第3話 ギルドのお仕事

 ギルドに到着した私は、着替えをする為に更衣室へ向かう。受付嬢の制服はジャケットとスカートで、胸元にリボンを結ぶ。この制服目当てに受付嬢になる子もいるくらい、素敵な制服で私も気に入っている。

 更衣室を出た私が最初に向かうのは『監視班』の部屋だ。ここでは主に魔物の動きを監視していて、居場所の特定をするのが彼らの仕事。監視班がいなければ、どこにどんな魔物がいるか把握できないのだ。情報は日々更新されるので、私は毎朝監視班に立ち寄って、何か新しい情報がないか調べている。


「そう言えば、さっき飛行船が飛んでいるのを見ましたよ。こんな朝早くに討伐ですか?」


 私はふと監視班のビルさんに尋ねた。討伐者ギルドは基本的に一日中開いているが、深夜から早朝は依頼の受付をしていない。飛行船もこの時間帯に飛ぶことは殆どない。もしもあるとすれば、何か緊急の依頼が来た時くらいのものだ。


「ああ、あれね……討伐じゃないよ。アメリアさんが王都に呼ばれたから、今朝出かけて行ったんだ」

「アメリアさんが? そうだったんですか。急な呼び出しですね、何かあったんですか?」

「さあねえ、王都の呼び出しはいつも急だから……」


 ビルさんはため息をつきながら答える。『討伐者ギルド』の本部は王都にあり、各地に支団と呼ばれる各ギルドがある。討伐者ギルドは国王が正式に認めた組織だ。王都からの呼び出しということは、すなわち国王からの呼び出しということになる。定期的にうちの支団長であるアメリアさんは王都の呼び出しに応え、出かけていく。王都はとっても遠いけど、飛行船で行けばあっという間だ。私は王都に行ったことがないから一度行って見たいと思うけど、馬車と船を乗り継いで旅をする暇も、当然お金もない。


 監視班には気象を調べる担当者もいるので、ついでに周辺の天気のことも聞いておく。天気は意外と大事で、矢のように降り注ぐ雨とか、凍てつくような吹雪とか、天気によって魔物退治の難易度や対策が大きく変わってくる。先日アレイスさんに紹介した依頼先も、何日もずっと天気が悪く雨と霧のせいで視界が悪いという。視界を一時的に良くする『目薬』を持って行けば魔物と戦いやすくなるので、討伐者さんには薬を持って行くように勧めることもある。



 監視班に立ち寄った後、ようやく自分の持ち場へ行く。受注担当官のバルドさんに挨拶をして、受付カウンターに入る。受付は二人で担当し、交代制で働く。今日の相棒は私の友人でもあるリリアだ。リリアは先にカウンターに入っていた。


「おはよう、エルナ!」

「リリア、おはよう」


 リリアは私と同い年の二十二歳。ギルドに入った時期も一緒で、ずっと仲良しだ。でもリリアの性格は私と正反対。ふわふわとカールした赤い髪に赤い瞳を持つ彼女はとても魅力的で可愛らしい。明るくて誰とでも仲良くなれる。当然男性にも人気があり、彼女には常に恋人がいる。今はうちのギルドに所属するセスという討伐者と付き合っているけど、他の討伐者も虎視眈々とリリアを狙っているのが丸わかりだ。リリアがいる時は、リリアの受付待ちがやけに多いのだ。


 リリアは何度もあくびをかみ殺していた。明らかに眠そうで、なんだかぼんやりとしているように見える。


「リリア、寝不足?」

「そうなの、聞いてくれる!? セスが昨日依頼を終えて帰ってくる予定だったから、沢山ご馳走を用意して待ってたのに結局戻らなかったのよ!」

「そうなんだ、何かあったのかな。依頼先はどこ?」

 

 私は気になって、後ろの壁に貼ってある大きな地図を見る。地図は『ミルデン支団』が担当する地域全体を描いたものだ。


「北の『龍の牙』の辺りだって聞いてるけど」

「龍の牙か……あの辺りは昨日濃霧だったみたいだから、飛行船が飛べなかったのかもね」

「そうだといいんだけど。仲間とどこかの町で飲み歩いてるんじゃないかと思うと、なんだか腹が立ってきちゃって!」


 セスが向かった場所の近くには酒場や宿屋もある町があるから、討伐者はそこで宿を取るはずだ。無事に討伐が終われば、討伐者達は酒場で一晩中飲み明かす。命がけで魔物と戦うのだから、多少羽目を外すのは仕方がない。ここ『ミルデン』の酒場も討伐者達で常に賑わっている。

 セスの仲間はみんな大酒飲みばかりだ。彼らは悪い人達ではないけど、ちょっと羽目を外しすぎることがある。リリアはそれを心配しているのだろう。

 討伐者は自分の力に自信を持っているし、彼らのおかげで魔物を倒せるから私達『普通の人』からは尊敬されている。それをいいことに、ちょっと調子に乗る討伐者もいる。


「リリアが待ってるんだし、きっと今日にも帰ると思うよ」

「ありがと、エルナ。そうだといいんだけどね」


 リリアがようやく落ち着いたのを見て、私もホッとする。今日も討伐者ギルドの一日が始まった。扉が開き、早速討伐者達がぞろぞろとギルドに入って来る。


「おはようございます!」


 私は笑顔で討伐者を出迎える。カウンターテーブルの上には凶器になりそうな分厚さの本。この中には、ミルデンのギルドに所属する全ての討伐者の情報がある。私は顔を合わせる討伐者の顔と名前をできるだけ覚えるようにしている。さすがに初対面は無理だけど。討伐者がカウンターにやってきたら、笑顔で挨拶をしながら素早く分厚い本をめくり、討伐者の情報を開く。そして彼らにぴったりな依頼をいくつか選び、提案するのだ。


 討伐者を適した場所へ派遣し、怪我なく戻ってこられるよう祈り、お見送りをする。朝はこの繰り返しだ。忙しく彼らを見送り、時間はあっという間に過ぎて行った。

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