第6話 練習を終えて

「…………ふぅ」



 それから、しばらくして。

 小さく息をもらしつつ、ゆっくりとした足取りで帰り道を進んでいく。……ふぅ、疲れた。やっぱり大変だったなぁ。ランニングとかダッシュとかは結構できたと思うけど、キャッチボールとか守備練習とかボールを使うことはやっぱり全然で……うん、でもまだまだこれからだよね! ……ところで、それはそれとして――


『――あたし、あんたのこと嫌いだから』


 キャッチボールを始める前、すぐ近くでボソッと言われた高畑たかはたさんの言葉。うん、こんな時期に急に入ったわたしが歓迎してもらえないのは、なにもおかしくないと思う。思うん、だけど……でも、そこまで言われちゃうことしたかな? わたし。そもそも、クラスが違うのもあって、これまでお話ししたこともなければきっと顔を合わせたことすらも……うん、気にしてもしょうがないか! まだ初日だし、これから仲良くなれるかもしれないし! ……ところで、それにしても――



「――実松さねまつさん!」


「……へっ?」


 すると、突然後ろから届いた声。振り向き見ると、そこには息を切らした綺麗な男の子の姿があって。



「……えっと、どしたの? 鴇河ときかわくん」


 そう、ポカンと尋ねてみる……えっと、どうしたのだろう。もしかして、わたしがなにか忘れ物をしたから届けに……いや、それはないかな。部室を出る時、ちゃんと全部チェックしたはずだし。でも、だとしたらいったい――


「……その、今日はどうだったかなって。本当は練習のどこかで聞きたかったんだけど、なかなかタイミングがなくて……」

「……あ」


 すると、控えめにそう尋ねる鴇河くん。……そっか、それを聞くためにわざわざ追いかけてきてくれて……うん、ありがとう鴇河くん。そんな優しい男の子に、ゆっくりと口を開いて――


「……うん、ちょっと大変だったけど……でも、すっごく楽しかった。ほんとだよ、鴇河くん」

「……実松さん」


 そう、笑って答える。うん、これは本心。大変だったけど、ほんとに楽しかった。お家で漫画ばっかり読んでた今までの日々に、パッとたくさんの色がついたみたいに……あっ、漫画が悪いわけじゃないんだけどね。漫画は好きなんだけど……でも、野球をする代わりに漫画を読むのをやめろって言われたら、きっと簡単にやめられちゃうくらいで。それくらい、みんなと一緒に何かを頑張ることがこんなに楽しいなんて思ってもみなくて。だから――



「……その、まだまだできないことばっかりだけど……でも、わたし頑張るから。だから、これからもよろしくね、鴇河くん」

「……うん、もちろんだよ実松さん。これからも一緒に頑張ろうね!」


 そう、真っ直ぐに見つめて伝える。すると、ニコッと微笑み答えてくれる鴇河くん。うん、これからもよろしくね!







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