死者が集う喫煙所

Ayakamy

秋空の思い出

 そこは、死者が集う喫煙所。

 アメ車が似合いそうなコッペパンみたいな肌の小柄なおじいちゃんが、でかい鼻にサングラスを乗せながら、ウイスキーで割ったホットコーヒーを片手に、ごっつい葉巻をふかしていた。

 スポーツセンターの体育館裏にある野外の喫煙所。真緑の灰捨て缶には、灰に混ざって落ち葉と虫の死骸が溜まっている。

 僕はおじいちゃんの隣で、並んでタバコをふかしている。学生なのにいいのかって?大丈夫、もう死んでるんだから、そんなものは関係ない。


 しばらくチルいモードに浸っていると、おじいちゃんが僕に話しかけてきた。

「遊ばなくていいのかい?バスケ好きそうな顔してるのになぁ」

「人を見た目で判断しないでくれ。まぁバスケは好きですが。」

僕はもう一口、煙を吸った。

 おじいちゃんは僕の制服を見て、怪訝そうな顔で話を続けた。

「制服、ピシッと着こなして。オマエさん、良いとこのおぼっちゃまだろう。」

その通りだった。


 生前に所属していたバスケ部は、とても厳格で厳しい部活だった。

当時の僕は、必死にそれに喰らい付いていた。

 そんな練習生活のほんの隙間の時間、僕はアウトローな漫画作品にハマっていた。

 自分と同じ歳くらいのキャラクター達が、酒やタバコをやるのが、爽快で、羨ましかったんだと思う。


 ある日の休憩時間、僕は一人でその漫画を読んでいた。

 すると、横から友人が覗き込んできてこう言った。

「大人になったら一緒にやろうか。何の銘柄がいい?」

僕は知ったかぶりをして、マルボロがいいって答えた。


 僕らは水筒を取り出して、お互いの蓋を盃に見立て、スポーツドリンクで乾杯した。

 秋の新人戦の、少し前の出来事だった。


 「僕は大人になる前にこっちに来てしまったから、その友人とは、一緒にタバコ、やれなかったんだよね。」

隣のおじいちゃんに冗談ぽく話すと、おじいちゃんは静かに頷く。

「でもよ、その友達はきっと今頃、あっちの世界でタバコふかしてチルってんだろう?

世界は違えど、どっかしらでは繋がってるんでねぇかい?俺はそう思うよ。」


 それから僕はおじいちゃんにスポーツドリンクを奢ってもらった。

僕はおじいちゃんの携帯しているウイスキーでそれを割る。

 左手にスポーツドリンクのウイスキー割り、右手にタバコ。

 隣にいるおじいちゃんは、左手にコーヒーのウイスキー割り、右手に葉巻。

 僕達は空を見上げながら、ゆるく乾杯した。


 カラカラと乾いた風がなびく青空に、2本と1本の細い煙がくゆらいでいる。

 天国のタバコも悪くないなと、僕は少しだけ、そう思った。

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死者が集う喫煙所 Ayakamy @Ayakami_to

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