ならば「正義の側」

 俗に言う「いい人」

 でも……その光の眩しさがたまらなくうっとおしい。

 チカチカと目にうるさい。


 人の事より自分の奥さんの方はどうしたの?

 その能天気さにも激しくイラついた。


「真鍋さん、そんなに私の事思ってくれてたんだ。嬉しいな」


 にこやかに微笑みながら真鍋さんを見る。


「もちろんだよ。雪ちゃんは親友の娘だからね。僕にとっても大切だから」


 へえ……いい笑顔ですね。

「一点の曇りもない」ってやつ。

 本当に正しい人なんだな……


 パパも真鍋さんについては、その人間性をいつも絶賛してた。


「ねえ、真鍋さん。色々勉強で相談したい事があるからライン交換してくれませんか?」


「もちろん。でも、僕より雪ちゃんの方が頭いいと思うよ」


 笑いながらライン交換してくれた。

 その夜。

 私は彼に早速ラインを送った。


 来週金曜日の夕方、勉強の事で相談したい事がある、と。


 ●○●○●○●○●○●○●○●○


 金曜日。

 私は空っぽの家で真鍋さんを待った。


 パパは私が強引に手配した海辺のホテルに彼女と一泊旅行。

 上手く行かなかったらつまんないと思ってたが、スルスルと上手く行った。


 やがてやって来た真鍋さんに部屋に来てもらい、勉強を教えてもらった。

 その間も身体が震える。


 さあ、いよいよだ。


「ちょっと……お手洗いに行ってくるね。すぐ戻るから」


 私はそう言って部屋を出る。

 そして隣の部屋に入ると、着ている服を脱いでいく。

 一枚一枚。


 そして生まれたままの姿になると、廊下に出た。

 身体がひんやりする。

 裸で家の廊下を歩く。

 子供の頃だってやったこと無い。

 信じられない、ありえない行為。

 皮膚を撫でるどこかヒンヤリした空気にゾクゾクする。


 これで……あの人の。

 あの、曇りの無い視線を浴びたら……

 全身に鳥肌が立ち、胸の先っぽが固くなるのが分かる。


 私はドアの前に立つ。

 このドアを開けたら……引き返せない。


 ねえ、パパ……こうさせたのは……あなただよ。

 あなたと……ドアの向こうの反吐が出るような「正しい人」


 私は唇を歪めると、ドアを開けた。


 丁度ドアを見ていた真鍋さんは、全裸の私を見て目を見開いて椅子のまま後ずさりする。

 面白い……ホントに後ずさりするんだ……漫画みたい。


 私は自分が優位に立っている事を確信して、全身に鳥肌が立った。

 そして……彼の視線。


「雪……ちゃん、何で……いや……これは……」


 必死に目を逸らしている。

 でも……目線はしっかり私の胸に。

 私を……見てる。

 その視線に鳥肌が立つ。


 こんなの……映画でしか見たこと無い。

 私……非現実に生きている。


「真鍋さん……見て」


「雪ちゃん……服を、着……て」


 必死に目を閉じているけど、薄目が空いている。

 顔が滑稽なくらい真っ赤だ。

 なんて愚かで……可愛いんだろう。


 私は真鍋さんに近づくと、手を取って自分の右胸に当てる。

 水に濡らしたような彼の掌が、私の胸にまるで吸い付くようだった。


 私……支配してる。

 彼の手が離れようとしない事に笑えて来た。

 ねえ、奥さん……いるんだよね?


「ねえ、奥様……いいの?」


「やめよう……雪ちゃん……ダメだ。……なんで」


 私は彼にもっと近づくと、そっと彼の頭を抱き寄せて、自分の胸に埋めた。


 彼の熱い息が胸にかかって、胸の先っぽがツン、と固くなるのが分かる。

 凄い、今……私はどこを生きてるの? ねえ……パパ?


 私は両腕と胸で彼の頭を丸ごと包み込むと、耳元で囁いた。


「あげる。全部、あなたのものだよ」


 さあ、どうするの?

