第3話『崖の下、深淵の門』

 果てしない草原が夕陽に染まり、風に揺れる草の波がどこまでも続いている。

 強化外骨格パワードスーツの駆動音のみが、単調な道中で響く。


 ………………。


「なんも出てこねぇじゃん!!なんだこの世界、ドラゴンとスライム二匹だけか!!」


 どんなに文句を垂れても、目に映るものは、草と草と草。


 足元では、鋼色のスライムが何度もぶつかってきて、『遊んでくれ』と言わんばかりに跳ねている。


「やめい!今はそういう気分じゃねぇんだよ!」


 スライムは一瞬止まり、キラキラした表面を震わせてねたような仕草を見せる。

 くそっ、愛らしい!


 その後も数時間、適当に歩き続けた。


 観光地もゼロか。

 せめてダンジョンくらいあってもいいだろ。

 いや、あっても、危なそうだからスルーするけど………。


 草原のなだらかな起伏が途切れ、地面が突如として、切り立った崖に変わる。


 これだけ歩いて行き止まりか。


 崖の下を覗く。


「…………!!」


 黒々とした岩場の階段があった。


 降りてみる。


 苔むした石柱が不規則に並んでいて、そして、ぽっかりと空いた巨大な洞窟。


「マジで、ダンジョンきたよ……」


 中を覗き込む。

 奥底が見えず、闇がどこまでも続いている。


 スライムが穴の縁に近づき、キョトンとする。


「なんだ、お前も興味あんのか?いや、入んなよ、マジで 」


 スライムを軽く足で押しのけつつ、周囲を見回す。


「絶対ヤバいだろ……誰が好き好んでこんなとこ——」


 真新しい靴跡が穴に向かっていた。


「……………」


 こうなると、話が変わってくる。


 どうする?

 やっぱ、入るか?

 こういうのって、モンスターとかつきものだよな。


 いや、それより現地民と遭遇した場合、なんて言えばいい。


 よく分からん光に飲まれて、この世界にやってきました助けてください!


 いやいやヤバすぎる、即、通報案件じゃねぇか。


 ————ァ゛ア゛ッ


 風向きが変わり、穴奥から叫び声が聞こえてきた。


 声は遠いが、確かに人間のものだ。


 こいつは。

 聞き慣れた、絶望と恐怖に満ちた叫び。


 明らかに只事じゃねぇ。


 この先危険なのは、百も承知だ。

 だが、足はすでに動き始めていた。


「…………おい」


 スライムに呼びかける。

 『へ?』みたいな反応をしている。


「お前は来んな」


 そうして俺は『ダンジョン』の入り口へと足を踏み入れた。

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