 私はもうお腹一杯。

 証拠ももらっちゃったし。

 後は……お好きに。


 私は両胸に彼の顔を埋めたまま、胸を動かす。


「ねえ、ここ……ツンツンして、痛いの」


「……え?」


 真鍋さんは顔を真っ赤にして私を見上げる。

 まるでお酒を飲みすぎてるみたい。


 私は胸の先っぽを、彼の口に近づける。


「……痛いの。真鍋さん……どうしようね」


 真鍋さんは呆然と私の先っぽを見ると、やがて舌を出して……舐めた。

 私はわざと切なげな声を上げる。


「ん……ありがと……」


「痛いから……だから……」


「うん、そう……痛いの。先っぽ。だからもっと……あっ」


 彼はそのまま舐めながら、私のお尻に両手を当てる。

 あれ? そこまで言ってないのに……いいのかな?


 私は胸の先っぽを吸い始めながら、お尻を触っている彼の耳にキスをする。


「真鍋さんの匂い……好き。ねえ、もっと……欲しい」


 そう言って彼の耳にそって舌先を這わせる。

 彼は身体をビクッと震わせると、なにかが外れたように私の胸にキスし始め、噛み付いた。


「んっ……噛んじゃ……やだ」


「雪ちゃん……雪……好きだ」


 ……あ。

 言っちゃった。


 私は、身体の奥に広がる妖しい疼きを感じながら、彼の耳を舐める。

 胸の先っぽは電流が走るような快楽で、赤ちゃんの様にそれを吸っているこの人の姿がパパに重なった。


 その途端、私は思わず囁く。


「ここじゃヤダ……ね」


 その途端、真鍋さんは私を床に押し倒し、ズボンを破るかのように乱暴に脱いだ。

 下腹部には彼のそそり立った大事なものが見え、それをまるで犬のように私の太ももにこすりつけ始めた。

 まるでマーキングみたい。

 そっか……私は「彼のモノ」になるんだ……


 あ、なんだか冷めてきちゃった。

 まずいな、まだ終わってないのに。


 そう思った時、彼は私の両足を広げた。

 そして私の秘密の場所を、うっとりとしたように見つめる。


 あの品行方正な真鍋さんが……

 私からパパを奪った人が……私に支配されてる。


 そう思うと一気に興奮して秘密の場所がじゅわ、っと何か滲むのを感じた。


 私は自分が何かの物語の一部になったように感じる。

 さなぎだった私が……何かに変わる。

 異形の何かに……


 そう思うと何かに陶酔するような気持ちになり、うっとりと言った。


「私を……汚して」


「……入れるよ……雪」


「来て……壊して、私を」


 次の瞬間、下腹部に裂けるような痛みが走り、思わず顔をゆがめたが真鍋さんはそんな私に構わず、まるで動物の交尾のように乱暴に腰を動かしている。


「痛……い」


「雪の……初めて……雪……」


 その声を聞きながら、私はフッと窓に目を向けた。

 ……ちょうちょ。

 特に珍しくも無いちょうちょ。

 でも、なぜかたまらなく愛おしくなった。


 そして、私は彼の背中に手を回す。


「もっと……壊して……汚して」


「雪……出そう……」


 私は背中に回した手に力を込めた。


「全部……下さい。……全部……欲しいの」


 ●○●○●○●○●○●○●○●○


 私は呆然とする真鍋さんの横で、床に垂れた白濁液を拭きながら彼を見る。


「また、会おうね。真鍋さん」


「僕は……ごめん、家族……」


 私は言いかけた彼の背中に抱きつき、彼の手を取ると、自分の下腹部に導いた。


「ここ……あなたがいる。ね? 感じる……」


 顔を引きつらせる真鍋さんを、私は微笑みながら見つめる。


 そして窓の外をチラッと見る。

 もうちょうちょはどこにもいなかった。

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欠陥品少女 京野 薫 @kkyono

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